ギャルゲーという他人事~はじめっ~
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ウラメンとは直接の繋がりはありませんが、
こちらでは『ウラメンの正体』については言及しません。
できれば、ウラメンからお読みいただければ幸いです。
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「よりよい世界を創りたいと考えています、よろしくお願いします」
青年というには幼く、少年というには躊躇われる、微妙な年齢の男性が教壇に立ち、そういいながら頭を下げた。
教室には五人の少女が席についており、興味深そうに彼をみつめている。
その視線のなか頭をあげた男は、あっ、と言い細い首を撫でて、はにかむ。
「僕はウラメンと名乗ります」
順番が逆になっちゃいました。ウラメンは恥ずかしそうに笑った。
ぱちぱちぱち、と少女たちが拍手をおくる。その中でひときわ幼い少女がぴーんと手をまっすぐに上げた。
「はーい!はいっ、はいっ、はい!」
「はい、君は妹子さんだね、なにかな」
ウラメンに指名されると、妹子と呼ばれた小学生にしか見えな少女が跳ねるように立ち上がる。髪の毛を頭の左右で二つに結び、大きな瞳を輝かせている。
「ウラメンにぃ、って呼んでいいですか!」
ウラメンは目を丸くするが、教卓に置いてあった紙を何枚かめくり、妹子に微笑む。
「そうか、君は【主人公】をお兄ちゃんの愛称で『にぃ』って呼ぶんだったね」
「違います!妹子は名前を覚えるのが面倒なので、男の人はとりあえずみんな『にぃ』って呼びます!」
いいよね、にぃ!と、元気よく妹子は答える。すでにウラメンの名前は忘れたらしい。
「本当に、妹子はおバカさんですわね」
おーほっほっと、ドリルのように金髪を巻いた妹子の隣に座る女性が高笑いをした。日本人離れしたはっきりとした整った顔立ちに、蒼い瞳と金髪が輝く。
「むぅ、…『ねぇ』はいじわるちゃんだね!」
「ねぇ…?って、あなた!また、わたくしの名前を忘れましたわね!」
色めきたち、金髪ドリルの少女が机を叩きながら立った。妹子はこわいよぉ、といって机の下に隠れる。
それを、まぁまぁ、といいながら金髪ドリルの前に座った少女が宥める。
「嬢子も意地悪なことをいってやるな。妹子は軽くからかっただけだろう」
少女の長い黒髪を束ねた、かんざしがしゃらんとなった。妹子の頭を撫でながら椅子に座らせる。
幼い妹子のような可愛らしさも、金髪ドリルの嬢子がもつ華やかさもないが、凛とした身のこなしが美しい。
「生徒会長の葵さんがそう言うなら…」
「大好きだよ!…そっちの『ねぇ』!」
「…妹子、誰の……名前も…覚えていない」
ぼそっと、呟くのは妹子の後ろに座る眼鏡の少女であった。眼鏡と前髪に隠されて顔は見えないが、その声は鈴の音のように涼やかである。
「むぅぅぅ、さすがにアオイの名前はおぼえてるもんっ!」
「私の…名前まで…忘れたらもぅ……救えない」
「あら、わかりませんことよ、実の姉ですら忘れかねないおバカさんですもの」
「よしっ!アタシはウラメンっちって呼ぶぜ!」
アオイの隣の席で今まで頭を抱えていた少女が思い付いたように大声を出して立ち上がる。五人のなかでは一番、日に焼けておりボーイッシュな印象である。嬉しそうに何度も「ウラメンっち、ウラメンっち」と繰り返しながらポニーテールを楽しそうに揺らしている。
「うむ、そのようにあだ名をつけるのはいい考えかもしれぬな。マキャラメ、さすがだ」
葵に誉められて嬉しそうにマキャラメと呼ばれた、どうみても日本人の少女は頬を掻いた。
「遅刻ですぅ」
ガラッと窓があく。廊下の扉ではない、校庭に面した窓があく、ここは一階の教室だったのだ。
そして、あいた窓から、うんしょ、といいながら少女が入ってくる。
「あおい、そこは窓だぞ。ほら、鞄をかさないか」
葵が笑いながら、入ってきた少女、あおいに手を貸す。
「ふぇ、葵さん、いつもありがとうございます。あ、あなたが」
ウラメンをみて、あおいはぺこりとお辞儀をした。髪の毛は寝癖のせいか乱れていたが、素直そうな優しい表情をした少女である。
「私は、あおい、っていいます。よろしくお願いします」
「あ、あぁ、僕はウラメンと名乗ります」
「……遅刻した…あおいが一番はじめに……挨拶……している」
そうアオイがいうと、きょとんとした、あおいを取り残し、アハハと葵を含めた少女たちが笑いだす。
ウラメンもはじめから変わらず微笑んでいたが、その両の手は教卓をがっちりとつかんでいた。そうでもしないと、倒れてしまうといわんばかりに。