日常
梅雨も終わり、草木は緑がこれでもと自己主張を始めた季節の昼過ぎ
女神は就職活動に勤しんでいた
前回の離職より数ヶ月、ようやくやる気を取り戻して働く気になったのである
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい女神様。いかがでしたか?」
今日は面接に行ってきた
照りつける太陽に汗だくになりながら、帰ってきたので喉もカラカラだ
しかし今日は実りある結果ににんまりしてしまう
フィールは氷を入れたグラスに麦茶を入れて女神に手渡すと、1口で飲み干してしまう
「あれ?寝てる?」
部屋の中で、窓を開けて山から吹き降ろしたやや涼しい風にあたりながらアインとアンナは寝ていた
「はい、今朝涼しいうちにって草刈りに行ったはいいんですけどみんな考えることは同じで結構人がいたんですよ。で、人の目がありすぎてスキルが使えなくて」
「なるほど、スキルなしで草刈りをして疲れたと」
「はい」
女神とフィールが目を合わせてくすりと笑う
「私は来月から仕事決まりました」
「おめでとうございます女神様」
アインとフィールは女神が無理に働く必要はないと思っていたが、どうやら女神がここで働くと言うのはちゃんと理由があるらしい
2杯目の麦茶を飲みながら
ふと見ればアインはすっかり熟睡している、しかしアンナは二人の話し声で起きてしまった
「あい…」
目をこすりながら、フィールの横へトコトコと歩いて来て
「おみじゅちょーだい」
喉が渇いたのかそう言った
アンナはもうすぐ2歳になろうかとしている
やはり身体能力は高いようで、歩き始めてからと言うものどんどん体力もついて今ではアインの野良仕事について行き、手伝いをする様になっていた
「本当に、良い子ですね」
「女神様…」
コップを小さな手で掴み、ゆっくりと飲む姿がとても愛らしい
最近、髪の色がうっすらと赤く見えることがある
魔王の髪は真紅だったから成長したらその色になるのかもしれない
確かに、この子は魔王の血を引いている
その身に宿る力、これから獲得するであろう力はきっととても強大で
アインですら単身では適わないだろう
だけどもアインを筆頭にフィールや女神もこの子を愛している
だからきっと、もう二度と間違ったことにはならないーきっと。
「もう少し寝ますか?」
水を飲んでコップを持ったままうつらうつらしているアンナを抱き上げコップを受け取る
するときゅっと服を掴んでそのまま女神の胸を枕代わりにすうすうと寝息を立て始めた
「すまないな」
いつの間にかアインは起きて台所に来ていた
「いいんです。私はこの子を守りたいからこの世界へのゲートを開いたのですから。むしろ直接抱けるなんて思っても見なかったから…」
何らかの事情を含んだ物言いにアインはふと思う
「なあ、アンナの母親ってもしかして」
「私では無いですよ」
「なんだ、違うのか」
「ええ、違いますから。あ、本当に違いますからね?」
「しつこいな、分かったって」
「まあ、今はまだどうでもいいか。アンナがもっと大きくなった時には真実を伝える…俺は父親ではないからな…」
「そんな事はありませんよ、血の繋がりが何ですか。私が見る限り、貴方は立派にこの子の親ですよ」
「そうか?ありがとう」
最近、アインは素直にお礼を言うようになった
それに対し、女神が頬を赤らめる
「さてと、また夕方から少し仕事するか」
アインはそう言うと、部屋の中に帰っていく
もう少し仮眠するらしい
----------
夏の夜
「だあからあ、あんのくそおやじがさあー聞いてんのかー?勇者アイン?」
「ああ聞いてるよ!ったく、酒癖悪すぎだろ…」
女神にバンバンと背中を叩かれるアイン
フィールは眠そうなアンナを連れて寝室としている部屋に行ったまま帰ってこない
「くそ、アイツ女神の酒癖知ってて逃げやがったな」
ことの起こりは、夕方仕事をした水谷さん家だった
お中元と書かれた酒類
それを水谷のばあちゃんが大量にアインに持って帰れと渡したのだ
水谷のばあちゃんの、亡くなった旦那さんは昔医者だったらしい
そのせいか、未だに大量のお中元が届くのだが大酒飲みだったせいか酒類が大量に届くのだ
ハムや缶詰ならばばあちゃんが多少は消費できるが、酒は飲まない為にその処分にあてられたみたいだ
持ち帰れば当然、アインとフィール、女神で飲む話になる
そして結果がこれだ
ただただ泥酔した女神が愚痴り始めた
職場のオヤジ達のセクハラがどうにもストレスを溜めていたみたいで
女神はひたすらに耐えていたのだろう
ーまあアインはその愚痴に耐えているのだが
「まあ、あまり飲みすぎんなよ」
これ以上は付き合いきれないと席を立とうとするが、右手首をガシッと捕まれ
「ふぐぅ…ひどりにしないでぇ…」
「なんでいきなり泣いてんだよ!」
こうなってしまえばもう威厳もなにもないな
その後アインは日付が変わり朝日が差し込むまで女神に絡まれた
もう二度とコイツには酒を飲ませねぇ
そう誓った夏の日だった