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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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アンナキャンプ

 民宿街も一面の雪に覆われていた。建っている場所は、比較的穏やかな斜面にある。しかし、そのすぐ南には急峻な岩だらけの斜面が迫っていた。所々に、やはり大岩が転がっている。中には、民宿の建物ほどの高さの岩もある。

 民宿街がある斜面は、北側でガッサリと崩れて落ちていた。崩れた先は、深い崖になっていて、氷河から流れている河原になっていた。モディ川の源流部だ。

 ただ、もう既に灰色がかった水の色に染まって、濁っている。氷河が削りだした粘土鉱物や、土砂を多く含んでいるためだ。川には無数の岩石が散乱していて、大量の土砂が堆積している。今は、それらも全て、薄っすらと雪化粧を施されていた。


 民宿街には、五軒ほどの民宿が集まっていた。どれも石造りの平屋建てで、水色や橙色のトタン屋根だ。

 その民宿街を取り囲むように、チベット仏教の仏旗が風にそよいでいる。赤、白、青、緑、黄色の手拭いタオル程度の大きさの四角い旗が連なり、色鮮やかな帯のようになって見える。

 氷雪の白と、岩の黒ばかりの風景なので、こうした鮮やかな色は、よく目立ち、目にも優しい。

 ……のであるが、確かめると旗の色は全て、強烈な紫外線に曝されたため、脱色が著しい。旗の布もボロボロになりやすいようで、破れているものが目立つ。


 民宿街の手前には石造りの階段があり、それを上っていく。上り切った先にはそれぞれの民宿の看板が立っていた。それを見上げて安堵するゴパルだ。

「ようこそ『アンナプルナ ベースキャンプ』へ……か。長いから、略して『アンナキャンプ』で良いよね」

 スマホを取り出して、改めて日付と今の時刻をメモする。登山にかかった時間を、記録しているのだろう。

「予定では、ポカラを発ってから、四日目に到着するはずだったけれど、一日早まってしまったか。地元民が使う道を使えば、もっと短縮できるかな」


 明日、天気が荒れるという話だったが、実際はどうなるのか分からない。しかし、この雲の多さから想像すると、当たりそうだ。

「まあ、チベット僧の天気予報が外れて、明日晴れても、別に構わないか。とりあえず、宿に入ってから、測量やら調査やらを終わらせよう」

 民宿の看板には、ここの標高も記載されていた。四千百メートル。マチャキャンプから、さらに四百メートルも登っている。

 念のために、首に手を当てて脈を測ってみる。特に異常は無いようだ。


 五軒ほどある民宿は、どれも石造りの平屋建てで、水色や橙色のトタン屋根だ。看板には『温水シャワーあり』という記載が。思わず頬が緩むゴパルだ。ギーゼルが壊れていない事を祈る。

 民宿の客室には、木製のドアと、格子窓が一つ。雪が積もっても大丈夫なように、民宿自体を腰までの高さの石垣の上に建てている。

 しかし、屋根のひさしは短いので、雪が吹き込むと部屋の中まで入ってしまいそうだが。

 民宿街では、石畳が整備されていて、ベンチがいくつも設けられていた。今は、全てのベンチに白い雪が積もっている。さすがに、ベンチに座るような観光客は、ここには居ないようである。

「お、この民宿だな」


 民宿ナングロと書かれている看板の民宿に入る。

 ナングロは、細竹を編んで作ったザルだ。一抱えほどもある大きなザルで、米から小石を取り除いたり、野菜を置いたりするのに使われている。

 受付とロビー兼バー兼食堂の部屋には、一人のグルン族の男が、寛いでテレビを見ていた。ゴパルに気がついて、立ち上がり挨拶をしてくる。

「いらっしゃい。泊まりですかい? 食事ですかい?」

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