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第7話 やっと人族の街に着きました


腕の中で何かが動くのを感じて起きた。

目を覚ますと外は明るい。

視線を下に落とすと、俺に抱きついている白色肌に白髪赤眼の女の子、シエルと目が合った。


とりあえず可愛いので抱き締めて頭を撫でる。

目を細めてエルフ耳をピクピク動かしている。

可愛いのう。


「おはよう」


シエルは返事をしたいようだが、まだ難しそうだ。

声は可愛らしい声である。

いや、全て可愛いな。


寝袋から出て軽い伸びをする。

寝返りが出来なかったから何か変な感じがする。


さて、さっそくクソ神の報酬を使うとしよう。

アイテムボックスから目的の物を出す。


目の前に現れたのは何の変哲もないモダンなドアだ。

アイテム名はインスタントハウスと言うらしい。

二階建てになってるらしく、1階が2LDKで2階が5Rの7LDK。

家具は設置されてないのでアイテムボックスから出さないといけないが、風呂やトイレなど設備は完備している。

風呂はもはや温泉という広さのようだが。


俺の目的とは風呂だ。

スケルトン時代も含めると20年以上も入れてないからな。


シエルを連れてトイレの使い方や風呂の入り方など細々と教える。


先にシエルを風呂に入れようとしたが離れようとしない。

仕方ないので一緒に入ることに。

タブーだが、腰にタオルを巻いてだ。

もちろん、シエルも体にタオルを巻いている。


ボディーソープやシャンプー、コンディショナーの使い方実演をする。

邪な考えが浮かんでくるが、シエルのピュアな瞳を見ると罪悪感で押し潰されそうになるのを堪えて遂行した。


俺の模倣スケルトンと戦うよりも疲れたと言っておこう。


着替えの服でも一悶着あった。

シエル用の服を渡して気が付いたが、“何で昨日渡さなかったのか”と疑問に思われたんじゃないかと思ったんだが、そうでもないようで、寧ろ同じ服を着回すつもりのようだった。

壮絶な説得をして何とか新品の服を着てもらえた。


ドライヤーで髪を乾かして、櫛で梳かすと汚れが無くなって、かなりの美少女になった。

しかも可愛さも兼ね備えてるという完全武装である。


将来のシエルの夫になる奴が羨ましい。

壮絶な罵詈雑言を言って祝福することにする。


朝ごはんは、昨日の残りのスープに調味料を使って少しアレンジした。

パンも昨日の買った固いやつだ。


時間があったら柔らかいパンを作ろう。

パンより米がいいんだが、無い物ねだりだ。


食べ終わったらソファでゴロゴロと寝転ぶ。

いやー、のんびり出来るっていいな。

シエルは俺の上に乗って寝転がっている。

何かホッコリして落ち着く。

このままだと寝そうだ。


シエルの頭を撫でるとサラサラで気持ちいい。

軽いから乗ってるという感覚もない上に、程よく温かいので寝てもおかしくない。


うぁー…ダメになるぅー…。







偉そうなエルフが仏頂面で向かい合っている。

俺の膝の上にはシエルが乗っている。

周りの護衛のようなエルフはシエルを嫌悪の目で見ている。

俺は殺気で抵抗している。


エルフの長に呼ばれるかもとメルティアナに言われたからが、呼ばれたのは数日後だった。

メルティアナに連れられて行った場所が他の家より大きな家だった。


そして通された部屋がここだった。


「本当にいいのだな?」


頷く。


「そうか。わかってると思うが里のことは内密に頼むぞ」


「わかってる。というかここがどこの森かもわからないのにどうやって言うんだ」


わかっても言うつもりないし。

面倒事になるだけだ。


「んじゃ、世話になった」


そう言って立ち去る。

もうここにいる用事はないからな。


ん?

何の話しをしてたかって?

里を救ってくれてありがとうとか、シエルについて云々とか、褒美はいるかとか、里のことは言うなよって感じ。


ちなみに、褒美は野菜や果物、布や糸とか樽、袋、縄とか日常で使う物を中心にもらっただけ。

物資の補充は忘れない。


エルフの長(名前は忘れた)の屋敷から出て寄り道せずに里を出る。


「さて、ここでいいか」


門から少し離れた場所で、アイテムボックスから翡翠の結晶が付いたネックレスを取り出す。


ポータルネックレスという物で、この翡翠の結晶が転移魔法の代わりになる魔道具だ。

クソ神からの報酬の1つで、アーティファクトになるらしい。


このポータルネックレスの弱点は、転移魔法よりコスパが悪い。

発動には転移魔法より膨大な魔力を必要とし、人数や距離によって増える。

何より記憶にある場所に行ける魔法と比べ、ポータルネックレスは登録した場所にしか転移できず、転移場所が30ヵ所までしか登録出来ないので下位互換だ。

俺からしたらこのままでも便利なのだが。


現在の登録場所は2つしてある。

1つはこのエルフの里の門前。

もう1つは、俺が言った通り人族の街の近くの街道だ。

普段はふざけてるクソ神だが仕事はちゃんとするようだ。


シエルと手を繋いでポータルネックレスを使用すると、魔力が大量に持っていかれた。

模倣スケルトンとの戦闘で使っていた身体強化とは比べ物にならないくらいの量だ。


それでも幾何かの余裕を残して、正常に起動し気が付くと草原の街道にいた。

遠目には要塞の様な巨大防壁が見える。

恐らく、あそこが人族の街なのだろう。


「ちゃんと転移できたな…」


「ん」


シエルはエルフの里で発音練習をしたので、それなりに話せるようになっている。

スラスラと話せるわけじゃないが、日常生活では問題ないないレベルだ。


しかし、ここが本来のスタート地点だと思うと不思議な気分である。

転移系の話しは草原か森のスタートが基準のようだ。

実際に俺が森だったし。

草原は予定だったようだが。


門を目指して数時間歩くと入口が見えてくる。

当然のように門には見張りが居る。

出入りする人間をチェックする検問ってやつか。


しかし、門がでかいな。

防壁はわかるとして、あんな分厚い鉄のでかい門はいるのか?

目測だが10mはあると思う。


「大きい門、何に、使う、の?」


シエルも同じことを思ったようだ。


「わからん。パッと思い付くのは、大きいと重たいだろ?それで戦争なんかで壊れにくくするぐらいしか思い付かないんだが」


うん、本当にこれぐらいしか思い付かない。


「なる、ほど」


これで納得するのか。

いや、興味ないだけかもな。


昼過ぎぐらいだからか、並んでる人は全くいない。

この世界では早朝に行動するのが普通だもんな。


「おや?黒髪黒目とは珍しいな」


検問の兵士に声をかけられた。

シエルはフード付きのマントを着ている。

忌み子ってのがあるからな。


「こっちじゃそうなんだろうな。田舎から来たんだが俺のいたところじゃ殆どの人が黒髪黒目だったからな」


嘘は言ってない。


「そうなのか。さて、仕事だからな。身分を証明できるものはあるか?無いなら1人大銅貨1枚と【真偽の宝珠】で犯罪歴を調べるぞ」


犯罪歴か。

俺はないな。

シエルもないはずだし。


「持ってないな。というわけで真偽を頼むわ」


「あいよ」


大銅貨を2枚渡すと奥の部屋に連れていかれた。

机が1つしかなく、その上に占い師が使うような水晶玉が置かれている。

あれが真偽の宝珠なんだろうな。


「まずは名前からだな」


「俺はスグル・アイウチ」


「シエル」


相変わらずシエルの声は可愛い。


「苗字持ちか。いいとこの坊ちゃんだったのか?変わった名前だしな」


「俺の故郷は皆そうだぞ」


「そうか。次は出身だな」


「俺は日本ってとこ」


「森」


「ニホンって聞いたことないな。後森ってなんだ…」


「まぁ、俺の国はこの大陸にはないから聞かないだろうな。シエルとは(エルフの里がある)森で出会ってから妹になった」


「色々ツッコミたくなるんだが?」


「ツッコムな。面倒だ」


「はいよっと。最後に殺人や盗みなどの犯罪歴はないな?」


「ない」


頷くシエル。


「そうか。なら、さっきの言葉をこの水晶玉に手を置いて宣言してくれ」


ふむ、嘘偽りを見つけるというそういう意味での真偽なのか。


「さっきの言葉に嘘偽りはない」


もちろん、この世界にきてからと心の中で付け足す。

水晶玉が一瞬、ぼんやりと白く光った。

兵士の反応を見る限りこれが正常のようだ。

シエルも問題なかった。


「よし、終了だ。身分証をもってきたら金は返金するから早目に作るといいぞ」


「別に作らなくても問題ないだろう?」


クソ神からもらった知識では無くても問題ないとなっている。


「確かにそうだが、出入りする度に金が掛かるんだ。あった方がいいだろう?」


「いや、金には困ってないな。だから返金はしなくていいさ。それに街から出なければ払う必要がないだろう?」


嘘じゃない。

クソ神からの報酬に金を要求したが、凄いことになっている。

金貨50,000枚とか白金貨50,000枚とか黒金貨50,000枚とか光金貨50,000枚とか明らかにおかしい。


一般家庭(3人)で1ヶ月銀貨20枚あれば、偶に贅沢しても暮らせるのだ。


それを考えると一生遊んで暮らせる。

むしろ、孫や曾孫…それ以降でも余裕だ。


「まぁ確かにそうなんだがな。おっといけねぇ。仕事に戻らねぇとな。ようこそアーティクスへ」


門を抜けて街に入るとかなり賑わっているようだ。

道の隅には屋台があり串焼きを売っていた。


さて、いつまでも突っ立ってるわけにはいかない。

やることは沢山ある。


まずは拠点探しだ。

短期的になら宿でもいいだろうが、シエルのことがバレたら色々と面倒なことになる。


食料や香辛料、家具など色々買わないといけないし。


ふむ、どこか商会にでも行けばいいかね?

わからん。

戻ってさっきの兵士に聞くと不動産屋か大手商会に行けば家は買えるらしい。

違いは、直ぐに家を買いたいなら不動屋産で、商会は少し時間がかかるようだ。

不動産屋に行くか。

場所は商業区にあるようだ。

商売だから当たり前か。

シエルと手を繋いで目的の場所に向かう、


数十分歩くと目的の不動産屋に着いた。

中に入ると店員以外の人がいない。

まぁ、家なんてそう簡単に買えるものじゃないしな。


「いらっしゃいませ。何かお探しの物件はございますか?」


若い男性の店員が話しかけてくる。

客は俺しかいないから当たり前ではあるんだが。


「出来るだけ早く家が欲しくてな。ここならすぐにでも買えると聞いたんだが間違いないか?」


「もちろんでございます。何かご要望はございますか?」


と言うので、要望をいう。


「最優先なのは、街から離れていて広い庭があることだな。具体的には魔術の訓練が出来るぐらいだ。次に風呂だが、別に無くてもいい。予算はとりあえず、これだけある」


白金貨50枚程が入った小袋を渡す。

一言断ってから中を覗くと驚いて固まってしまったようだ。


「失礼しました。これだけの予算であれば問題ないでしょう」


再起動した店員に連れられて椅子に座る。


「確認ですが、街から離れていて庭があること、風呂は有った方がいい、ということでよろしいだすね?」


特にないので頷く。


「でしたら、こちらの2つの物件ですね。どちらも貴族様の別荘として使われていたものです。どちらも風呂やトイレなど完備しております」


取り出された2つの書類。

値段はどちらもほぼ変わらない。


「値段どっちも似たようなものだな。これは何か違いがあるのか?」


「部屋数や間取りなど細かく言えば沢山ありますが、大きな違いと言えば地下室があるか、庭が広いかですね」


地下室…いい響きだ。

だが、庭の広さも捨て難い。


「ちなみにだが、予算を無視して庭の広さも地下室もあるのはあったりするか?」


「ありますが、御予算を大幅に上回ってしまいますが…」


あるんだ。


「見るだけならいいだろう?」


予算も見せて買う姿勢なのだから、見るぐらいはいいはずだ。

見るだけはタダだし。


取り出された1枚の書類。

お値段、何と白金貨96枚。

最初に勧められた物件の2倍以上である。


「なんでこんなに高いんだ?」


「実はですね、商売に失敗し爵位剥奪された侯爵家の屋敷なのです」


この世界での貴族階級だが、王族>大公=公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵が基本となっている。

場所によって準が付いたり、男爵以下の一代貴族なんてものもある。


そして、この物件は侯爵の物だった。

上から3番目の人物の屋敷だったのだ。

そら高いわ。


話しを詳しく聞くと、とある商会に目麗しい少女がおり、その少女を手篭めしようと同じ商売で囲もうしたところ、出し抜かれて大赤字。

更に、この事が国王にバレて国の顔に泥を塗ったとか、貴族の振る舞いとして相応しくないなど色々積み重なった結果らしい。


話しを聞く限りでは曰くつきの物件でもない。


思わず考えてしまった。

払えないことは無い、寧ろ余裕で一括払いできる。

庭が広く地下室もある。

風呂やトイレなどの設備も完備してあり部屋数も問題ないだろう。

非常に魅力的である。


「この屋敷を見ることは可能か?」


目を開いて驚く店員。


「可能ですが、御予算を……」


言い終わらないうちに無言で黒金貨を置く。

将棋のようにパチンッと音を起てて。

白金貨100枚分の金だ。


「地下室と庭を見て問題がなければ購入したい。もちろん一括払いだ」


店員はフリーズしている。

へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「…おーい?」


「しっ、失礼しました!鍵を取ってまいりますので少々お待ちください!」


再起動した店員は慌てて奥に引っ込んだ。

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