こんにちは赤ちゃん
ただいま編集中
日本に来て一夜が明けた
外は明るくなってきている
この街の人口はおよそ10万人、周りは山に囲まれ限界集落の村などにも囲まれているいわゆる田舎だ
季節的に霧が発生しやすいこともあり、外は明るいが真っ白だ
「さむっ・・・」
こんな長年住んだ様な知識もちゃんとあるんだな・・
それが感想だった。違和感はない、まるで本当この街に住んでいたかの如く経験があったのかというほどすらすらと理解できる
お腹がすいた・・・
食料のみかんの缶詰があるのになぜ腹が空いているかと言えば
全て女神のせいだ
あんのポンコツ女神、缶詰は用意していたくせに缶切りか無かった
故に未だ何も食べてない
最後に食べたのは決戦前か…
あのシチューは美味かったなあ
思いを馳せていると、隣から声が聞こえる
「よっし!上がったー!利益確定だ!」
ん?
この声…聞き覚えあるな
「ピザでもとるかなー」
壁が薄いせいか、良く聞こえるな…
この声、アイツか!
バタンとドアを開けて隣の部屋に向かう
ボロい廊下はキシキシと音をたてている
今どき完全木造とか凄いなと関心しつつ
隣のドアをノックするが、出てこない
10連打する
20連打する
ガチャリと勢いよくドアが空いた
「ちょいと煩いししつこいんですけどー!新聞はいらな…い…っ!!?」
慌てて今開けたドアを閉めようとするが、ガッシリと掴む
「なあ、何やってんだよ」
「人違いデス」
「人じゃねえだろ」
「神の使い違いデス」
「神の使いなのは認めるんだ?」
「黙れ帰れこっち見んな勇者」
「間違いねぇよな?」
「ナンノコトデスカ?」
わなわなとドアを掴んだ腕が震え
バギっとめり込む音がする
ああ、やはりそうだ、こいつじゃねえか
「フィール、てめぇ良く俺の前に顔が出せたな」
全部コイツのせいだ!
所持金が心もとないのも
缶切りがないのも!
きっと俺の顔は今真っ赤で、鬼の様になっているだろう
「ひいいいい!」
部屋の奥に隠れるフィールを追いかけて俺はドスドスと踏み込む
そこにあったのは芸術
美しく、そして無駄がなくまさに完璧
緊張感さえただようその
土下座
「申し訳ございませんでしたァァァ!」
ん?なぜいきなり謝ってんだこいつ…
まだ何も言ってないのに
確かに俺は怒り心頭中だ
だがそれが何かを伝えていない
怪しいな
「で?」
俺はフィールの言い訳を誘導する
「はい、女神様から頂いた準備金を使い込んでしまいましたあ!よかれと、よかれと思ってええ」
床に頭を擦りつけながら叫ぶ
「ただ今しがたヒットコインが上昇したとこ確定させましたので、数百万は利益が出ました!」
なにやってんだコイツは…
「で?」
「これは全て勇者様のー」
その後もフィールの悪事がどんどん出てくる
まあ、最初の準備金が1000万ありこのアパートを格安にて手に入れたこと
余ったお金で食料(ミカンの缶詰)や衣類を手に入れたこと
そして家賃で収入を得ようとしたが、借り手はなく準備金は尽きて途方にくれていたところ、仮想通貨に手を出して今利益がでたとこらしい
転移した俺をサポートするためひと月以上前から日本に居たフィールはバイトとか色々としていたらしい
まあいい、とりあえずお金は何とかなりそうだ
「まぁいい、利益でたなら問題ないだろ」
「ありがとうございますー!」
ちなみにこのフィール、見た目は可愛い女の子に見えるが性別はない
あと前の世界でもサポートをしてくれていた
仲間とも言える奴だが
まあまあポンコツなんだよな…
土下座を解いたフィールのおでこは真っ赤になっていた
「とりあえず私、これから銀行にお金下ろしに行ってきますね。あとピザ頼んでるんで食べて下さい。お腹空いてるでしょう?」
そう言ってフィールは出ていった
フィールの部屋には脱ぎ散らかした衣服とパソコン、布団、あとコンビニ弁当のかすが散らかっていた
「すみませーん。ピザお持ちしましたー」
フィールと入れ替わる様にピザ屋が来る
有難く頂くか…
「2500円になりまっす」
ピザ屋のお兄ちゃんは元気よくそう言った
あのポンコツ…
「金置いて行けよおおお!!」
俺の財布から諭吉が消えた
この世界最初の食事はピザだった
美味かったが何か釈然としなかった
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フィールが何時まで経っても帰って来ないので探索がてら近所をウロウロすることにした
この辺りはかなり郊外になるらしく、隣の公園の他には田畑しかない
木造オンボロアパートの横には小さな川が流れていて、アパートには庭があり畑もあるようだった
前のオーナーが菜園でもしていたのだろうか
しかし、見渡す限り田畑だな…
遠くには街らしき建物が見えるので、ひょっとしたらフィールはあそこまで歩いて行ったのだろうか?
ボーっとしていたらいつの間にか夕暮れで
フラリと隣の公園に入り、あのベンチに座る
「はあ、まだ実感は湧かないな」
目の前の虚空を眺めながら昨日、今日を思い出す
本当に夢の様だ
「ステータス!」
思わず唱えるが何も現れない
ただ静かに川の流れる音だけが聞こえる
さて、アパートに帰ろうかと立ち上がったその時だった
目の前に黒い穴ー全てを飲み込む様な黒い虚空が現れる
バチッ
バチバチッ!
な、なんだ!?雷か?いや、これは魔法か!
暗い穴の中からゆらりと体の大きな魔族が現れる
それは大きな牛のような角を二本頭から生やしており背中には黒い翼が・・・
ゾクリ
覚えがあるこの姿と魔力波動・・・
漆黒の魔王・・エルアドラ!!!!!!
なぜこんなとこに!?俺を追いかけてきたのか!?
「***************************」
魔王が何か言ってるが理解できない!!言語が違うんだ!
くそ!!足が竦んで動かない!!
この体弱すぎるだろ!!くそ!
「ステータス!ステータス!開けよステータス!!」
力を振り絞って開くはずのない物を叫ぶ
しかし呼びかけに応えたのか
目の前にパッと開く「勇者アイン」のステータス
開いた!!!
言語変換をオンに!!あと恐怖耐性もだ!!
聖剣!!!
体から聖剣を取り出そうとスキル発動を試みるー
その時、魔王は消えそうな声で言った
「・・・・頼む・・この子には罪も・・もないんだ・・」
魔王はそう言うとがくりと膝をついてその震える両手に抱えた赤ん坊を差し出す
な・・んだ?
「受け取れっていうの・・か?」
すやすやと眠る赤ん坊だ・・魔王の子か?
しかし見た目は人の子と変わらない
「頼む・・・・・・力を・・・」
俺は足を踏み出し、赤ん坊を受け取る
俺の右腕にふわりと優しい光が宿る
赤ん坊も、その優しい光に包まれている
「あり・・がとう・・・」
そう言い残すと魔王はそのまま砂になってズズズと崩れ落ちた
「なん・・・だってんだよ」
俺はなんだか・・やるせない気持ちになっていた
魔王の正面には大きな傷があった
それでいて魔王は笑っていた
あれはきっと俺の・・勇者アインの最後の一太刀だ