測量
反射板ポールを持たせたアルビンを、あちこちに立たせて、距離と方位、それに高低差を測定していく。
ゴパルが持っているハンドガン型の測量器から、真っ直ぐに垂れている紐の先には、小さな金属製の円錐おもりが付いている。
その円錐の先端が、ゴパルの付けた地面の印から動かないようにしながら、ハンドガンを使って測量をしていく。
小屋を建てる場所の測量なので、数分で測量が終了した。データが全てエラー無く、ノートパソコンのソフトで演算されていくのを見守るゴパル。しかし、測量し忘れた場所が、チラホラあるようだ。
「あ、すいません、アルビンさん。そこから三歩東に立ってください。地面が窪んでいました」
ゴパルが指示して、測量精度を上げていく。それも、数分で終わった。
「ありがとうございました、アルビンさん。無事に測量できましたよ」
アルビンが感心して、両手に持っていた反射板付きのポールを眺めた。
「へえ……今は、こんな簡単に測量できるんですかい」
ゴパルが、測量ポールをアルビンから受け取り、反射板を取り外した。
ノートパソコンの演算も終了したようだ。液晶画面に、建設予定地の土地の形状が表示された。測量誤差も一センチ未満となっている。
「民宿ではなくて、ただの小屋ですからね。こんな適当な精度で十分です。今は、上空に人工衛星も飛んでいますから、より便利になりました」
そして、この民宿の設計図を呼び出して、今回の測量図と合成した。
「民宿のかまどの位置は、建設時から変わっていませんか? それと、氷河から引いている水道の位置も変更ありませんか?」
アルビンがニッコリと笑った。
「変わってねえ……かな。しかし、そうか。設計図って、こんな事にも使えるんだな。クシュ教授から要求された時は、建築会社と一緒になってファイルを探しまくったんだが。これなら、また測量をし直さなくても良いな」
ゴパルが設計図の基礎データとなる、地形図を確定させた。早速、スマホに転送して、首都のクシュ教授宛に送信する。ファイルサイズが結構あるので、送信完了まで時間がかかるようだ。
「すいませんね。うちの教授が色々と要求してしまいまして。しかし、これで低温蔵の建設ができますよ」
この後は、建設の認可が得られ次第、小屋を建設するために必要な資材を発注して、首都の建設会社や、ポカラの運送業者等に委託する事になる。小屋とはいえ、ゴパル達は素人なので、この後の作業はプロに任せた方が良い。
その後で、アルビンに聞いて、細々とした情報を得ていく。例えば、部屋に備え付けの電熱ヒータータンクを使って、湯ができあがるまでの時間や、洗濯物が乾くまでの時間、どのくらいの消費電力までなら、安心して電機を使えるか、等だ。
「色々と調べるんだな」
質問を受けまくったせいで、少々呆れた表情になっているアルビンに、ゴパルが肩をすくめて微笑んだ。
「そうですね。特に、ここは自然保護地域ですからね。薬品の管理にも神経を使わないといけません」
今度はアルビンが苦笑した。
「俺は、ここに長い事住んでいるけどよ。結構、変わったぜ。二十年ほど前は、こんな小奇麗な建物なんか無かった」
アルビンの話によると、昔は、草ぶきの屋根だったそうだ。
細竹を編んだ網と組み合わせて、さらに青いビニールシートも間に挟んで、雨雪を防いだらしい。ガンドルンで使われている様な、石板の屋根は、ここまで持ってくるのが大変で、当時は使っていなかった。石の壁も現地調達の粗末なもので、板壁や竹網だったらしい。
「隙間風がつらかったでしょうね、それって。雨漏りも起きたでしょうし」
ゴパルの感想に、アルビンも肩をすくめてニヤリと笑った。
「まあな。ま、今でも田舎のレクにある、共同の山小屋なんかは、そんな造りだけれどな」
ゴパルがノートパソコンを閉じて、スマホをポケットに突っ込んだ。
「これで仕事は終わりです。どうも、ありがとうございました、アルビンさん」
アルビンが腕時計を見る。
「そうだな。俺もそろそろ夕飯の支度を始めないとな。じゃあ、ゴパルの旦那よ。飯ができるまで観光して来なよ。そこらじゅう、観光地だからよ、ここは」
ゴパルも垂れ目をキラリと光らせた。早くも小腹が空いてきている。
「夕飯には、ディーロをお願いしますね」




