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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
117/1133

測量

 反射板ポールを持たせたアルビンを、あちこちに立たせて、距離と方位、それに高低差を測定していく。


挿絵(By みてみん)


 ゴパルが持っているハンドガン型の測量器から、真っ直ぐに垂れている紐の先には、小さな金属製の円錐おもりが付いている。

 その円錐の先端が、ゴパルの付けた地面の印から動かないようにしながら、ハンドガンを使って測量をしていく。

 小屋を建てる場所の測量なので、数分で測量が終了した。データが全てエラー無く、ノートパソコンのソフトで演算されていくのを見守るゴパル。しかし、測量し忘れた場所が、チラホラあるようだ。

「あ、すいません、アルビンさん。そこから三歩東に立ってください。地面が窪んでいました」

 ゴパルが指示して、測量精度を上げていく。それも、数分で終わった。


「ありがとうございました、アルビンさん。無事に測量できましたよ」

 アルビンが感心して、両手に持っていた反射板付きのポールを眺めた。

「へえ……今は、こんな簡単に測量できるんですかい」

 ゴパルが、測量ポールをアルビンから受け取り、反射板を取り外した。

 ノートパソコンの演算も終了したようだ。液晶画面に、建設予定地の土地の形状が表示された。測量誤差も一センチ未満となっている。

「民宿ではなくて、ただの小屋ですからね。こんな適当な精度で十分です。今は、上空に人工衛星も飛んでいますから、より便利になりました」


 そして、この民宿の設計図を呼び出して、今回の測量図と合成した。

「民宿のかまどの位置は、建設時から変わっていませんか? それと、氷河から引いている水道の位置も変更ありませんか?」

 アルビンがニッコリと笑った。

「変わってねえ……かな。しかし、そうか。設計図って、こんな事にも使えるんだな。クシュ教授から要求された時は、建築会社と一緒になってファイルを探しまくったんだが。これなら、また測量をし直さなくても良いな」

 ゴパルが設計図の基礎データとなる、地形図を確定させた。早速、スマホに転送して、首都のクシュ教授宛に送信する。ファイルサイズが結構あるので、送信完了まで時間がかかるようだ。

「すいませんね。うちの教授が色々と要求してしまいまして。しかし、これで低温蔵の建設ができますよ」


 この後は、建設の認可が得られ次第、小屋を建設するために必要な資材を発注して、首都の建設会社や、ポカラの運送業者等に委託する事になる。小屋とはいえ、ゴパル達は素人なので、この後の作業はプロに任せた方が良い。

 その後で、アルビンに聞いて、細々とした情報を得ていく。例えば、部屋に備え付けの電熱ヒータータンクを使って、湯ができあがるまでの時間や、洗濯物が乾くまでの時間、どのくらいの消費電力までなら、安心して電機を使えるか、等だ。


「色々と調べるんだな」

 質問を受けまくったせいで、少々呆れた表情になっているアルビンに、ゴパルが肩をすくめて微笑んだ。

「そうですね。特に、ここは自然保護地域ですからね。薬品の管理にも神経を使わないといけません」

 今度はアルビンが苦笑した。

「俺は、ここに長い事住んでいるけどよ。結構、変わったぜ。二十年ほど前は、こんな小奇麗な建物なんか無かった」


 アルビンの話によると、昔は、草ぶきの屋根だったそうだ。

 細竹を編んだ網と組み合わせて、さらに青いビニールシートも間に挟んで、雨雪を防いだらしい。ガンドルンで使われている様な、石板の屋根は、ここまで持ってくるのが大変で、当時は使っていなかった。石の壁も現地調達の粗末なもので、板壁や竹網だったらしい。


「隙間風がつらかったでしょうね、それって。雨漏りも起きたでしょうし」

 ゴパルの感想に、アルビンも肩をすくめてニヤリと笑った。

「まあな。ま、今でも田舎のレクにある、共同の山小屋なんかは、そんな造りだけれどな」

 ゴパルがノートパソコンを閉じて、スマホをポケットに突っ込んだ。

「これで仕事は終わりです。どうも、ありがとうございました、アルビンさん」

 アルビンが腕時計を見る。

「そうだな。俺もそろそろ夕飯の支度を始めないとな。じゃあ、ゴパルの旦那よ。飯ができるまで観光して来なよ。そこらじゅう、観光地だからよ、ここは」

 ゴパルも垂れ目をキラリと光らせた。早くも小腹が空いてきている。

「夕飯には、ディーロをお願いしますね」

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