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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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バクタプール大学の農学部棟前

 三週間後、ゴパルのポカラ旅行の日がやってきた。八月の第二週になり、雨期も終盤だ。が、空は相変わらず分厚い雨雲で覆われて、今も弱い雨が降り続いている。

 農学部棟の前のロータリーに、空港へ向かうタクシーが一台停まっていた。所々、バンパーやドアに擦り傷や、へこみが見られ、車体もあちこちが錆びている。

 その後部座席にゴパルが布製のキャリーバッグを押し込んで、見送りに来てくれたクシュ教授や、三人の博士課程に振り返った。雨に濡れて、長袖シャツや短めの黒髪から雫が垂れている。

「飛行機が飛びそうなので、空港へ行ってきます。私が留守の間の仕事を、よろしくお願いしますね」

 ラメシュが少し気の毒そうな表情で、ゴパルにハンドタオルを差し出した。

「朝の段階では、雨で運休予定だったのですけれどね……山の天気は変わりやすいです」

 クシュ教授がルンギ姿のままで、クッキーが入った包みをゴパルに手渡した。茶店や駄菓子屋で売っている、安いやつである。

「別送したKLは、昨日ポカラに届いたと連絡があった。宣伝頑張ってくれたまえ」

 ゴパルがクッキーをポケットに突っ込んで、少しジト目になった。

「クシュ教授。私の訪問目的は、アンナプルナ氷河での低温蔵建設の情報収集ですよ。それ以外の事は、基本的に後回しです」

 そんなゴパルの抗弁は、教授の耳には届かなかったようだ。ニコニコの笑顔である。

「育種学のゴビンダ教授と話してね。順調に進めば、二年後にはポカラでオレンジ……いや、ミカンになるのかな、それが復活するそうだ。ついては、現地で肥料や、土壌改良資材の需要が高まる事が予想される。データ取り放題だ。良かったな、前途は青天だよ」

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