第9話 妹の寝顔は可愛い(確信)
家に帰ればインスタントハウスを出してシールたちを風呂に入れる。
屋敷の風呂はお湯を沸かないといけないから時間が掛かるんだよな。
シエルなら慣れただろうし、教えることも出来るだろう。
替えの服はシエルのを使ってもらう。
近々、服屋に行こう。
俺はその間にご飯を作る。
今なら材料もあるしミネストローネでいいかな。
俺の好物のキノコたっぷりで。
シエルたちが長風呂であることを祈ろう。
やることはオークの骨や野菜クズから出汁を取って煮込むだけなんだが。
あ、柔らかいパンを作るの忘れてた!
明日、絶対に作る。
いや、時間もあるし今の内に仕込んどくか。
「上がった」
パン生地をコネコネしているとシエルたちがあがってきた。
もうそんな時間か。
「後は煮込むだけだからご飯はもう少し待ってくれ」
「ん」
さて、パン生地は出来たし寝かせるだけなので、シエルたちの髪を乾かすか。
「シエルー。おいでー」
「ん!」
ドライヤーと櫛を取り出して髪を乾かす。
このドライヤーだが、無音なのでとても使い勝手がいい。
現代技術顔負けだな。
乾かすと今日はちょっとした仕上げをする。
少しスプレーをする。
これはミカンの皮から抽出した液体を香料にしたもの。
試作品として作ったので量は少ない。
個人的に柑橘系の香りが好きなのだが、今後は桃や苺、葡萄など色々作る予定だ。
「いい、匂い」
「それはよかった」
どうやらシエルも気に入ってくれたようだ。
「次はシールだ」
「は、はい」
「いや、そんなに緊張しなくていいからな?」
ガチガチになってるんだけど何でだ?
まぁ、そのうち慣れるだろ。
髪を乾かしたらご飯である。
エルフの里のパン屋で1番柔らかいパンなのだが、俺からしたら硬い。
具体的には、1日放置して乾燥したパンのように感じる。
早く柔らかいパンを食べたいものだ。
シエルたちに盛り付けを手伝ってもらい、シールに食前後の挨拶を教える。
「では、いただきます」
「いただ、きま、す」
「いただきます」
1人のときなら言わないけどな。
うむ、ちゃんとミネストローネになってる。
強いていうならパスタが欲しいな。
マカロニみたいなのとかいいと思うんだ。
食べ終わったら俺が風呂に入る。
まだ入ってないしな。
1人で入るの久しぶりな気がするな。
最近はシエルと一緒だったし。
男に体を見られるって恥じらいとかないのかね?
異性として見てないなら本当の兄妹になったという感じだろう。
それか長寿種だからそういうことに鈍いか発達が遅いか。
そうそうこの世界の成人年齢だが、なんと13歳で成人になるそうだ。
シエルはエルフだから当てはまらないとしても、シールはシエルとほぼ同じぐらいの背丈なので13歳前後でもおかしくないだろう。
そう考えるとシエルとシールって姉妹みたいじゃないか?
種族こと違うものの同じアルビノで歳も近いはずだ。
名前も似てるし本当に姉妹みたいだな。
栄養失調で成長が遅れてたとしたらもっと上でも可笑しくないよな?
そう考えるとシールと一緒にお風呂は止めといた方がいいよな。
うん、後で歳を聞いてみよう。
というか待て。
なんでシールとのお風呂を考えたんだ。
あれか、ポーションの口移しで意識し始めたのか。
待て待て待て待て。
俺は肉体こそ20代だが、精神は50過ぎのおじさんだぞ。
よし、ここは抑えるとしよう。
心頭滅却、 煩悩退散、獣心寂静、 妄執粉砕、色欲撃砕、 獣性鎮圧、 色情封殺…
いや、何で色欲になってる!?
溜まってんのか。
静まれ鎮まれ俺。
平常心だ、平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心……
コンコンとドアを叩く音にハッとする。
「おにぃ?」
シエルか。
風呂が長かったようだ。
「今あがる」
「ん」
丈夫な体になったとしても湯あたりなんてしたくないからな。
体を拭いてドアを開けるとシエルとシールがいた。
俺は当然、全裸である。
1人だからタオルを巻く必要はなかった。
「「…………」」
2人の視線が俺のマイサンに固定される。
顔を赤らめても視線は外さない。
年頃なのはわかるが無言でガン見は流石に恥ずかしい。
とりあえず、アイテムボックスからタオルを出して腰に巻く。
「着替えるから部屋にいなさい」
ハッとしてそそくさと出ていくシエルたち。
なんか溜息しか出ないわ。
もうさっさと寝よう。
疲れた……
◆
いつもの習慣で日が昇る前に起きる。
右にはシエル、左にはシールが俺に抱き着いて寝ている。
とにかく可愛いのだが動けないぞ。
寝返りが出来ないってキツイ。
とりあえず、頭を撫でとく。
サラサラでいい香りで最高である。
撫でながら今日の予定を考える。
必要な物は、シエルとシールの服と屋敷の家具や食器、改築や増設する為の木材や石材、鍛冶や錬金術などの道具か。
他には思い当たらないから食材や香辛料を買おう。
服以外は大手の商会で買えるから先に商会に行って、後で服屋だな。
服屋は多少時間がかかってでも可愛い服を来て欲しいからな。
その後は掃除して、小物をちょいちょい作らなければ。
ほら、香水とかシャンプーとか消耗品があるじゃないか。
そう考えると暇がないな。
何か面倒になってきたぞ。
何事も早めに終わらせるに限るが、今ぐらいはゆっくりしてもいいだろう。
では、暇つぶしにシエルの頬をぷにぷにする。
最近わかったことなのだが耳がぴくぴくと反応するときは喜んでいるときだ。
もちもちしっとり肌である。
頬を撫でると擦り付けてくる。
わかるか、これで寝ているんだぜ?
可愛すぎるだろ。
今度はシールだ。
はっきり言って初対面で知らない男とよく一緒のベットで寝れると思う。
シエルのときはやや強引だったかもしれないが、シールは自発的にきたのだ。
今は置いといてぷにぷにタイムだ。
頬をぷにぷにするが無反応。
撫でてみるが無反応。
いや、よく見ると口元がニヤけてるぞ。
ツンデレか、ツンデレだな。
これはこれで可愛い。
こんな可愛い妹たちがいるだけで満足しそうだな。
充分幸せだし。
こんなこと思ってると結婚なんて出来そうにないな。
さて、そろそろ日が昇るし起こさないと。
「シエルー、起きろー」
耳元で囁くと耳がぴくぴく反応する。
寝起きは悪い方じゃないのだが、今日は起きないな。
ふむ、いたずらしてみるか。
「……っ」
ふぅーっと耳に息を吹きかけるとピクンと反応した。
これは起きてるわ。
寝てるふりだな。
よろしい、ならばこちらにも策があるぞ。
「シエルー、起きないとちゅーしちゃうぞー?」
耳がぴくぴく反応し始めた。
暗闇でもわかるぐらい顔も耳も真っ赤である。
だけど起きない。
言った手前、実行しなければならないと思うとこっちが焦る。
なんでこんなこと言ったんかな!?
「10…9…8………」
とりあえずカウントダウンしてみる。
耳がめっちゃ反応している。
ぴくぴくではなく、ぴこぴこぴこぴこになってる。
何これ可愛い。
「………3…2…1…0」
と思ってるとカウントダウンが終わった。
仕方ない、覚悟を決めて実行しよう。
頬に一瞬触れるだけのキスをする。
「…ぁっ…」
ピクンッと反応し、艶のある色っぽい声をあげる。
やめなさい、俺の理性が崩壊しちゃうでしょ。
「起きてるな」
そういうとシエルが目を開ける。
まだ顔が真っ赤である。
「……ぇへへ」
大変喜んでいらっしゃる。
超御機嫌である。
めっちゃ照れている。
可愛い……抱き締めてゴロゴロと転がりたい。
可愛いシエルを堪能したいが、シールも起さないといけない。
「シールー?起きてるかー?」
呼びかけてみるが反応なし。
軽く揺すってみるが無反応だ。
何となく顔を両手で包んで、猫にやるように撫でてみる。
「…ふにゅ…ぁぁ………」
そんな可愛らしい鳴き声と共に目を覚ます。
「起きたか?」
と言ってみるがシールはボーッしてるようだ。
朝は弱いのかね?
しばらく待っても変化がないので、頭を撫でてみる。
「…………」
あ、寝た。
さっきと同じように起こしてみる。
「…ふみゅぅ……」
不思議な可愛い鳴き声と共に目は覚めるが意識は覚醒しないようだ。
こういうとき、背中に氷を入れたくなるのだが生憎と持ち合わせがない。
いや、魔法で作ればいいのか。
氷を作って背中に入れてみる。
「うぇっ!?」
その悲鳴は女の子としてどうかと思う。
「よし、起きたな」
ジト目をこちらを見てくる。
「優しい起こし方してほしい」
「したぞ?揺すったり、頬を両手で撫でて起こしたりな」
「ん。起きな、かった」
胡散臭そうなやつを見る目だったが、シエルの援護口撃にショックを受けたような顔をするシール。
なかなかに愉快。
2人とも起きたので伸びをする。
スケルトン時代は無理な姿勢でいても何ともなかったんだけどな。
「おにぃ」
「んー?」
ベットから動こうとすると両手を広げてスタンバイしているシエル。
……あぁ、寝起きのハグか。
寝ぼけて忘れてたわ。
最近は、寝起きにハグをするのが日常になっている。
両手を広げるとシエルは飛び込んでくる。
軽いから衝撃はほとんどない。
「ん…♪」
頬を擦り付けたり、深呼吸したり、頭を撫でると猫のように更に甘えてくる。
今まで甘えられなかった反動で、過密なスキンシップになっているんだろうか。
ただ、寝起きは汗臭いだろうから深呼吸は勘弁してほしいのだが。
「シエル、深呼吸はやめてくれないか?」
「なんで?」
何でこの世の終わりみたいな顔をするんだ。
「いや、寝起きは汗臭いだろ。俺が気にする」
「そんなこと、ない。落ち、着く」
そういや、女は男には理解出来ないフェチを持つとか聞いたことあるが、シエルは臭いフェチの素質があるのか?
凄く複雑である。
しばらく甘えると満足して離れる。
さて、風呂入って着替えるか。
「ぁっ……」
と思ったらシールに袖を掴まれて阻止されてしまった。
「どうした?」
口をパクパクさせて言うか迷ってる感じだがどうしたんだろうか?
「…シールも、ハグ、したい?」
シエルが気が付いたように言うと頷く。
そうならそうと言えばいいのに。
「ほれ」
腕を広げて受け入れるポーズで待機する。
甘えたいって言い難いよな。
俺に嫌われないように臆病になってるとも言えるのだが。
シエルは言うよりガンガン行動してる。
待ってると恐る恐ると抱き着いてきた。
いや、抱き着くなら隙間を空けなさんなって。
抱き寄せて頭を撫でるとシエルと同じように甘えてきた。
「…スゥー………ハァー………」
深呼吸もしている。
就寝前に風呂に入ったとはいえ体臭は気になるから出来るだけやめてほしいのだが、シールも聞きそうにないな。
…少し反撃するか。
木を隠すなら森の中というように、臭いを嗅がれるなら臭いを嗅いでやるのだ。
とはいえ身長差があるので精々頭の臭いを嗅ぐのが精一杯なのだが。
シールの頭に鼻を付けて思いっきり深呼吸する。
シールがピクンと反応するがお構い無しだ。
僅かにシャンプーの香りと…何だろうこれは。
甘いような感じでよくわからないが、不快ではなく寧ろ好ましく何となく落ち着くな。
もしかしてシエルたちもこんな気分なのだろうか。
そうだとしたら確かにやめることは出来ないだろう。
存分に堪能するとシールを解放する。
シールの顔を見ると真っ赤である。
女の子にとって匂いは気になるだろうが、俺もそうだしこれで相殺なのだ。
さて、今日もやることはたくさんあるのだ。
のんびりしたいがそうも言ってられないぞ。