第5話 新しい家族(妹)
しかし、これだけの激闘をしても息切れが無いとはこの身体はどうなってんだ。
本当に人なのか不安になるな。
という訳でこの身体のことを教えろ。
『ん?人間を辞めた身体だよ?』
おい!?
何をしれっと言いやがる!?
『体の構造や見た目は人間だけど、中身が規格外なんだ。車で言えば外装は同じだけど、エンジンやタイヤがレーシングカー使用ってやつ』
そうかい。
『体力、持久力は無尽蔵。病気や毒への高い抵抗力に加えて、とてつもない回復力。更には精力絶倫だよ!』
それはもう人間じゃねぇだろ!?
てか、精力絶倫はオプションじゃなくてデフォルトなのか!?
『僕の趣味だ』
サムズアップしているクソ神が目に浮かぶ。
イラッときた。
俺は立ち上がり、天断の構えをする。
……届け、神を斬る!
「成敗!」
今度は魔力も乗せて“天断”を繰り出す。
『え、あちょっ!?わあぁああああああ!?』
周りに被害はない。
声からして届いたようだ。
ざまぁみろ。
一息つくと後ろに気配を感じたので振り返る。
プラチナブロンドの長髪に翡翠色の瞳、エルフの証である長い耳。
凹凸の無い身体にドレスアーマーを着込み、得物はレイピアの模様。
ドレスアーマーだから女だよな?
まぁ、よくファンタジー系に出てくるエルフ様だな。
表情からして、嫌悪してるって訳じゃなさそうだ。
困った、又は難しそうな顔はしているが。
「色々聞きたいことがあるが、まずは助かったと言えばいいのかな?」
まぁ、人族から奴隷として狙われてるから警戒はするよな。
「そうなのかね?俺は、あの骸骨に用事があっただけなんだがな。まぁ自己紹介しよう。俺は愛内克。こっちじゃスグル・アイウチになるんだっけ?」
「私に聞かれても困るのだが。私はメルティアナ。世界樹の守り人だ」
世界樹か。
ここからでも見えてるあのデカイ木のことだよな。
やっぱり、特別な力でもあるんだろうか。
「随分と凄そうな役職の人が来たもんだ。いや、エルフか失礼。で、聞きたいことがあるんだろう?答えられる範囲でなら何でも答えるぞ」
「そうか。では……」
質問攻めが始まった。
Q.どうやって森の結界を突破した?
A.依頼主が何かして、突破できた。
Q.依頼主を教えるつもりは?
A.俺は教えてもいいんだが、向こうがどう反応するかわからないので黙秘する。
Q.あのスケルトンは何だ?
A.偶然が重なって産まれたもの。具体的には1,000人が同時にサイコロを投げて、同時に同じ目を出すぐらいの確率らしい。
Q.お前はスケルトンと関係しているのか?
A.関係あるが、あのスケルトンの排除依頼を受けるまで存在すら認知していなかった。
Q.この里は人族の街からは、遠く離れてるがどうやってきた?
A.依頼主の不慮の事故により、この森の中に飛ばされた。多分、転移系の魔法のようなものだとは思う。
Q.依頼主とはどうやって連絡をしている?
A.念話のようなもので連絡している。さっき攻撃したからしばらく連絡付かないと思う。
他にも色々質問されたが、重要だと思われるのはこの辺だと思うが。
「しかし、こんな簡単に人族の言葉を信用していいのかね?嫌悪?敵対か?いや、どっちもか。してるなら鵜呑みはいけないと思うんだが」
「大丈夫だ。精霊たちが嘘を言っていないと言っているからな」
俺には見えないが近くに精霊がいるのか。
精霊は嘘を見抜けるのか。
エルフにしか見えないのかね?
「敵意も無いようだしな。エルフを見て何とも思わないのは意外だったが」
「敵対するつもりはないからな。のんびり暮らしたいから敵は少ないに越した事はないし。エルフは初めて見たから、おぉーエルフだー。スゲーぐらいは思ってるぞ?」
メルティアナが呆れたって顔になったぞ。
何だ、正直に答えたのに。
「まぁいい。この後はどうするのだ?帰るのか?」
そうだなぁ…
「帰ろうにもここから人族の街までの行き方がわからん。出来れば、この周囲で1夜明かしたいかな。明日になればアイツとも連絡付くだろうから、そのときに転移魔法か何かで飛ばして貰う」
「そうか。なら、里の空き家がいくつかある。そこを使うといい」
これはちょっと驚いた。
「有難い話しなんだがいいのか?俺は人族だぞ?他のエルフたちからの反発が凄そうなんだが」
人族の勝手な都合で捕らえて奴隷にし、酷い扱いをしているからな。
「そうだろうが、面と向かって言える者は少ないだろう。少なくともここにいる戦士たちは無い。先程の戦闘を見て、実力では敵わないと理解しているからな」
確かに、ここで俺の戦闘能力を見てたやつらならそうかもしれないが、里の中にいるエルフまでってどういうことだ?
「何故って顔だな。エルフは大なり小なり魔力を感知する力がある。スグル殿は戦闘で膨大な魔力を使っただろう?その魔力を感じ取れたからだ」
へー、そうなのか。
大丈夫ならいいか。
「そうか。なら言葉に甘えよう」
という訳で、少し離れた場所にある空き家に案内してもらうことにした。
途中で八百屋を見つけたので、メルティアナに断ってから野菜を買うことに。
「すまない。野菜を買いたいのだが」
と言うと、あからさまに嫌な顔をしてきた。
まぁ、仕方ないよな。
ならば日本人の奥義を見よ!
「お願いします。買わせて下さい。肉ばかりの生活はもう嫌なんです。定価の10倍でもいいので買わせて下さい」
土下座して頼み込む。
プライド?んなもんゴブリンにでも食わせておけ!
土下座で必死に頼み込んでいると、メルティアナが仲介してくれて買うことができた。
「スグル殿はプライドは無いのか?」
久々の野菜をそのままムシャムシャと食べてると、そう質問された。
「あるぞ?だからと言って人に頭を下げれないって訳じゃない。まぁ、本当に肉だけの生活は懲り懲りだったから必死だったんだが」
ちゃんと食べてから返答する。
俺いい子だろ?
珍しいものを見るような目をするな。
道中、野菜や香辛料を売っていたので初見で土下座をかましてやった。
その度にメルティアナが仲介してくれて助かった。
メルティアナ様々だな。
予定より遅れて空き家に着いた。
普通のウッドハウスだな。
うん?遅れたのは俺のせいだって?
うるせえ。
「ここが空き家だ。もしかするとだが長に呼ばれるかもしれない。一応、そのつもりでいてくれ」
「いや、それは呼ばれる可能性じゃなくて確定じゃないか?」
「……否定できんな」
否定しろよ、と言おうとしたら空き家のドアが開いた。
出てきたのは、ボロいフード付きのマントを羽織った子供だ。
「ぁ……」
本当に小さなな声だった。
掠れてるから男か女かは判別出来ないが。
空き家じゃなかったのか、とメルティアナに文句を言おうと思ったら。
「なぜ、貴様がここにいる」
ものすごいドスの効いた声で子供に威圧している。
よく分からんが、このままじゃ子供を殺しそうな雰囲気なので子供を背に庇う。
「落ち着け。よくわからんが落ち着け」
「スグル殿は関係ない。エルフ族の問題だ」
「確かに無いだろうが、状況の把握するぐらいの権利はあるだろう。空き家と聞いてたら先客が居たんだ。説明ぐらいはいいだろう?」
と言うと、不機嫌な声のまま説明してくれた。
曰く、人族との間に出来た忌み子。
曰く、肌も髪も真っ白で赤い目の忌み子。
曰く、魔法が使えない忌み子。
と忌み子が3つも並んで、嫌悪されてるようだ。
この間、里から追放したらしいが何かしらの方法で戻ってきたようだ。
「説明はした。そこを退いてもらおう」
実力じゃ勝てないから、お願いって形なんだろう。
いや、命令にも聞こえなくもないが今はどうでもいいか。
「ふむ、1つ質問いいか?」
「答えたら退いてくれるのか?」
「回答にもよる。だが、もしかしたら俺もお前さん方も万事解決する案が出せるのだが?」
ここまで嫌われてると、恐らく返答は決まってると思うが。
「聞こう」
では、ズバッと。
「この子は要らないんだな?」
「そうだ。追放で駄目なら処刑だな」
よし、言質は取れた。
しかも世界樹の守り人という役職持ちのやつから。
「なら、俺が引き取ろう」
「ぇ…?」
後ろから掠れた声が聞こえた。
「何を言っている?これはエルフ族の問題だ。部外者は関係ない」
「あるわ阿呆。もう俺の家族だからな」
子供を抱きつつ反論する。
マントで体付きは見えなかったが、触れるとわかる。
めっちゃガリガリだ。
ろくに食べてないな。
「勝手なことを言うな!エルフ族の問題だと言っているだろう!」
我慢の限界なのか、怒声になった。
カルシウムが足りないんじゃないか?
「そっちこそ勝手なことを言ってもらっちゃ困る。どうしてもというなら…」
刀に手を置いて、殺気をぶつける。
ついでに睨む。
「俺が敵になろう。俺を殺してから好きにするといい」
そう言うと、苦虫を100匹噛み潰したような顔と憤怒の顔が混じった顔になった。
器用なやつだな。
しばらく葛藤のして答えがでたようだ。
「……好きにしろ」
「おう、好きにする」
律儀に返答したら舌打ちしやがった。
性格悪いなぁ。
ま、俺も強引だったから仕方ないんだが。
気を取り直してっと。
この子の身長は、だいたい130〜140cmの間ぐらいだとは思う。
まずは視線を合わせて。
「顔を見せて貰っていいかな?」
「…ぁ…ぅ……」
これはいいってことか?
わからん。
一言断ってから、フードを降ろす。
見えたのは、汚れてグチャグチャになった白い髪に、汚れた白い肌、血のような真っ赤な目。
確か、アルビノってやつだよな?
黒色の色素が無いっていう病気だったけ?忘れたわ。
全体的に痩せこけていて、顔つきから男女を判別しようにもわからない。
本人に聞くのが1番だな。
「女の子でいいのかな?」
コクリと頷いたので女の子のようだ。
将来は美人さんになるぞー。
「お名前は?」
口をパクパクと動かすが、小さく更に掠れていて聞き取りにくい。
「ぃ…ぇ…ぅ……」
イエウ?違うだろうな。
い音、え音、う音を組み合わせて、いくつか名前のような単語にする。
「イセス、キエル、シギル、ミエル、チレス、シセル…」
シセルで反応した。
「シセルでいいのか?」
顔を横に振った。
む、違うか。
イントネーションが似てるのか?
簡潔でいいから情報ないかね?
……ん?情報?
鑑定があるやないかい!
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名前:シエル
種族:エルフ
性別:女
年齢:13歳
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鑑定したらこう出た。
てか、13歳なのか。
随分と幼く見えるのは、生活環境が悪くて栄養が不充分だったからか。
「鑑定を使ったけど、シエルで間違いないね?」
「…ん」
頷いたので間違いだろう。
「よし、俺はスグル・アイウチ。難しいよな。お兄ちゃんとでも呼んでくれ」
「ぉぃ…?」
おにぃって発音しようとしたのかな?
ふむ、舌っ足らずもかわいいな。