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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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雑談

 早速、協会長が、スペイン風オムレツと、ミネストローネスープを人数分注文した。食堂スタッフが復唱して、調理場へ伝えに行く。

 その後ろ姿を見送った協会長が、ゴパルとカルパナに顔を向けた。少し、いたずらっ子みたいな表情になっている。

「どちらもトマト入りにしました。カルパナさんが指導する農場で、生産している雨期トマトですね。この時期のトマトは、普通は日照不足で赤くなりにくいですし、収穫量も低いものです。ですが、このトマトは違いますよ」

 カルパナが照れている。

「まだまだ収穫量が低いですよ。ホテル協会全体の需要には、到底及びません。それに、日照不足は、有機農業でも解決する事は難しいですね。なかなか赤くなりません。花摘みを強くして、実の量を少なくしているだけです」

 それから、店内の中央奥にある、花壇に視線を向けた。今も大勢の学生や観光客が、花を背景にして写真を撮っている。

「花も同じですね。無理をかけない栽培方法ですので、病気の発生は少ないのですが、出荷量は下がってしまいますね」

 サビーナが、頬づえをつきながら、優しい目でカルパナを見つめた。

「確かに、有機トマトの生産量が少ないのが問題なのよね。いくら品質が良くたって、量が少ないと使えないのよ。現状では、あたしのレストランと、このピザ屋だけで、使い切ってしまう。花も似た様なものね」

 レカは、若干、挙動不審な動きになりながらも、努めてカルパナを励まそうとしていた。

「い、育種学のゴビンダ先生とか、こ、こここ工業大のスルヤ先生とか、頑張ってる。と、突破口もいつか、ひ、開けるって。そ、そそれに、微生物学のゴパルせんせーも加わったしっ」


 ね! と、レカに話を振られたゴパルが、少し困ったような表情になった。

「私ではなくて、クシュ教授ですけれどね。私の仕事は、アンナキャンプでの低温蔵の建設ですし……」

 そう言ってから、口調を明るくした。

「ですが、育種や機械を使った改良事業を、手助けする事は出来ると思いますよ。育種については、新品種を作る方向ではなくて、在来種の強化を目指す動きもあります。眠っていたり、機能不全になっている遺伝子って、結構ありますから。共生菌や細菌を活用する育種方法もあります」

 カルパナが視線をゴパルへ向けた。まだまだ半信半疑の色が濃いようだが。

 カルパナや協会長から、それ以上のコメントが出なかったので、ゴパルが話を続けた。

「日照不足については、人工照明が本筋ですね。それを補助する目的で、光合成細菌の散布を併用すれば、生産が安定化すると思いますよ。作物の葉で作る栄養を、光合成細菌でも作って補うという考え方です」

 ……とは言ったものの、カルパナ達は専門家ではないので、あまり理解できていない様子だ。

 コホンと小さく咳払いをして、反省するゴパル。

「とりあえず、KL培養液を使えば、堆肥や有機肥料の増産は、楽になるはずですよ」

 アバヤ医師が、ニヤニヤしてゴパルに告げた。

「話し方が下手だな、おぬし」

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