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第1話 3度目の死


「お兄ちゃん……」


今にも泣き出しそうな義妹のアイリス・ルーミエルト。

来年で40路に突入するとは思えない若々しい義妹。

外国人って若々しくていいな。


「なーに、先に行ってるだけだ。あんま早く来たら追い返すからな」


俺、愛内克(あいうちすぐる)は呆れた気持ちで、自分より背の高い義妹の頭を骨の手で撫でる。

俺は死んでスケルトンとして黄泉がった元人間。


「んじゃな。元気でいろよ?」


「うん…」


陣の中に入る。

自分を消滅させるために。

月日が経つ事に化け物としての俺が出てこようとするのが強くなった。

俺は、俺が俺でいれるうちに消滅することを選んだ。


隊長に視線を送る、目はないけど。

それを合図に陣が光り、輝きを増す。

その光は俺を浄化する光。




走馬灯というのだろう。

人が命の危険に陥ると今までの経験を思い出し、乗り切ろうとする為に見えるという。

俺が忘れた昔のことや、アイリスと出会ったときのこと。




当時の俺は、農業高校を卒業して母さんの実家の農業のあとを継いだ。

南の離島の田舎で、特産になるような物は作っておらず、自給自足で米も茶葉も野菜も自作だった。

肉だけは家畜をしている人との物々交換で手に入れていた。




3年もあれこれと慣れないことも経験して、何とか一通り出来るようになってきた頃に世界は異界と化した。

突如と現れた人とも動物とも違う者。

今では、ゴブリンやオーク、ドラゴンなど呼ばれている魔物と言われるものだ。


人類は必死に抵抗したが、余りの数の多さや巨体を持つ魔物に徐々に追い詰められていった。


その時の俺は父の実家がある九州にいた。

俺は何も出来なく、国の指示に従って避難していた。


どこかはわからないが、大勢の人と森の中の集落で過ごしていた。

最初は国や軍の人が何とかしてくれるだろうと思っていたが、1ヶ月、3ヶ月と経っても現状は変わらず食料も心持たなくなった。

人に頼ってはダメだ、と思い俺は集落を出た。

中学、高校は柔道をやっていたのでゴブリンやオーク、ウルフなどは1体1なら何とかなった。

どれくらい歩いたか忘れたが、どこかの山で近くに川がある場所を拠点にして、簡素な家を建てて、農業をして、魔物を狩って一人暮らしを始めた。

時折、山を降りて、無人となった街を探索して必要な物資を補充した。

火事場泥棒だが、生きる為に仕方がなかった。

その時、今の俺の相棒である刀を見つけたんだよな。




そんな生活を4年続けて25歳になった。

いつも通り、街に降りて物資の補充をしようと思ったら途中で女の子が倒れてたときはビックリした。


顔は可愛く、金髪ロングヘアーで15歳ぐらいの女の子。

どう見ても日本人じゃなかった。

こんなところに放置は出来なかったから家に運んだ。


目を覚ますまで砥石で刀を研いだり、料理をしていると女の子が目を覚ました。

名前は、アイリス・ルーミエルト、12歳だそうだ。

外国人の年齢は見た目じゃわからんな。

事情を聞くと、彼女は飛び級で学者になって天才少女で、この地の異変の研究にきていたそうだ。

だが、ここで魔物たちに襲われ逃げて途中で力尽きたのだという。

まぁ、この辺りは俺が狩りをしてるからそこまで多くないだろうが、街の方は多いだろうな。

どこにも行く宛が無いので、救助隊が来るまで泊めて欲しいというので快諾。

下心がない訳ではないが、やはり人の温もりを餓えてたのだろう。




そして1ヶ月経つとヘリコプターが飛んできた。

流石に、お偉いさんは救助されるな。


俺は家に戻ろうすると、アイリスから一緒に行かないかと誘われた。

特に断る理由もなかったので承諾。


それからは幸せだった。

昔のように街には人が歩き、軍がいて守っている。

元いた場所からすれば天国だ。

家もアイリスが使っていない部屋を使わせてくれた。

アイリスが、兄と慕ってくれたのが嬉しかった。

安心できる場所があるのは幸せだった。




そんな幸せは1年で終わった。

20mはある大型のドラゴンが襲撃してきたのだ。

軍の抵抗を嘲笑うかのように、城壁を破壊した。

それに伴いゴブリンやオーク等の魔物も侵入してきた。


俺も必死に戦い、アイリスを逃がした。

こんな数が追ってきたら逃げきれないだろうから、ここで足止めすることにした。




それからどれくらい戦っただろうか。

とにかく視界に映る魔物を斬り続けた。

時間の感覚も無く、思考もボヤけて考えられない。

だが、戦わなければいけないことは覚えている。

だから、ひたすら戦った。




最後に、ドラゴンが倒れた。

この街を襲ったドラゴンだ。

この辺りには魔物がいない。

喉が渇いた。

近くの川に水を飲みに行き、川に映る自分を見て気付いた。

骨だけになった自分がいた。

俺はいつの間にか死んでいたようだ。

何かを失ったような気がした。




戦い続けた。

魔物を倒し続けた。




どれくらい月日が経っただろうか。

武装した人の集団がやってきた。

無視して、魔物を倒し続けた。




魔物を探すが見つからない、何故だろうか。

少し疲れた、休むか。




「ーーーーー!!……ーーー…ーーーーー!!……」


誰かの声が聴こえた。

聞き覚えのある懐かしいような声だ。

顔をあげると、見覚えのある顔が映った。

勝気なややつり上がった猫目に、綺麗な水色の瞳、金髪ロングヘアーの美少女。


「アイ…リス…」


そうだった、俺はアイリスを守る為に戦っているんだ。

戦わなきゃいけない、アイリスを守る。


「タタカウ…アイリス……ヲマモ…ル…」


「もう大丈夫だよ!!大丈夫だから戦わなくていいんだよ!!」


大丈夫…?

そうか、俺の役目は終わったのか。

よかった、本当によかった。


「ヨカッタ……」


力が抜けた。

急に眠たくなってきた。

少し寝よう。




目が覚めた。

周りを見れば知らない部屋だ。

どこだろう。

俺はどうなっているのだろうか。


機械の音がしたので、そちらを向くと武装した人が2人とアイリスがいた。


「お兄ちゃん…?」


不安そうな声だ。


「愛内克の妹で金髪なのはアイリスだけだ。違うなら、人違いだぞ」


出来るだけ、昔のようにからかいながら話した。


「お兄ちゃん…!!」


後はタックルモドキの抱擁と涙と鼻水で顔をクシャクシャにして、お兄ちゃんと連呼するマシーンになった。

落ち着くまで頭を撫でてやった。


アイリスが落ち着いたので話しをする。

研究が進んで魔物に有効な攻撃方法が見つかったこと、それを自分がしたこと等を話してくれた。

どうやって俺を見つけたのか、と聞くと…


「人を襲わないで魔物だけを襲う刀を持った魔物がいるって噂があったんだ。それで生き延びれた人もいたの。その場所が私とお兄ちゃんが住んでた街で、もしかしてって思ったのよ」


それに刀を使ってる人ってお兄ちゃんだけでしょ?とのこと。

だからって、確かめもせずに直接会いに来るとは無鉄砲さは相変わらずだな。


それからは行動範囲は限られるが、人と変わらない暮らしができた。

アイリスもちょくちょく遊びに来てくれた。

たまに、アイリスの対魔物実験に付き合ったりした。

無くしたものを再び手に入れることができた。


だが、それにも終わりがあった。

自分の存在が不安定になった。

アイリスを守るという執念でスケルトンになった俺は、守ることをしなければ自我が消えそうになる。


だから、頼んで城壁の外の危険地帯で戦うことにした。

これが守ることだと思って。


たまに、街に帰ってアイリスと会ったり近状報告をしたりして、戦いの日々に戻るのを繰り返した。


強敵たちとも戦った。

体術の達人、斬ることしか頭にない狂人、億を超えるアンデット軍勢を率いるリッチロード、50mはあるドラゴンとか色々。

まさしく、死闘で激戦だった。

よく生き残れたと思う。




そんな戦いを繰り返してるうちに、少しずつ自我が無くなりつつあった。

魂がこれ以上留まれない、不思議とそう理解出来た。


俺はアイリスに頼んで消滅の準備を進めてもらった。






なんで今になってこんなことを思い出すのかね。

死ぬのが嫌になるじゃないか、死んでるけど。


身体が崩れて灰になっていく。

最後に見えた風景は、アイリスが泣いてるとこだった。

全く、泣き虫昔から変わってないな。

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