3話 クマと酒場の商人さん
異世界に来て2ヶ月が過ぎ、今日は晴天。
「ルンルン。ルンルン。今日はいい天気だなぁ。」
「そんなに私とのデート楽しいですか?私も楽しいです!」
「いや、デートより王都にきt―――」
―――グシャ―――
思いっきり足の小指蹴られた。というか、効果音でグシャってどんな蹴り方したらなるんだ。骨折してますわ。コレ。
「うずくまってないで、立ってください。通行の邪魔ですよ?全く、王都には遊びに来たんじゃなくて王様から依頼で来てるんですからね?」
ついさっきデートってシャルさん言ってましたよね!?シャル一人でお城に行っちゃったけど、依頼されたの俺だからね!? まぁ、待つとするか。
そして15分後、シャルが走りながら鬼の形相で戻ってきた。
「お城に入ろうとして、兵士に止められたんですけど。それに、王様今日他の予定有るって兵士さん言ってたんですけど!?て、なんでクソ神p―――神父様は優雅に食べ歩きしてんですか!!」
「え?!今クソ神父って絶対言いましたよね!?いやぁ、急いでお城に向かっちゃって、言えなかったんだけど、あのー実はですねー。国王との接見は今日じゃなくて明日なんですよー。てへ。」
「てへ。じゃないですよ!!明日なら、もっとゆっくり来れたじゃないですか!私王都に来る途中の村でゆっくりしたいって行った時、時は一刻を争う。とか言ってかっこつけてたじゃないですか。」
「たしかに、てへ。じゃなくてテヘッの方が可愛いよな。ウン。」
「真面目に聞いてください。クソ神父―――じゃなくて、クソシロクマ!!」
「とうとうクソ神父言っちゃったよ。言いなおそうとしてるけど、結局あんまり変わってないし。 いやぁ、ごめんね?ほんとはね、一日でも早く王都に来て、シャルちゃんとデートしたかったんだよ?」
「そ、そうだったんですか?まぁそれなら、許しますけど。」
女ってちょろい。そして顔を赤らめているシャル可愛いな。現実世界だったら、スマホで写真撮って待ち受けにするところだったわ。
「あ、今ちょろいって思いました?今日は気が済むまで私に付き合ってもらいますからね。」
そういって、シャルは自分の腕を俺の腕に絡ませてきた。今まで生きてきて女性と腕を組んだことなどない俺は心臓がバクハツしそうな気分だ。動揺して顔が赤くなったのを気付いたのかその表情を見て彼女はニヤッとした。
どうやら、彼女の方が一枚上手のようだ。
王都に来た一日目はシャルに連れまわされ、夜になり酒場へ入った。 客の入りはそこそこいる。王都なだけあって、酒場の数も沢山あるのに、自分たちの住んでいる町の酒場よりも客が多い。
カウンターでシャルと食事をしていると、隣に痩せた男が座ってきた。その男は商人だという。
「いやぁ、今日も人が多くて席が空いているか不安だったけど、一つだけ空いていてラッキーだったよ。君たちはここで見ない格好だけど、観光かなんかかい?」
「まぁそんなところです。」
「二人仲良くしているところ水差しちゃってごめんね。お詫びに僕のすごい話をしてあげるよ。」
シャルも興味が出ているようだったので、話を聞くことにした。
彼の名前はビル。彼は自分を幸運な商人だという。
商売を始めたばかりの頃、船が雨嵐により沈没し、他の商人は命を落としたが、彼は助かったという。
また、あるときキャラバンで山越えをしようとした時、山賊に襲われたらしい。その時、命や商品を全て持っていかれたらしい。 しかし、彼は馬車の中でおびえていたため命が助かり、商品も他の商人は香辛料や塩など高価なものだったが、彼の商品は安い物だったため手を付けられなかった。 山賊に襲われ契約先の村の店に2日遅れで納期になったため、売値は安くされてしまいその時はショックを受け宿で2日間寝込み続けていた時、一人の男性が宿に来てこういった。
「幸運な商人はこいつか?」と。
最初は訳が分からなく、その男性の話を聞くと、この村の近くに住む山賊に襲われて助かったものはおらず、ましてや商品を持ってくる人など居なかったそうだ。 その男性はこの村の商人で大きな商会を持っている人で、ビルとこれから長い付き合いをしていきたいということだった。
ビルは今までの人生を思い出すと、確かに幸運なことが多かった。それは、注文した料理が多かったり、裏切られ仲を断ち切った商売仲間がその後悪事で捕まったりと幸運だったなぁと感じるようになったらしい。
「そういうことで、私は幸運の商人ビルと呼ばれているんだ。 商売もなんだかんだで少しずつ利益を伸ばしてきてさ。なにかあったら、私をよろしくたのむよ。」
「ビルさん、すごいですね。幸運なのも神のご加護のおかげかもしれませんね。神父様もそう思いますよね??」
シャルは目を輝かせて、こっちを見てきた。
「あぁ。そうだな。面白い聞けたし、今日は宿に戻るとするか。マスターここにお金置いておくよ。」
「兄ちゃんお釣りの分、お金多いけどいいのかい?」
「まぁ、チップだと思って取っておいてくれよ。」
酒場をでて、俺は早足で歩く。
「神父様なんであの商人の話にあんまり食いつかなかったんですか?お金とか好きな神父様なら飛びついていそうですけど?あと、あの酒場で多めに払ったのは何ですか?いつもなら、ケチっているのに。」
シャル、俺のイメージ悪くない? べつにケチってはいませんよ?それ相応の対価ってあるじゃないですか?
「神父様聞いているんですか?」
「あぁ。聞いているよ。 シャルは本当にあの商人が幸運だと思うか?あいつの話思い出してみろよ。」
「命が助かったりですか?」
「普通ならそんなに襲われたり、船が沈んだりしないよ。 彼は1回2回ってレベルじゃないし。 出来事すべてが不運そのものじゃないか。 不幸中の幸いってやつだよ。 あいつの一番の幸運は不運を幸運だと思っていることだけさ。」
次の日、その酒場は火事で燃えたらしい。逃げ遅れた客は全員亡くなったと思われたが、酔いで気持ち悪くなりトイレに籠っていた一人の商人は、トイレにまで火の手が回らず生き残ったらしい。
シャルと俺はこう思った。
「昨日早めに帰ってよかったなぁ」と。




