第3話 異世界に転生したのはいいんだが……
気が付いたら森にいた。
確か神様とアレコレがあって、転生したんだっけ。
いつもより視線が高いのは長身にするように頼んだからか。
服は黒いシャツに黒いコート、黒いズボンと真っ黒である。
見方によっては軍服にも見え、どこかで見覚えのある服装だがわからないので後回しだ。
軽く身体を動かしてみるが特に問題はなさそうだ。
アイテムボックスから刀を取り出して振ってみるが、違和感もない。
腰に差して移動しようと思ったら足元に手紙が落ちていた。
読んでみると…
『やぁ、ボクだ、神様だ。君がこの手紙を読んでいる頃はボクはいないだろう』
そりゃいないのは当たり前だ。
『さて、言い忘れてたことがあるからそれを言おうと思ってね。まず食料だけど、1日3食で1ヶ月分がアイテムボックスに入っている。アイテムボックスの中身を知りたいと思ったら脳裏にリストが出るから確認してね。服装は君のゲームのキャラが着ていたやつをチョイスしたよ。カッコイイよね!』
そんな理由でこの服を選んだのか。
それでいいのかと思ってしまう。
それはさておき、物資の確認をしよう。
どれどれ…入ってる物は、サンドイッチ×90、水筒(60/100ℓ)、フード付きのマント×1、黒のTシャツ×7、ズボン×7、パンツ×7、タオル×10、テント×1、寝袋×1、初級ポーション×10、中級ポーション×5、上級ポーション×3、金貨×50、銀貨×50、大銅貨×50、小銅貨×50か。
『着替えの服はサービスだよ。アイテムボックスは許容量は無いからいくらでも入れることができるよ。金銭の価値とか一般常識などの知識は魂に刻んであるから知りたいと思えば頭に浮かんでくるよ』
小銅貨1枚で10円ぐらいの価値になるのか。
そして、小銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚になり、銀貨、金貨は100枚ずつと。
感謝はともかく、貰えるものは貰っておこう。
最初は必要になる物が多いだろうからな。
『次に魔法だけど、魔法は魔力を使って現象を起こすんだ。魔力を使い切れば最大保有魔力は増えるからどんどん使うといいよ。サービスで野宿に必要な魔法を魂に刻んであるから、魔法のことを思い浮かべればわかるだろう』
ふむ…トーチは火種の魔法、ウォーターは水を出す、クリーンは清掃の魔法、ライトは灯りの魔法なのか。
『ちなみに、アイテムボックスだけど、解体という便利な機能が付いてる。例えば、魔物を解体したいと思えばあっという間に出来るんだ!!どう?凄いでしょ!!』
はいはい、すごいねー。
それはともかく確かに便利だな。
解体の手間が掛からないのはいい。
『他にも色々な機能が付いてるから試してみてね。鑑定は、鑑定したいと思うと名前と簡単な説明が見れるようになってるよ。うん、これだけ教えれば大丈夫かな。それじゃ、新しい人生に幸あれ』
うん、かなり大事なことを言い忘れてんぞ神様。
読み終わった手紙をトーチで燃やして移動する。
人族の街の近くって言っていたが、本当にあるのか不安になるな。
まずは道を探そう。
移動して4時間ぐらい経つだろうが、まだ森の中をさ迷っている。
ゴブリンやオーク、ウルフなどの定番の魔物が襲ってきたが、問題なく対処できている。
何回か戦ってわかったことだが、こっちの世界の魔物は、地球にいたやつよりも弱い。
地球に侵略してきたゴブリンは、狡賢く、筋肉質なやつらだった。
人間みたいに罠を張ったり仲間同士で連携して攻めてきたのに、こっちのゴブリンは、ガリガリのひょろひょろの貧弱で連携も何も無いただの玉砕特攻をするだけだった。
それに素材になるのが、極少の魔石だけなので旨みもない。
オークは食用にもなるし素材も多い。
ウルフも素材になるのでとりあえず狩っておいた。
たまにオークやゴブリンの集落に入り込んで殲滅をを繰り返して、森の中をさ迷うことを繰り返している。
そして夜になった。
おい、どこが人族の街の近くなんだ。
テントを出して野営の準備をしている途中、空を見れば星が輝いている。
こうしてゆっくりと見るのは何年ぶりだろうか。
魔物…スケルトンになったときに記憶の大部分が消えたようだった。
俺は生活にも困らなかったので気にしなかった。
アイリスのことは覚えてたしな。
今が落ち着いてるから色々考えてしまうな
テントの中に入ると驚いた。
見た目はキャンプに使われるドーム型の普通のテントなのだが、中は恐らく18畳ぐらいの広さはある。
そして台所がある。
コンロにグリル、オーブン、鍋にフライパン等の調理道具も一通り揃っている。
有難いが調味料が無く、食材も肉だけでどう調理しろと。
焼けというのか、余程食材が美味しくないと味気ないものになると思うが。
贅沢を言うなら、ベットと風呂、トイレがあれば完璧なんだがな。
考え事をしていると、外に気配を感じた。
素早く戦闘を終わらせて思ったこと。
1人だとテントで寝るの危険じゃね?と。
壊されそうだし、襲われた時に反撃出来ないし。
そう結論を出すと、テントをアイテムボックスに収納してマントを羽織って雑魚寝することにした。
結局、いつもと変わらんね。
◆
転生して早1ヶ月。
俺はまだ森の中をさ迷っている。
魔物と戦ってばかり。
というか、人と全く会わないどころか気配すら感じない。
今度あの神にあったら絶対殴る。
この1ヶ月で、何もしなかったわけじゃない。
薬草や山菜、木の実、果実など色々収穫出来た。
アイテムボックスで解体すれば皮、種、果肉と簡単に分けられるし本当に便利だな。
もちろん、修行もしている。
1番の成果は、かつての強敵たち…確か魔王の幹部ってやつが使っていた技を真似出来たこと。
アイツらのように自由自在ってわけじゃないが、それでも充分強力な技だ。
強くなれば死なずに済むし、守りたいものも守れるようになるからな。
ただ、最後はあのクソ神を斬れるぐらいにはなりたい。
感覚だが、あれは死なないような気がするから、復活に時間がかかるぐらいまで斬れるようになりたいな。
1ヶ月も森の中に、何の連絡も無しに放置された怨みだ。
話しはズレたが、成果はこれぐらいしかない。
逆に言えばそれだけしか成果がないとも言えるのだが。
この森には強い魔物もいないからな。
そういえば、このティラスの世界じゃ、スライムやスケルトン、レイスとかは魔法生物と言われるらしい。
なんでも魔石が無く、魔力の集合体だからだそうだ。
魔力を蓄えて、魔石を生成できるようになった個体は、魔物と呼ばれるようだが。
あまりにも暇だったから、もらった知識を思い出す?掘り起こす?とりあえず、勉強してた。
そして今、何をしているかというと…
「モグモグ…」
見知らぬ果実を食べているところだ。
うーむ、半透明でサクランボみたいな果実は思いの外、美味しいな。
味は、リンゴとミカン、ブドウ、キウイとか色々ミックスした感じだ。
流石、ファンタジーな異世界の果実だ。
いくつか採っていこう。
『あー、あー、もしもし?聞こえてるかい?』
あのクソ神の声が聞こえてきた。
頭の中に響くな、念話のようなものか。
「ほのふおはみ!はっはふぉほひへほい!ふぁふぁひひっへはふ!」(約:このクソ神!さっさと降りてこい!叩き斬ってやる!)
森に放置した怨み、晴らしてくれるわ!
『行かないからね!?君の剣を受けたらこっちもタダじゃ済まないんだがらね!?それと、念じるだけでも会話出来るから、口に物を入れながら喋るのやめようか!?』
それを先に言え。
んで、俺を広大な森の中に放置しといて何のようだ。
『そのことで連絡したんだ。とりあえず、時間がないから僕の言う方向に行ってくれ。移動しながら話すよ。方向は何となくわかるはずだ』
いつもの余裕のある声じゃなく、妙に焦ってるし、声が真面目だ。
話したことはあの時だけだが、何となくそう感じ取った。
方向は…あ、何かわかる。
とりあえず、走るか。
んで、話しってなんだ?
『まず、君が何故、人族の街の近くではなく、森の中に転送されたかを説明するよ』
おう、納得出来る理由はよろしく。
『簡潔に言えば、事故としか言えない』
おい?
わかっていて、何の連絡も無かったと?
『話しを最後まで聞いてほしい』
弁明を聞こう。
『君を転送して直ぐに異物が混入してきてね、それの対処をしているうちに君の転送先がズレてしまったんだ』
何だそりゃ?
『こっちがそう言いたいよ。こう考えるといい。1,000人が同時にサイコロを投げて、全員が同時に同じ目を出すぐらい有り得ないことが起きたんだ』
なるほど。
それのお陰でこっちを放置せざるを得なかったと。
そこは納得しよう。
だからと言って、放置の期間が長くないか?
『異物を処理しようとしたんだけど、なかなか出来なくてね』
そこそこ強かったと。
んで、ようやく処理出来て俺に連絡したと。
『いや、処理は出来てない』
は?
『防壁を破壊や侵食するなら何とかなったんだけど、まさかすり抜けるとは思わなくてね。だから、ひたすら長い道を作って時間稼ぎしか出来なかった』
あ、何か嫌な予感がする。
『もうすぐ【ティラス】に転送される。異物の抵抗が無ければ君の正面にでも転送したんだけど、手強くて離れた場所に転送されることになった』
………………。
なあ、話の流れと、この走ってる方向ってさ……
『察しの通り、君に異物の処理を依頼する。報酬は期待していい。ちなみに、拒否権はない』
「おまっ!?ふざけんな!?」
思わず口に出た。
『拒否してもいいけど、その代わり大陸は滅びるからね?大陸最強の生物である君しか渡り合えないぐらい強いんだよ?結婚してイチャコラ出来ないからね?』
マジでふざけんな!?
というか、大陸最強の生物ってなんだよ!
『ほら、君の魂に耐えられる器って言ったでしょ?器を作ったら性能が凄いことになってね。それに、この1ヶ月間の記録もちょっと見たけど、充分に人間辞めてる』
この野郎…いつか絶対斬ってやる!
あ、報酬にお前を斬る権利を獲得するってのもいいか。
『何でそんなことに頭が回るんだい?』
天才妹と暮らしてたからじゃないか?
あと、転生もののファンタジーな小説の読み過ぎとか?
『ないわー…って呑気に会話するのは終わりのようだね』
なんだ?
もう転送されたのか?
『うん。予定よりだいぶズレたけど、これはまずいことになった。非常にまずい』
勿体ぶんな、さっさと言え。
『転送した位置がエルフ族の里の近くだ』
知識を探ると…ふむふむ。
長寿種で魔法に優れ、容姿も綺麗なので奴隷として人族に狙われており、森に隠れ住んでいると。森に愛されてるとも言われていて、食物の毒の有無や動物に好かれやすく、精霊とも話すことが出来ると。
………………。
なあ、人族に奴隷として狙われているんだよな。
俺が行ったらややこしいことになると思うんだが?
『よく回るその頭で、何とかしてほしい』
よしクソ神、いつか絶対斬ってやるから待ってろよ。