5話 シロヤマとシロクマ
朝宿を出ると馬車が待っており王国の兵士三人と、案内役の人が立っていた。
「神父さんや昨晩はお楽しみくださいやした?」
ニヤニヤしながら王国兵士の一人が話しかけてくる。
俺は、その兵士をたぐり寄せ、小声で話した。
「お前か。昨日の夜変なお香差し入れしたのは!」
「変じゃないですぜ。あれは、聖の香って言って、気分高揚、気力体力バクハツするくらいの一品ですぜ。噂にはあれ使った老夫婦が子を授かったとか。」
「私たちは仮にも聖職者だ!超えては行けない壁があるんだよ。分厚いね。」
くぅぅぅそんな一品だとは。知らずにゴミ箱に捨てちまった。帰ったら拾って使おう。
「ささ神父様にシスター様用意が出来ました。お乗りください。」
「あれ?兵士たちは乗らないの??」
「水入らずの方が良いでしょうさ。案内人に聞こえない程度で馬車の中で、バシャバシャやってもいいですぜ。私どもは護衛で後ろから追いかかるんで気にしないでください。」
そう言うと、兵士はニヤニヤしながら扉を閉めた。
馬を走らせ数十分。気まずい。兵士が変な事を言ったせいで、話かけにくい。シャルも下を向いていて表情が分からん。
――――さらに沈黙続く事、数十分―――
「山頂にのぼってそこの山は白かった。って、言ってみたいんです!」
急にシャルがバッと顔をあげ、大声で一言はなった。
きっと、場を和ましてくれようとしてくれたんだろう。ここは紳士的にかっこよく答えようか。
「それを言うなら、地球は青かったか、そこに山があるからだろ」
「チキュウ?山は確かにそこにありますけど。青くないですよ?」
なんか、シャルに可哀想な人を見る目されてる。。。
あぁここは異世界だったな。地球ジョークは通じなかったか。地球懐かしいなぁ。ふと、懐かしき記憶を思い出す。
小学生の頃のあだ名はウンチマン。中学は女子から変態と呼ばれる日々。
高校ではパシリ。大学では便所飯。そしてニートに。
「あれ?神父さん泣いてます??」
シャルに頭を撫でヨシヨシされ励まされ、ある事実を再確認した。
俺にはシャルたんがいるじゃないか!ビバ異世界!シャルたん一筋!!
「シャルた――――、、、。」
―――ドスッ―――
抱きつこうとした瞬間、強烈な一撃が腹に刺さる。
「それにしても、今の時代は楽ですねー。」
そして何事も無かったかのように話を進めるとは、シャルたんレベル高いぜ。
「途中まで、馬車で登れるとは俺も思ってなかったよ。富士山を思い出すぜ」
「フジさんって、どなたですか??」
「富士山は山の名前さ。俺の故郷の山で昔は不死の山って言われた霊山で修行しに行く人も多かったらしいよ。」
「神父様も行かれたことあるんですか??」
目を輝かせながら、こっちを見ている。このまなざしを俺は知っている。高校の時女子がサッカー部のエースに向けていたソレと同じものだ。
「さ、三回いったことがあるよ。」
まぁ、俺の場合は目が虚ろな人が富士の樹海に行くのと同じ理由で行ったんだけどね。。。
「神父様って実はすごい方なんですね?修行とかされてたなんて。伊達にクマやってる訳じゃないんですね!!初めて尊敬しました!」
やばい。シャルの純粋無垢な視線が痛い。てか、俺のこと今まで尊敬したことなかったのか!?
「まぁ、三回とも志半ばで辞めちゃったんだけど。でもそんなにすごいことなのソレ?」
嘘はついてないぞ。目的はどうであれ、三回行ったの本当だし、やめたからこそまだ今生きてるんだし。
「神父様の故郷では分かりませんが、この大陸の霊的な場所での修行は上級聖職者や上級魔術者みたいに高位の人しか行えないんですよ!実は―――」
フムフム。シャルはこうなると話が長いんだよなあ。
「―――ってことなんです!だから、三度挫折しても、すごいんですよ。むしろ挫折して三度行った人の話聞かないですからそっちの方がすごいです!」
「フムフム。ワカッタ。」
「ちゃんと話きいてました??」
顔を膨らませているしゃるたんも可愛いな。
「もちろん。強い人しか入れない。弱い人だと、二度と出てこないで終わるか、出てきても廃人になる。三度入って出てきた俺すごい。ってことでしょ?」
どや顔でシャルの方を見る。
「なんか、神父様に簡潔に分かりやすくまとめられると、ウザいですがその通りです。」
そうこうしていると、案内人から着きましたぞと、声がかかり外へ出た。
「シャル!外は一面白銀の雪だぞ!俺と同じくらい白い!」
「うぅ。寒いですね。寒すぎて風景楽しむどころじゃないです。」
「そんな寒いか??ホラホラ、雪になれるんだ!!」
俺はそう言いながら雪をバシャバシャとかける。寒さでほのかに赤い顔。ちょっと垂れた鼻水をすする美少女。そして、白銀の雪!!
雪×西洋美少女はやっぱり絵になるなあ。
「馬車には断熱の魔法がかけられてるんで寒さは感じないんですよ。」
「あれ?ならなんで案内人さんは外で馬引いてて、寒さ大丈夫なんですか??」
鼻をすすりながらシャルが聞く。
「私自身防寒魔法ってのを使ってまして。断熱魔法ほどじゃないんですが、ある程度寒さを防いでくれるんです。神父様は大丈夫そうですし、シスターさんには防寒魔法かけときますね。」
そういうと、何かシャルに向かって呪文を唱えた。
「わあ。すごいですね!本当に寒さを感じなくなりました。ありがとうございます。」
「それじゃあ、私はまだ仕事があるんで、兵士さんと王都に戻ります。」
そして、あのエロ王国兵士が俺に一枚の紙を渡した。
「これは、王国が発行した切符みたいなもんですや。ここでの宿代と帰りの案内人と護衛は見せれば無料になるんで、つかってくださいや。」
「ありがとう。助かる。」
ここの宿の壁薄いから夜は控えめにした方がいいですぜ。と言い残して颯爽と去っていった。
「じゃあシャル行こう。」
―――スタスタスタ――――
「シャル待って。」
―――スタスタスタ――――
「さっき、雪かけたの謝るから、ね?」
―――スタスタスタ―――
「神父さんここ、サムサムクッキーとホワイトケーキ有名らしいです。」
「分かった。奢るからね?」
――――スタスタ、ピタッ―――
「何個??」
「一個ずつ。」
――――スタスタスタ――――
「2個!!」
―――スタスタ―――
「5個!」
「あーあ。あの時寒くて泣きそうだったなあ。」
―――スタスタ―――
「わかった!10個!!」
「10個ずつ。約束ですよ??」
そう言って振り向いた小悪魔のような笑顔を向けたシャルは、俺の目には白銀の聖女のように美しく可愛らしく映った。




