帰ってきた魔王
「よっと」
瓦礫をひょいひょいと軽かに躱しながら進む
するとそこにボロを纏った二人の子供が座っていて、その前にはガラクタが大事そうに並べられている
「や、君たち何売ってるの?」
子供が見上げると
やや、赤みがかった美しい髪がさらさらとしている女性
この辺りでは見ない服装のそれは、ダメージジーンズにスニーカー、白い半袖のTシャツだ
笑顔がとても眩しく見える女性に、勇気を出して声を絞り出す
「お姉ちゃん、何か買って行ってよ…」
力のない声で、子供はそう言った
もう1人の子供は病気なのか、目を瞑りハァハァと息を忙しくしている
女性はそのガラクタを見渡すと、はあ、とため息をついてから
「お腹すいてる?それとその子は病気かな?」
「うん…」
彼女の問いかけに力なく答える
彼女は背中のデイバックの中から水の入ったペットボトルを取り出すと、キャップを外して
飲んで良いよと子供に渡す
「み、みず…」
恐る恐る口を付けて飲み始める
この辺りの井戸には毒が投げ込まれており
飲めば死にはしないが体調を崩す
だから水は貴重だ
子供は出されたペットボトルの水を我を忘れて飲む
ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ
ハッとして、隣の息苦しくしている子供の口元にペットボトルを持って行く
「優しい子だね」
彼女はくすりと笑いデイバックの中からロールパンを取り出して、子供らに渡す
食べなよと、言って
しかし、病気の子はもう長くは無さそうで
かはっ
口に入れた水を飲み干すことが出来ずに吐き出していた
「癒しを」
彼女がそう言って病気の子に手を当てて言った
淡い光が包み込む
するとあれだけ顔色が悪かった子供の体調が元に戻る
「え…あれ?お兄ちゃん?」
「リ、リノ?大丈夫なのか!?」
「うん…何だか急に平気になったよ!」
二人の子供は抱き合って泣いた
笑顔で
「うん、やっぱり子供の笑顔はいいね。ほら、パンはまだあるから食べな。ゆっくり食べなよ?」
「あ、ありがとうお姉ちゃん!」
彼女はその笑顔が見たかった
ただ、それだけだ
「おいおい、いいもん食ってんじゃねぇか」
振り向くとそこには剣を抜き放った冒険者が3人いた
「とりあえずその鞄、置いていって貰えるかなあ」
ニヤニヤと厭らしい笑を浮かべる冒険者
「はあ、物取りとはレベル低い奴らよね」
「お、お姉ちゃん逃げて!あいつらここらでもいちばん強いんだ!」
しかし、彼女はデイバックに手を入れると
明らかにその中に入らないサイズの剣を取り出す
すらりと鞘から抜き放つと陽の光を反射し、きらりと光る
「な、なんだそりゃ…綺麗だが細い剣だな!飾り剣なんぞでどうにかなると思ってんのか!?」
ギャハハと笑う冒険者、いや盗賊ー
「菊一文字則宗、沖田総司の愛刀よ。正直あんたらにはもったいないけどこれでいいわ」
そう言うと彼女の姿が消えた
ギィン!
音が響き渡る
「あん?」
すると彼らの手にある剣が全て
切り落とされていた
正確には彼らの、その腕ごとだ
鉄の腕あてをしていたにも関わらず
「ひいぎゃあああああああ」
盗賊が叫ぶ
「またつまらぬ物を切ってしまった」
そう彼女は言うと、ぷっ、と小さく笑う
「くそう痛え!殺してやる!ぶっ殺してやる!」
これだから小物は…実力差もわからないの
と彼女は思い、トドメが必要かもと思いゆらりと盗賊に近づく
「その辺にしとけ」
彼女は少しだけ後にステップを踏む
「チッ、気づいたか」
先程まで彼女がいた場所にナイフが5本
空から降ってきて地面に刺さる
「あら?貴方は少しだけ出来そうね」
「ぬかせ、しかしとんでもない業物だなその剣は」
「わかる?そうなのよ!美しいよね!これ日本刀って言って刀って言うのよ」
「その「かたな」とやらを置いてゆけ。見逃してやろう」
そんな事が通るはずもないだろうと思ったその瞬間
「お兄ちゃん!!」
彼女は振り向くと先ほどの子供の肩にナイフが刺さっていた
「次は脳天に落ちるかもしれんな・・・ククク」
パチンと刀を鞘に収める。それをデイバックにしまうと、かわりに一振りの剣を取り出す
それもまた、美しい剣だ
「ほぅ…どこかで見たことがあるなその剣は」
「聖剣…エデン…」
「なん…だと。その剣はまさか!キサマ勇者か!!」
盗賊が慌てて構えるが
もう遅い
ギギギギギィン!
天から降ってきたナイフを全て弾き飛ばす
聖剣の効果により、彼女と子供には物理防御のフィールドが作られている
「くそう!赤き四足の獣よ!眼前の敵を焼き尽くせ!!フレイムドッグ!」
マナが収束し、炎が獣を形作る
正しい判断だと彼女は思う
その魔法であればこのフィールドは干渉しない
だが
甘い
「私は勇者じゃないよ」
そう言って剣を一振り
フレイムドッグが消えるー
そしてそのまま斬撃の威力は盗賊に届き、盗賊の腹に命中して彼の力を奪う
「く・・そ・・・」
そのまま意識を失って倒れた
「ほら、そこのあんたたち親分担いで帰りなさい。死んで無いから」
ぽかんと口を開けていた盗賊達
彼女は彼らにも癒しを施し、先ほどの傷を癒してから追い立てた
当然、子供のナイフ傷も癒す
「凄い・・お姉ちゃん!本当に勇者みたいだ!」
「ありがとうお姉ちゃん!」
子供二人はキラキラとした目で彼女を見る
彼女は聖剣エンデをデイバックに入れて
「ううん。私は勇者じゃないよ、それはお父さん。私は・・・そうね、魔王、魔王アンナだよ」
そう言って笑った
ちょっとだけ未来のお話編その1です