第10話 下着と3級奴隷
シエルたちと一緒に朝風呂に入りスッキリする。
断じて変な意味のスッキリではない。
朝ご飯を食べ終えると大手商会に向かう。
確かアストール商会だったか。
と言っても店員に欲しいものを言い、現物があるものはその場で即買いし、無いものは注文し後日に取りに来ると言っただけだ。
アイテムボックスが使えることを教えると驚いて羨ましがった。
場所を取らずに無限に物を運べるからな当たり前か。
その後は服屋だ。
トトリノル服店という名前だそうだ。
服屋と服店も同じだと思うが何か違うところもあるのかね?
この世界での既製品の服は基本古着しかない。
大量生産の仕組みがないから、一般平民は自分で作りか中古を買い、着なくなったら売るを繰り返しなので当たり前だが。
新品を買うのは貴族がほとんどで、オーダーメイドということになり高額になる。
今回はオーダーメイドもするが、ある程度新品の既製品も置いてあるのでそれが目当てなのだ。
シエルたちを可愛く着飾りたいので、出し惜しみはせんぞ。
服屋に入り店員にシエルたちに合う服を上下それぞれ10着ずつ選ばせる。
服のサイズを測るのでマントを降ろすことになる。
ここで危惧していたのが、アルビノとエルフということで最悪、事を構えるつもりでいたが店側は気にした様子はない。
ちょいと質問してみたが、貴族で亜人好きのもの好きもいて珍しいことでもないらしい
気に入ったので今後の服はここで買うことにする。
自分ようの服も探して気付いたんだが下着の類が一切ない。
「下着はないのか?」
不思議に思って近くにいたナイスミドルの店員に聞いてみる。
「申し訳ありません。存じ上げません」
と返されてしまい衝撃の事実が発覚した。
この世界の人たちは全員ノーパンノーブラなのだ。
俺はクソ神に貰ってるからいいが、これから成長するシエルたちが着れなくなったら大変ではないか。
ここは俺が一肌脱ごう。
「女性で胸が大きい人ほど肩こりが酷かったり、運動する人では痛みがあるだろう。それを解消する服の類なのだがこの大陸ではないんだな」
俺の言葉で店員の目が変わった。
商人の目だ。
もしかして店員と思ったらオーナーだったり?
「オーダーメイドで作れるか?一応、知識はあるんだが」
「興味深いお話しですな。詳細を聞いても?」
「構わないが、人目が多いだろう?なにより、店員が善し悪しを判断していいのかね?」
ただの店員なのかオーナーなのかハッキリさせとかないとな。
今後は贔屓にするんだから。
「これは申し遅れました。私はオーナーのカスター・トトリノルです。以後お見知りおきを。詳しい話しは奥の部屋で」
やっぱりオーナーだったか。
オーナーが店員に何かを伝えると奥の部屋に通されて下着の事を話す。
と言っても素材や形のことを紙にイラストを描いてわかりやすく説明するだけなのだが。
「…これは画期的ですね。女性の悩みを改善するだけではなく、豊胸効果や形まで整えることが出来る。素晴らしい物だと思いますが……」
オーナーが言いよどむ。
「何か問題があるか?」
「製作は試行錯誤で大丈夫でしょう。問題は素材ですね。伸縮可能な布と、肌を痛めない生地はかなり貴重です。1つ作るだけでどれだけの金額が必要になるかわかりません」
「職人に技量があるなら伸縮可能な布は無くても出来るだろう。形にピッタリと合わせて成長とともに新しく作れば服屋も儲かる」
「なるほど。となれば使う生地ですな。いくつかありますが、やはりどれも高級品なので高額になります」
「なら、デリケートゾーンだけ高級品を使い、その他はそこそこの生地というのならコストは抑えられるだろう」
オーナーはブツブツと独り言をいい考えている。
女性用下着は重要だからな。
娼婦が着れば魅力も増すし、着なくなった下着を男に売れば小遣い稼ぎにも出来る。
ガーターやストッキングの事も教えると答えが出たようだ。
向こうはやる気満々だ。
オーダーメイドするつもりだったのだが、あれよあれよと言う間に商売の話しになってしまった。
利益の分配は7:3で、向こうが7でこちらが3である。
別に金には困ってないというのが理由なのだが、向こうからしたら不満が出るということを懸念して再度確認してくる。
「本当によろしいのですか?こちらが貰いすぎですし、逆でも通りますよ」
「よからぬ事を考えてる人は貰いすぎとは言わないだろう?本音を言えばこれからも色々頼む予定だから、負担を掛けるだろうからよろしく頼むってことだ」
「分かりました。ではそのように致します」
他には、俺のことを誰にも言うなよ?ということも含まれてるがこれは信用問題なので当たり前のことである。
一々口にしないといけないということは信用出来ないということなのだから。
仮にも商人なので大丈夫だとは思うが。
こちらに欲がないこともそれとなく伝える。
契約書を作りサインして、時間もそれなりに経ってることを思い出す。
シエルたちも心配してるだろうから、下着のオーダーメイドの話しに戻す。
「とりあえず、出来るだけ早く欲しい。それと金は惜しまないので素材は全て高級品で作って欲しい。予算はこれで足りるか?」
素材は高いと聞いたが、具体的な値段は聞いてないので白金貨50枚を出すとギョッとするオーナー。
「これは多すぎですね。半分でも多いかと」
フリーズすることなくスラスラと答える辺り、流石というべきだな。
頬に流れる冷や汗が無ければ完璧だった。
「試行錯誤に使う分やこれから頼んだりする分も含めてる。足りなくなったら補充するから安心してほしい。管理はそちらに任せる」
貴族みたいなやりとりだと俺も思うが、保険は多ければ多いほどいいのだ。
「かしこまりました。責任をもって管理します」
言質を取れたので大丈夫だろう。
後は細々としたことを決め、完成したら使いの者を出すとのことで家の場所を教え売り場に戻る。
シエルたちを探してると店員に小休憩所のようなところに案内された。
「おにぃ」
椅子から降りて走ってくるのはシエルたちである。
テーブルを見ると焼き菓子と紅茶があるところを見ると、オーナーが店員に伝えたのはシエルたちの時間潰しのことだったのか。
お見事、抜け目なしである。
支払いを済ませて、服をアイテムボックスに収納して店を出る。
その後は野菜を買いながら家に戻り掃除である。
ある程度掃除をして思うが部屋数が多いと掃除が面倒だな。
何人か雇うか?
そうなるとシエルたちのことで要らぬ揉め事がありそうだしこれも面倒だ。
シエルたちのことでもあるし皆で話し合うか。
三人寄れば文殊の知恵と言うしな。
というわけで掃除が終わってからシエルとシールを呼び内容を伝える。
「奴隷を買う」
とシールの意見。
脳内の知識を検索すると、少しややこしいことが判明した。
人の奴隷に無断で手を出してはいけないとか、所有物として扱うとか、衣食住を提供しなければならないとかルールもある。
そして奴隷には階級がありその階級によって扱う待遇が違う。
1級奴隷は、期間限定の奴隷という扱いで、奴隷と名が付くが一般市民と同じ権利を有する。
収容所に送られて、内職させられたり、国王の偉大さを讃えさせられたり、貴族へ奉公させられたりなど何人たりとも危害は加えられないので、なんらかの隠れ蓑や盾として貴族に利用されている。
2級奴隷は別名、借金奴隷や労働奴隷とも呼ばれている。
別名通り、借金を返済するまで働いて完済すると解放される。
待遇は一般平民と殆ど変わらないが強制労働となり、年中無休でブラックなところに買われれば完済する前に死んでしまうこともあるようだ。
また、一定の年齢になると強制的に3級奴隷に堕とされて鉱山奴隷になる者も少なくない。
特別な理由がない限り危害を加えることが出来ず、またそれ以外の理由で危害を加えた場合、所有者が罰せられることになる。
最後に3級奴隷だが、これこそが本当の奴隷である。
実験の被験者や、武器魔法の試験用、戦争の最前線に送り込むなど人権なしだ。
もちろん、殺すも犯すも自由に出来る。
親が奴隷である、密猟者や奴隷狩りに売られる、犯罪を犯す、戦争相手国の捕虜、貴族の気分を害した不敬罪、冤罪などでなるようだ。
非常に安価で、解放されることは殆どない。
奴隷の所有方法は奴隷商や商館で購入したり、奴隷所有者からの所有権譲渡だったり、拾ってきた者を役所で登録などで出来る。
ちなみに、奴隷の階級の見分け方は首輪にあるラインの色だ。
黄色なら1級奴隷、緑色なら2級奴隷、赤色なら3級奴隷になる。
以上のことを踏まえて考えると、買うとしたら3級奴隷しかない。
最終的に奴隷から解放されるならシエルたちのことを話して要らぬ面倒事がやってくるかもしれない。
シエルたちのことを黙っていてもらわないといけないし、最悪の場合は処分して口封じ出来るからな。
ここで不思議なことに気付いたが、人の命を買うということに抵抗がない自分がいる。
今までの戦いで命の軽さというものを知って変わってしまったのかね。
考えても意味がないことだな。
「買うとしても明日だがな」
「そう、だね」
シールも頷いてる。
ま、今日の面倒事は終わりだ。
ご飯食べて風呂入って寝るか。
◆
翌日、俺は奴隷商に来ている。
もちろんシエルたちも一緒だ。
奴隷商は小綺麗で大きな建物だった。
表通りに堂々としているところを見ると、後ろ指さされる商売はしてないということだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」
ビシッと決めたおっさんがやってくる。
他の店員と比べると豪華な服なので店主だろうか。
「3級奴隷を買いたい」
そういうと顔が曇った。
「先日、さる家の方が纏めて購入されまして殆ど残ってないのです」
タイミングが悪かったか。
でも、殆どってことは全部ではないってことだろう?
「殆どってことは少しは残っているんだろう?」
「昨日仕入れたばかりの奴隷が2名いますが、欠損が酷く、長く持ちそうにないので売り物になりません」
「それでもいいから見せてもらえないか?」
店側としても高い奴隷を買ってもらいたいだろうが、こっちの目的はあくまでも3級奴隷だからな。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
シエルたちには扉の前で待ってもらうことにする。
奴隷たちを入れている部屋に近付いたら微かに臭いがしたからな。
何の臭いかは察してくれ。
中に入ると酷い臭いだった。
色々とヤバイ。
そういや、中世ヨーロッパでは窓から普通にアレが入った壺を捨ててたとか思い出した。
ある意味ショック治療だ。
街はそうでもなかったんだが、清掃をしているのかね。
下らない考えは脇に退けて目的の2人を見る。
どちらも服は着ていないが、男のシンボルがないところを見ると女性だろう。
うん、本当に欠損が酷い。
金髪の娘は、両腕と右足が膝から下が無く、焼いて止血した跡が見られる。
汚れてて見分けにくいが薄い水色の髪をしている娘は、左腕と両胸がなく、こちらも焼いて止血した跡がある。
「随分と酷いな。奴隷狩りか?」
「その通りです。亜人の奴隷狩りで集落を襲ったとのことですが、この2人に足止めをされて、その他は逃げられたとのことです。その八つ当たりとしてこのような状態に……」
戦闘能力もあるってことか。
八つ当たりしなければそれなりの値段になっていただろうに。
言わないけど。
俺には四肢の欠損なら問題ないので買うことにする。
あのクソ神の報酬にエリクサーみたいなのを頼んだのだが今回はそれを使う。
エリクサーのようなものは2種類あって1つ目がラストエリクサーというもの。
この世界にもやっぱりエリクサーがあるが、製造方法が極めて困難というものだ。
そのエリクサーの上位互換で、欠損の修復時に発生する激痛が殆ど無くなり、呪いの類いにも有効という優れもの。
ラストエリクサーは15個もらっている。
そしてもう1つが、神酒というもの。
こちらは、更にラストエリクサーの上位互換なのだ。
欠損も呪いも何でも治し、死体の状態が綺麗という条件付きで蘇生の可能性もあり、摂取した生き物の能力とか格を引き上げる効果もあるというトンデモ性能だ。
こちらも15個もらっている。
どちらも簡単には使えない物なのだが、この2人になら使ってもいいと思っている。
理由を聞かれたら、勘とか何となくとしか言えないが、人を見る目と勘はそれなりの的中率だ。
この2人を買うことを伝え値段を聞くと合わせて銀貨6枚とのこと。
日本円に換算すれば6,000円で、1人の命が3,000円で買えるのだ。
かなり驚いたが表情には出さず、銀貨を多めに渡す。
「これで少しはマシにしてくれ」
応接室に案内されたのでしばらく待っていると店主と奴隷の2人が入ってくる。
金髪の娘は店員に支えられており、2人とも貫頭衣のような服を着ているがつくりは簡素で、安物であることがわかる。
「では、奴隷契約をいたします。血を1滴ずつ、よろしいですかな?」
奴隷契約は主人となる者の血を、奴隷の首輪……隷属の首輪というマジックアイテムらしい……に刻み込む必要がある。
奴隷商からナイフを受け取り、指先を切り、血を首輪に垂らすと契約が終わった。
苦しむとかもなくあっさりとしていたな。
奴隷たちを抱えて家に戻る。
シエルたちと手を繋げないのは仕方ないが今だけ我慢してほしい。
。




