天気予報
果たして、チベット僧の天気予報は的中してしまった。
その晩から風が強くなり、吹雪になったのだ。それは、翌日になっても止まなかった。結局、丸一日を民宿の中で過ごす事になるゴパルである。
気温も下がったので、寝袋の上に毛布を三枚被せて寝る。日中も冷えたので、毛布をダウンジャケットの上から被る事になってしまった。
アルビンが、少し呆れた顔でゴパルに忠告する。
「ゴパルの旦那。仮にも四千メートル級の高地だからよ。きちんとした防寒装備は必須だぜ」
ぐうの音も出せないゴパルである。
「そうですね。夏なので油断していました。次回からは検討してみます」
結局、自室では寒いので、ゴパルが食堂へやって来た。ノートパソコンのキーボードを、パコパコ叩いて仕事を片付け始める。
手元には、当然のようにチヤ……ではなくて、ミルク無しの砂糖入り紅茶が、中ジョッキで置いてある。水分補給のためなのだが、であれば、利尿作用のある紅茶ではなくて、白湯にすれば良いはずだが。その点は、紅茶にこだわるゴパルだ。
硬水のために黒くなっている紅茶をすすり、撮影した写真の加工をしている。
「今日じゅうに写真加工を終えて、次は動画の編集だな」
ノートパソコンの横にはスマホも置いてあった。それを使って、首都のクシュ教授やラメシュ達と、チャット形式で、文章やファイルのやり取りを行っている。
「こんな吹雪でも、電波が届くとはね……」
テレビはアナログ放送なので、この吹雪の中では砂嵐状態になっていた。携帯ラジオもダメだ。その一方で、スマホからは、ラジオ放送が良い音質で流れている。曲は、数年前のヒンディー映画の挿入歌だが。
首都では、もう晴れ間が見えているという書き込みなので、ここも明日には天気が回復するだろう。
民宿のオヤジのアルビンが、ニヤニヤしながら食事を運んできた。
「大学の先生は、大変だねえ。酒は、どうしますかい?」
ゴパルが背伸びをして、仕事を中断した。ノートパソコンを閉じて、スマホのチャットアプリに『これから食事』と書き込む。
「そうですねえ。シコクビエの焼酎を、ぬる燗で頼みます」
アルビンが、少し呆れた表情になって微笑んだ。
「ゴパルの旦那。シコクビエが本当に好きなんだな」




