ギャルゲーという、他人事 ~ほしゅう~
「それでは、貴方は、何を創るのですか」
いつの間にか見ない顔の少女が隣に立っていた。
少女は黒いセーラー服をまとっており、襟に黄色の線が二本入っている。やけにその黄色が目につく。
「え?」
突然現れた少女にウラメンは戸惑うが少女は微笑むだけである。肩口できれいに切り揃えられた黒髪が風もないのに揺れる。
「この世界の【システム】を【シナリオ】を【キャラクター】を否定して、貴方はなにを創るのですか?」
「…僕は」
素晴らしいゲームを創るんだ。なぜこんな、寄せ集めの出来損ないみたいなゲームが評価されるんだ。僕ならもっとすごいものが創れる。
まず、ゲーム期間は3年!イベント数は各30種用意する。イベントスチルは600枚を越えちゃうかもな。
キャラクターは全部で8人、これぐらいいないとプレイヤーの要望にこたえられないよ。
メインヒロインには、学校で人気のある《ヒビカリ アカリ》ちゃんをモデルにしたキャラクターにするよ。私服も実際のアカリちゃんに似せればダサくならないしね。そうだ!アカリちゃんのところに行って、モデルにしたいからって写真を撮らせてもらおう。アカリちゃんがモデルだっていえば、今度の大学祭のミスコンのいい宣伝になるかもしれない!
「それはそれは楽しみですね。それで、いつ、できあがるのですか」
「え?」
ふふっと笑いながら少女はウラメンの胸元を掴み、強引に自分の顔に近づける。
「その素晴らしい、貴方の【ゲーム】はいつ、どうやって、できあがるのですか。いつ始めるのですか」
「そ、そんなにすぐには無理だよ、僕だって忙しいんだから!
…でも、僕がやろうと思えばいつだって、できるんだ!」
「貴方はすぐに、私から目をそらそうとしますよね」
「放してくれ!君は何なんだ!」
ウラメンは少女の腕を振りほどこうとするが、微動だにしない。金属のように、冷たく、揺るがずに『そこ』にある。
寄り添うように、無情に少女は微笑む。
「私は…」
私はいつでも貴方と共にいます
貴方は私から絶対に逃げられません
ですが、私は貴方の敵ではありません
「君は【ゲーム】の【キャラクター】じゃないな!言葉に制限がない」
「そんなこと、当たり前じゃあないですか。まわりも見えないのですか」
ウラメンが見回すと、周囲は殺風景というにも抵抗があるくらい何もない空間であった。
「ここがどこなのか貴方はよく知っていますよね。この何もない空間に、いつ、誰が、何を完成させるのですか」
始まってさえ、いないのに。少女は声には出さず、唇の動きだけで伝える。
「やるよ、やるって!逃げている訳じゃない!僕ならもっと、上手に、すごいものを、創れるんだ」
ウラメンは叫ぶようにそういい、強く目を瞑る。少女をみたくない、というように。
少女は首をわずかに横に傾けて、口だけで微笑む。その目は恐ろしいまでにひらかれ、大きな瞳がこぼれそうである。
観測せよ、この世界の有り様を
観測せよ、この世界の存在を
帰還せよ、『私』は誰にも平等である
回帰せよ、『私』は誰をも裏切ったことはない
「ねぇ、私を、みて?」