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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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空港向けタクシー

 バクタプール大学から、トリブバン国際空港までは、タクシーで三十分ほどの距離にある。しかし、小雨が降り続くので、道が渋滞になっていた。国内便は、国際空港の横にターミナルが付属していて、同じ滑走路を共有している。そのため、タクシーの行き先も、大よそ同じだ。

 タクシーでは助手席に座っているのだが、足元が錆びているので、座席の隙間から地面が見える。窓ガラスは、手動でも上下に動かせない仕様であった。

 サスペンションも相当にヘタっている様子で、地面の凹凸がダイレクトに座席に伝わってくる。ネパールは幹線道路であっても、穴だらけなので、座席に座るにも腰を痛めないようなコツが必要だ。

 ゴパルはネパール人なので、このコツを習得している。まあ、この事態は予想していたので、のんびりとスマホをいじるゴパルであった。

「お。更新されてる。毎日こまめに更新しているのか」

 ポカラのホテル協会のポータルサイトを呼び出して、感心するゴパルである。今日の話題は、レイクサイドに先月開店した、二十四時間営業の食堂の新メニューについてだった。

「へえ。ネパール料理と北インド料理の店なのか。雨期で外国人観光客が少ないから、地元客を優先しているのかな」


 ネパール料理と北インド料理は、基本的にカレーや香辛料炒めばかりなのだが、香辛料や調理方法の点で両者には差異がある。さらに加えて、民族ごとや家族ごとによっても、かなり料理の内容が変わる。

 この二十四時間営業の店では、ビュッフェ型式で料理を提供していた。日本でいう所のバイキング形式だ。客にイスラム教徒が多いのだろうか、ハラル認証を得ていると記載されていた。


 ゴパルが、軽く首をかしげた。

「と、言う事は、キッチンから食器から全て、イスラム教徒専用になっているのか。ヒンズー教徒や仏教徒向けは、別に作っているんだろうな。結構、広い店かも」

 ゴパルは、ヒンズー教徒シバ派である。クシュ教授は仏教徒だ。

 そのヒンズー教徒や仏教徒向けのビュッフェは、野菜料理が半分の品数を占め、肉料理が残り半分、そして魚料理が二品の割合だった。牛肉料理は当然ながら無い。

 どれもカレーや、香辛料炒め、香辛料炒め煮、香辛料炭火焼きといった調理方法だ。鶏肉、豚肉、それに去勢山羊肉、魚は鯉とナマズにテラピアだった。仏教徒向けには、水牛肉の料理も追加で出されている。野菜は雨期なのでウリが多い。

 スープは豆のダルが三種類。ネパール料理では、見た目が黒っぽい黒ダルが美味しいとされているので、これがある。他には、一般的な黄色いレンズ豆を使ったダルと、赤い油が浮いたダルの香辛料炒め煮がある。揚げダルだ。

 これに白ご飯と、ビリヤニが供されていた。焼きそば、ナン、ローティ、チャパティは、注文が入ったら作る型式だ。ローティには、卵入り版がある。卵料理は、これだけのようだ。他には、チベット系住民が居るので、蒸し餃子であるモモがあった。汁麺は無かった。

 最後に、果物やインド菓子と呼ばれるケーキや揚げ菓子、それにプリンが、デザートとして供されていた。どれも、砂糖を香辛料の代わりに使っているようなもので、激甘である。最近は、プリンや水菓子を中心に、甘さ控えめの物も増えてきているが。

 飲み物は、チヤとコーヒー、炭酸飲料に果物ジュース、ラッシー等があった。ビール等のアルコール飲料は無い。


 イスラム教徒向けのビュッフェ料理も、調理方法は同じだ。牛肉料理が追加されて、豚肉が排除されているが。カバブといった肉や魚、野菜の串焼きは、注文を受けて料理するという形式になっている。タンドール釜を使う料理も、注文を受けてから焼いている。

「ふむ。食事と軽食ができるのか。なるほどね。二十四時間営業というのは便利だな」

 しかし、長居はできないようである。テーブル単位で、最大四時間までしか居る事ができないシステムだ。さらに居残る場合には、三十分ごとに追加料金を支払う事になっている。

 ゴパルの目が、キラリと輝いた。

「お。挽肉の団子の串焼きもあるのか。珍しいな」

 牛の挽肉だけを使った肉団子に、ハーブや香辛料を混ぜてまとめ、串にさして焼き上げる料理である。もちろん、ヒンズー教徒であるゴパルには、食べる事ができない。なので、残念そうな表情で、他の料理を見て回る事にする。


 一通り、各宗派向けのメニューを見たゴパルが、再び首をかしげた。

「ん? 中華料理や、欧米の料理は無いのかな」

 確かに、見当たらない。スマホで探すと、数分ほど歩いた、少し離れた所にある、別の食堂が中華料理で、欧米客向けにはピザ屋があった。これも二十四時間営業と記載されている。こちらでは、アルコール飲料が提供されているようだ。ただし、ここも四時間システムになっていた。警官も巡回しているとある。

 他に探してみると、この地区のスーパーや、タクシーも二十四時間営業だった。無料の無線ネットも店内に設けられている。

 ゴパルが目を閉じて唸った。

「うむむ……首都よりも便利じゃないか? これって」

 観光案内のブロックを見ると、ポカラ市内にあるというヒンズー教のビンダバシニ寺院と、バドラカーリー寺院での結婚式の様子が映し出されていた。雨が降っていないので、雨期が始まる前に撮影されたのだろう。

 他には、岩砂漠に囲まれた、ジョムソンとムクチナート、それにマナンの風景を映した動画がいくつかあった。これらの地域は、アンナプルナ連峰の、雨の少ない北側にあるので、乾いた風景になっている。

 サイトの下の方には、各種の寄付を募るリンク集が、まとまって紹介されていた。ヒンズー教の聖者や、修験者の世話をするための寄付の受付もある。同じく、チベット寺院や、イスラム教のモスクへの寄付先もあった。

 タクシーが、空港の前の上り坂に差し掛かった。座席が傾いたので、スマホの電源を切る。

「着いたか。さて、チェックインするかな」

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