ポカラ到着
ナヤプルでは、ポカラ行きのバスが停まるので、そのバスに乗ってポカラへ到着するゴパルであった。バグルン発のバスだったので、満席だった。
当然のように、ゴパルがバスの屋上の荷台に座る。
「雨が降っていなくて良かったよ」
バスがノロノロと黒煙を大量に吐き出しながら、坂を上っていく。走った方が速いようなノロノロ具合だが、分水嶺を越えると速度が上がり始めた。
屋上荷台から周囲の風景を眺めると、茶屋が見えた。すぐに通り過ぎてしまったが、見覚えがある。カルパナ種苗店のスバシュがチヤを飲んで寛いでいた店だ。
今回は、彼の姿は見当たらなかった。雨が上がったので、野良仕事をしているのだろうか。
「ナウダンダ……という集落だったかな、ここは。涼しくて、過ごしやすい場所だね」
スマホで標高を調べると、カカニよりも百メートルほど低い、千七百メートルだった。
確かに、ジャガイモが育っているし、イチゴの苗畑も見える。しかし、道沿いにはナウダンダの集落は見当たらないので、もっと高い場所にあるのだろう。
ポカラ市内へバスが入ると、交通警察の検問があるので、ゴパルは車内へ移動する事になった。もちろん、満員だ。
ポカラのバスパークへ到着したのは、夕方前だった。亜熱帯の暖かく湿った空気に包まれて、背伸びをする。アンナプルナ連峰は、やはりカケラも見えないままだった。
バスから降りて、今度は市内循環バスに乗り換える。さらにボロボロなバスになった。まあ、慣れているので、特に気にしないゴパルだ。
「ああそうだ。ラビン協会長さんに、私がポカラへ到着した事を知らせておこう」
部屋の予約と、その再確認は済ませてあったのだが、念のためにメールしておく。
ルネサンスホテルにゴパルが到着すると、ロビーで協会長が待っていた。ゴパルの姿を見つけると、ニコニコ微笑んで合掌し、出迎えてくれた。
「お疲れさまでした、ゴパル先生。何も、バスを利用しなくても、我々が出迎えに向かいましたのに。しかし、服に血痕が付いていますねえ。森の中で仕事をし過ぎですよ」
ゴパルも合掌して挨拶し、ホテルのチェックインを済ませた。
「血だらけになりましたが、その分、良い採集ができました。バス利用は、そうですね、次回からは、ホテル協会の世話になろうと思います」
ホテルのスタッフも、皆、ゴパルに親しみを感じている様子だ。これならもう、特定の誰かにチップを渡す必要は無さそうだな、と思うゴパルである。先日チップを渡した男性スタッフは、姿が見当たらなかった。非番の日なのだろう。
部屋は、前回と同じ二階の角部屋だった。その部屋の鍵を受け取り、協会長に手を振る。
「着替えてから、KL培養液の状態を、確認しに行こうと思います。どうでしょうか?」
協会長がソファーに座りながら、にこやかに同意した。
「分かりました。タクシーの手配をしておきましょう」




