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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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なおも雑談

 まだ注文した料理がテーブルに届いていないので、話を続けるアバヤ医師だ。他の有料会員達も、彼と同じようなニンマリ顔をしている。

「この時間帯は、学生客が殺到するからな。皆、大食いだから、料理が出てくるまでに時間がかかるんだよ」

 確かに、二十数名の学生が、ピザやパスタの調理カウンターの前に陣取っている。

 テーブルでは、女子学生達が騒がしく談笑しながら、ケーキや生菓子を囲んで食べていた。これに、ラフな身なりの、外国人観光客が加わっている。


 ポカラは学校や大学が多く、学生の街でもある。

 学生は学生服を着ているのだが、男子学生は、白い半袖や長袖シャツに、紺や紅系統のネクタイを締めていて、紺の学生ズボンと黒の革靴を履いている。

 一部のヒンズー教やイスラム教の私立学校では、宗教的な制服を着ているが。まあしかし、その手の学生は、こういった店には、客として来ない。

 女子学生では、男子学生と同じような、洋装の制服を着る学校もあるが、サルワールカミーズである学校も多い。見た目は豪華な寝間着だ。

 その制服の場合、学校では完成品を売る事はしない。生地だけを指定して、生徒各自で仕立ててもらう。

 生徒は、その指定された生地を使って、自由なデザインでサルワールカミーズを仕立てる。もちろん、自力で仕立てても良いのだが、多くはダマイと呼ばれる服飾カーストの店や、普通の服屋に注文する。


 そのため、女子学生は皆、同じ生地でありながらも、それぞれのシャツであるカミーズの丈や袖、襟のデザインが異なっている。

 ズボンであるサルワールも、ゆったりとした仕立てであったり、膝下から細くなったり、タイツ状にしたりと自由だ。今の流行は、ラッパ型や、筒の大きいタイプのようである。

 肩にかけるストールも同様だ。軽いグラデーションをかけたり、ちょっとしたワンポイントのアクセサリーや、刺繍を入れたりと、軽いコーデも自由。

 それでも、一緒に歩いていると、同じ学校のお揃いの制服だと、一目で分かる。

 ちなみに、学校によっては、シャツとズボンの生地を別に指定したり、ストールだけは指定を外して、生徒の好みに任せたりしている所もある。また、サリーが制服である学校もある。


 これらは私立学校で主に採用されている。公立学校では、青いシャツにネクタイと、濃紺のズボンかスカートで固定されている所が多い。

 ピザ屋でたむろするような学生は、私立学校の生徒が多いので、制服も多様だ。


 ゴパルもアバヤ医師に言われて、改めて学生達を見た。

「私の仕事先は大学ですから、基本的に私服です。事務職員も制服では無いですね。しかし、食事の楽しみ方に、そのような方法があるとは……」

 アバヤ医師がチーズを一切れ摘んで、赤ワインを一口飲んだ。実に美味そうに飲んでいる。

「まあ、ただの国産テーブルワインで安物だがね。チーズも同様だな」

 レカが、ムッとした表情になったが、特に何も言わなかった。アバヤ医師が、ワイングラスを置いた。店内の喧騒を、目を細めて眺める。

「この店に居る学生や、旅行者はな、男も女も区別なく、今後、何かを成し遂げる可能性は低いものだ。何かになる可能性も低い。しかし、もしかすると、何かになったり、何かを成し遂げたりするかもしれない」

 他の有料会員が、ウンウンと、無言で同意している。

 アバヤ医師が、実に楽しそうな笑顔になった。

「そういう、ふわふわ危ういモノを眺めるのは、最上級の娯楽の一つじゃないかね?」


 サビーナがジト目になって一言。

「趣味悪いわよ。常連客リストから外そうかしら」

 カルパナとレカが、即、うなずいている。

 ゴパルは微妙な顔だ。

(大学生のヨレヨレのシワだらけ、毛玉だらけの私服に比べると、確かに制服は見栄えがするかなあ……)

 協会長も、両目を閉じて困った表情をしている。

 アバヤ医師が、サビーナに向けて、チチチと指を左右に振った。

「本気で目の保養をするならば、カンニャ大学の前にあるカフェに行くわい。あの大学は、ファッションショーを開くくらいに、美術的な才能のある学生が、男女問わず多いのでな。しかしな、御馳走は、三食毎日食べるものじゃない。こういった気楽な食堂で、息抜きする事も必要なのだよ」


 かなり呆れた様子のサビーナとカルパナ、レカだ。もはやコメントをする気も起きないらしい。

 カンニャ大学は、ポカラ市内にある有名な芸術系の大学だ。伝統的な芸術から、前衛芸術まで幅広く学生を集めている。

 そんな三人の顔を、実に楽しそうに眺めながら、アバヤ医師が補足した。

「万年雪と氷河に輝くアンナプルナ連峰を、毎日眺めるのも、悪くは無い。しかし、牛糞臭い里山を眺めるのも、それはそれで楽しいものだよ。さて、料理が届いたようだな」

 アバヤ医師が、愉快そうに、くっくっくと、低く笑いながら、テーブルの上に次々に置かれていくオムレツとスープを眺める。オムレツもスープも、トマトを多く使っているようで赤い。

「無論、美味い料理と酒を頂きながらだと、さらに良い娯楽に昇華する。そういう意味で、今回の農業改革には、ワシは大いに期待しているのだよ。さ、そこそこ美味い料理が到着だ。食おうじゃないかね?」

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