#1-1 下着泥棒の悩める朝
「《指喰み男》ねえ……」
桶子といろいろあった翌日、冬平は自分の部屋のテレビを眺めながらそんなことを呟いた。
六畳一間。風呂別、トイレ有。駅から徒歩一〇分。実を言えば、冬平も一人暮らしの身の上だった。
自由奔放すぎる兄と自分におかしな技術を叩き込んだ父、そしてそれらをすべて黙認していた心優しい母と世話焼きなのか無関心なのかどっちつかずの妹。それら四人から逃げ出したい一心で必死に説得した結果の賜物だ。
「まさか巷で噂の通り魔さんがひと駅隣に住んでいるクラスメイトとはなぁ……」
呆然と視線を送る先は、テレビが垂れ流すニュース番組だった。
去年の頭から始まったという連続通り魔事件。道行く男性の右手の親指を切り取って持ち去ることから《指喰み男》と呼ばれていたその通り魔が、よもや下着泥棒の八つ当たりをしている女子高生などとは天地がひっくり返っても思うまい。
どうやら巧妙に監視カメラの死角を突いて犯行を重ねているらしく、被害現場もバラバラで犯人の見当もつけられないのだとか。無論、目撃情報も被害者が指を切られた後のものばかりで、見事に犯行の瞬間を目にしたのは桶子曰く冬平が初めてだそうだ。
「暗殺一族の出身とかじゃねえだろうな……」
冬平は軽く戦慄いた。意中の相手がまさかここまで手練れの通り魔だなんて誰が想像できようか。
そんな風にぼけっとしている間に通り魔のニュースは終わり、別の内容に移った。さすがに特集を組んでいただけるほどホットな事件ではないのだろう。
「さて、学校行くか」
一人で呟いて、冬平はカバンを持って家を出た。
クラスメイトが通り魔だと実感したばかりだと言うのに切り替えの早い男なのだった。
「くあぁ~」
外に出るなり、冬平は大きな欠伸を洩らす。
昨晩、結局桶子の家まで付いて行った冬平は、部屋の片付けをさせられた。別に桶子が散らかしたものではない(と本人が言っていた)ので然したる文句も出なかったが、問題はそこではない。
帰宅するなり桶子が通報したせいで、事情聴取に相当な時間を食われてしまったのだ。幸いにしてひと駅先なので終電がなくなってもどうにか歩いて帰ることはできたものの、それでも眠いものは眠い。おまけに無駄な労働を強制されたせいで心身共に堪えていた。
「割れた窓を補強するくらい自分でやれっての……」
ぼやきながらも、夜更けまで桶子と一緒にいられたことが少しだけ喜ばしかったりするあたり、冬平は非常に単純な男だった。
と、噂をすれば何とやら。駅まで向かっていた冬平の視界に、つい最近見た後ろ姿が入ってくる。
光をも吸い込まんばかりの黒い長髪は普段通り纏めていないくせに整っていて、雲のように淡く白い肌は夏の陽光でも負けじと美しい。息を呑むほど姿勢がいい彼女は、今日も楚々としたイメージを保っていた。
(ほっとしたような、惜しいような……)
もどかしさを抱えたまま、冬平はとりあえず声をかけることにした。
「よっ、漁木。五時間くらいぶりだな」
「え……?」
肩を軽く叩いてフランクに挨拶すると、どういうわけか疑問の声が返ってきた。
「えっと?」
「昨日の今日で忘れんなよ! さすがに傷つくわ!」
「えぇっ!? ご、ごめんなさい……?」
「うん?」
猫を被っているだけなのか、相手の反応はどうにも不自然だった。まるで本当に覚えていないようにも見える。
気になった冬平は、不躾にもまじまじと顔を覗き込んだ。
(どのパーツを取っても漁木桶子そのものだよな……。ひょっとして日付が変わると記憶がリセットされちゃう系女子だったのか?)
どこかがおかしい。何かが引っかかる。
何よりも、冬平に見つめられて耳まで顔を赤くするあたりが特に怪しい。誰なんだこの色白美少女は。昨日話した限りでは『しゃべらなければ美人』というイメージだったはずなのだが、これでは『居ても立っても美人』ではないか。いや、それで良いのか。
そう冬平が真っ向から訝っていると、漁木桶子そっくりの記憶喪失系女子(仮)はすっと顔を俯けた。
「えっと、その、ひょっとして丹澄って名前だったりしませんでしょうか……」
「はい、丹澄です。あなたの丹澄冬平です」
「えぇっ!?」
思わず相手の口調に合わせて感情の向いたままに出任せを口にすると、女の子は余計に顔を赤くしてしまう。
「あの、非常に言いにくいんだけど……」
「冗談についてなら心配ないぞ。そっちの方がお前らしくて好感が持てる。その他でもどんと来い。俺はお前のすべてを受け入れる大きな器を持った男だからな」
「は、はぁ……。じゃあ、遠慮なく。桶子ちゃんなら、一つ隣の駅に住んでるよ。人違いじゃない?」
「うわ、確かにそうだ!」
夜中に一人寂しく歩かされたことは記憶に新しい。冬平は自分のミスに慌てた。
「すまん! あまりにも似ていたからつい!」
「う、ううん。いいのいいの。桶子ちゃんから聞いてたから」
「漁木から……?」
堂に入った土下座から顔を上げた冬平は、そっくりさんに問いかける。
「漁木桶子さんとはどういった関係で?」
「姉妹かな。私がお姉ちゃんで、桶子ちゃんが妹」
「……年上でしたか」
というか、桶子はこんな優しそうな人を玄関先に吊して下着泥棒対策をしていたらしい。
(この人が盗まれなかったことが不思議でならねえな)
桶子と瓜二つの風貌ではあるが、冷静に接してみれば雰囲気は穏やかで柔らかい。こんなお姉さんが玄関先にこれ見よがしに吊してあったのなら、丸ごとでなくとも下着くらいは盗まれていてもおかしくない。冬平ならきっとそうした。
「というか、その制服なのに私を知らないってことは、さては丹澄くんって集会とかで寝るタイプ?」
「ぎくり」
むしろ寝ない生徒の方が異常なのでは? と反駁するよりも前に、図星を衝かれた冬平は全身を強張らせた。
その反応に若干呆れた素振りを見せつつも、背筋をピンと伸ばす漁木(姉)は胸を張る。たぷんと揺れる凶器から冬平がさっと視線を逸らすと同時。
「では、改めて。私の名前は漁木槝子! 何を隠そう位場高校の第八十九代生徒会長です! 集会とか学校行事とかでいろいろ面倒なスピーチを何度か任されていましたが見てくれていないなんてそんなの涙がほろろであります!」
「『けんもほろろ』ですね」
まさか年上の発言に赤ペンを入れる日が来るとは思いも寄らなかった冬平は、自分が通う高校の行く末を不覚にも懸念してしまいそうになった。
冬平は立ち上がると、ズボンの汚れを払いながら問いかける。
「ところで、漁木先輩」
「槝子でいいよ。あと先輩より生徒会長がいいな」
「じゃあ、槝子会長。さっき桶子さんに聞い」
「うん?」
「え?」
不意に挟まれた疑問の声に、冬平は首を傾げた。
微笑む槝子は言う。
「ごめんね、よく聞こえなかった。もう一度言って?」
「はぁ。えっと、さっき桶子さ」
「うん?」
「おやおや?」
何となく、冬平は嫌な予感がしてきた。
だが、考え違いかもしれないし、ひょっとすると杞憂に終わってくれるかもしれない。そう期待して、もう一度口を開いた。
「槝子生徒会長が、先ほど妹の桶」
「うん?」
「やっぱりか! 妹を下の名前で呼んで欲しくないってか!」
予感は的中し、冬平は声を荒げた。
だが、直後。槝子は人差し指を唇の前に持って来て「騒ぐな」とジェスチャーで伝えると、笑顔のまま冬平の脇腹を思い切り握り締めた。
ただそれだけなら良かった。相手は単なる女子高生であって、握力馬鹿ではないはずだから。
だが、槝子が掴んだ左脇腹は――
「ぐぁッ、ぎゃぁああぁぁああああああああああああ!」
――昨晩、桶子にナイフで貫かれた箇所だった。
桶子の刺し方が巧かったのか、応急処置のおかげなのか、触れさえしなければ多少疼くだけで済んでいたというのに、槝子はそれを的確に突いてきた。
「昨日ね、桶子ちゃんから聞いてたの。『ヘラヘラした脳味噌なさそうな男が近寄ってきたらとりあえず私の声を真似して丹澄くんかどうか確認してみて。本人なら、脇腹と両腿を軽く攻撃するといいよ。きっと悦んでくれるはずだから』って。最初は何のことかと思ったけど、そんなに気持ちいいんだ?」
「んなわけないでしょ!? これが嬉しい悲鳴に聞こえますか!? てか、俺のこと初めから知ってたのかよ、あんた!」
「それよりさ」
「それより!?」
尿意に響くほどの激痛を与えている本人が、その事実をあっさりと流した。
「桶子ちゃんのこと下の名前で呼ぼうとしたけど……ダメでしょ? 恋人でもないのにそんな馴れ馴れしくしちゃ」
「自分のことは下の名前で呼ばせようとするくせに何言ってんですか」
「本当だ……桶子ちゃんの言った通りすぐに揚げ足とってくる……」
「うわぁ! この人、面倒くせえ!」
意図的に悪意ある情報ばかり流しているらしい。
(俺に恨みでもあんのか……? いや、あるんだろうな……)
何せ、冬平は桶子の下着をありったけ盗んでしまった身だ。そりゃあ、恨まれてしまったって文句は言えない。
そんな風に、冬平が歯噛みしていると。
「こら、そんなに大声出したら迷惑でしょ? それともやっぱり下着見せないと落ち着かないの?」
「下着見て落ち着くわけないでしょ? 俺を何だと思ってんですか?」
「そ、そうだよね……むしろ興奮しちゃうよね、わかるよ……」
「全っ然わかってませんよね? ねえ!?」
「ううん、わかるよ。私だって女の子の下着に興奮する場合もあるから」
「場合って何だよ! 常にするだろうが! ああああああ違う! 今のなし!」
「すごい。桶子ちゃんの言ってた通り、本当に自爆しやすいんだ」
桶子は一体どこからどこまで吹き込んだのか。冬平の頭の中で悪魔のように微笑む彼女の姿が容易に浮かんだ。
(なんてことしてくれたんだ。第一印象最悪じゃねえか)
姉妹揃って一筋縄ではいかないらしい。何とも面倒な二人に嫌な情報を握られてしまったようだ。
「ぷっ、あはははは!」
冬平がげんなりしていると、槝子は急に噴き出した。
「何ですか、今度は何が面白いんですか……」
「純朴だなぁ、と思って。あまりにも律儀に反応してくれたから楽しくってついやりすぎちゃった」
「またおちょくってるんですか?」
「ううん、違うの。丹澄くんがあまりにもイメージと違ってたからおかしくって」
「そりゃあそうでしょう。あんたの知ってる丹澄冬平はまるっきり別人ですよ」
傷口を刺激されて悦び、すぐに揚げ足を取り、下着が鎮静剤扱い。冬平はそんなに救いようのない変態に成り下がったつもりはなかった。
肩を落とす冬平を、槝子はさえずるように笑う。何がそんなに面白いのか、涙を拭う仕草さえしていた。
「ふふふっ。でも、ちょっと安心した。丹澄くんは、桶子ちゃんが言ってたような変な人じゃないみたいだね」
「あんな人が現実にいたら怖いでしょうよ」
「そうだよね。でも、桶子ちゃんってそんな冗談を私の前では口にすることがなかったからさ。それだけ丹澄くんには心を許しちゃったってことになるんだろうけど、仲良しさんができたみたいでお姉ちゃんとしては一安心かな」
「いやぁ、どうですかね……」
仲が良い、と言うよりは、冬平を変態と認識しているから容赦なく悪評を吹聴できるというだけなんじゃないだろうか。
それでも、槝子には違う景色が見えているらしい。彼女は花が咲いたような笑顔を浮かべていた。
「それじゃあ、私は友達と待ち合わせしてるから先に行くね。学校に着いたら桶子ちゃんによろしくぅ!」
「いや、だから仲が良いわけでは……って、聞いちゃいねえ」
自由奔放な槝子に、冬平は肩を落とした。
漁木姉妹の実家がどこにあるのかは知らないが、もしかすると初めから冬平を確認するためにこの道を歩いていたのかもしれないとさえ思えてくる。漁木槝子、妹の桶子よりも不思議な人だった。
冬平は大きな溜め息をつくと、とぼとぼと学校を目指すことにした。
※
「丹澄くん。私すごいこと聞いちゃったんだけど」
なるべく槝子と同じ道を辿らないようにしながら慎重に登校した冬平が昇降口で靴を履き替えていると、後ろから生えるように現れた桶子に声をかけられた。
正直に打ち明けるのはなんだか悔しかったので、驚いたことは言わないでおこうと心に決める。
「……何だよ」
「お姉ちゃんにセクハラしたそうね」
「されたのは俺の方だと思うのですが? ついでにどこかの誰かさんのせいで変な印象までつけられていたみたいなんですが?」
「だいたい合ってたでしょ?」
「合ってないから言っ――」
「ちょいさっ」
「~~~~~~~~~ッッッ」
反論もそこそこに、脇腹に軽く触れられた冬平は声にならない悲鳴を上げた。取り出しかけていた上履きを取りこぼし、脇腹を押さえて力なくうずくまる。
桶子は元凶のくせに素知らぬ顔でしゃがみ込むと、冬平に手を差し伸べた。
「ちょっ! 丹澄くん、大丈夫!? 生理!?」
「女子がそういうジョーク使ってんじゃねえ!」
「エスプリが効いてるでしょ?」
「『エスプリ』の『エ』の字もねえよ!」
「はぁ~……」
冬平の返しを聞いた桶子は、なぜか「やれやれ」とでも言いたげに聞こえよがしな溜め息をついた。
それから、額に手を当てると、あたかも冬平がおかしなことでも言ったように話し始める。
「このエスプリが理解できないとは、あんたも落ちたもんね。失望したわ。さすが、私の下……いえ、大切なものを盗……いや、えっと、持って行く? 取って行く? ねえどっちがいい?」
「……守ったんだよ」
「ふーん。へーえ」
ぶっきらぼうに訂正すると、桶子はいたく楽しそうな笑みを刻んだ。
「な、何だよ」
「守ったんだ? 守ってくれたんだ? へえ~、ありったけ持って行ったくせに?」
「うっ……だから全部返したじゃねえか……」
「じゃあ私も応急処置したから刺したこと許してね?」
「それとこれとは話が……あれ? 違わねえのか?」
ふと、冬平は考える。
急に頭が馬鹿になったとは言え、確かに冬平がやったことは下着泥棒と同じだ。誰かに盗まれた時点で、それを知った桶子は精神的に傷ついてしまう。その傷は、返したから消えるものでもないだろう。
そしてそれは、冬平も同じだった。未だ刺された傷は治っていないし、痛みだって残っている。手当てしてくれたところで、蟠りが取れるなんて都合のいい話はない。
「確かに俺が悪かった。だから、掘り返すのはやめてくれないか? 頼むよ」
「そういうこと言うのね」
「……? おう」
誠心誠意の謝罪をしたつもりだった冬平だったが、桶子はなぜか寂しそうな顔をした。
そう、まるで『丹澄くんってそんな心ない言葉を平気で吐ける人だったんだ……』とでも言いたげな失望が混じっているかのような、そんな暗い表情だった。
病人のように弱々しい溜め息をついて、桶子は言い聞かせるように話し始める。
「心の傷と身体の傷は同じ秤で測ることはできない。これはわかる?」
「そうだな」
「だから、私の傷の方が重い。これは?」
「あれ? 俺の返事でお前に何が起きた?」
「つまり、丹澄くんは私に逆らうことができないってわけ」
「理解してないのに話進めないでくんない?」
冬平は抗議するも、桶子はどこ吹く風で靴を履き替え始めた。昨晩と同じで真面目に話す気などないらしい。
(下着泥棒とする会話なんて元からないってか。あぁ、時間が戻せるなら俺を殴りに戻りてぇ……)
もちろん戻せるわけがない。ここは能力蔓延る空想世界などではないのだから。
と、そんな風に冬平が勝手にダメージを受けていると。
桶子が上履きを取り出した拍子に、連れられて何かが宙を舞った。
「ん? なんだこ――」
「おっとっと」
「――れって早ぇな」
空中で掴もうとした冬平から隠すように俊敏に回収する桶子の手に握られていたのは、一枚の封筒のようだった。
薄い桃色の紙に、ハートマークのシール。おまけに表に大きく『漁木桶子様へ』と書かれていればその内容は察するに余りあるだろう。
(わかる、わかるぞ。漁木は美人だもんな……しゃべらなければ)
冬平は心の中でしきりに頷いた。ほぼ一瞬の間でそこまで観察した変態的な洞察力を秘めた冬平は。
だが。
「びりびり~っとな」
「お、おい。いいのかよ?」
「違うの、違うのよ。あの、これ、違うのよ。そういうんじゃなくって」
「いや、違うって何がだよ? 破いていいもんなのか?」
「いいのよ。ラブレターだとしたって、どうせ誰とも付き合う気はないんだし。多いのよねこういうの。ほんと迷惑しちゃう。丹澄くんは早急に今すぐ記憶から忘れて」
あー、気持ち悪い気持ち悪い。と桶子は細切れにした紙屑を冬平の手に無理矢理握らせた。
(いや、『記憶から忘れる』ってなんだ。そんな日本語ねえぞ)
冬平はゴミを掴まされたことよりも、遠まわしにフられたことよりも、桶子の様子がおかしいことが引っかかった。
「おい、漁木」
「あ、あぁ~、オホン。もたもたしているとホームルームが始まるわよ。じゃあ、私はこれで。下着泥棒対策会議はまたお昼にしましょっ」
「あっ、おい」
冬平が止める間もなく、桶子は一人ですたすたと去って行ってしまった。
「同じクラスなんだから一緒に行けばいいじゃねえかよ」
あくまでも冬平は下着泥棒で、桶子はその被害者だ。クラスメイト同士だった頃よりも会話するようになったところで、それは何も仲が深まっているわけではないらしかった。
「はぁ……なんで盗んだんだ、昨日の俺……」
もう一度溜め息をつくと、冬平は取り落とした上履きをつっかけて桶子の後を追った。追いついてしまわないように、極力気を遣いながら。
「にしても。何なんだ、この手紙……」
千々に破られた手の中の紙を見て冬平は呟いた。
桶子の態度からして、ロクな内容でないことは明白だったが……。
何が彼女を動揺させたのだろう。冬平は階段の上にいる桶子の方を見る。だが、今にもスカートの中が覗けてしまえそうな危うさを秘めるだけで、そこに答えは書いていない。
(あれ、そう言えば……漁木って今、下着どうしてるんだろう……)
ふと、冬平は思った。
ここで注釈しておくが、これはあくまでも替えがないと嘆いていた桶子を案じているからであって、決して見たいとかそういうのではない。そういうのではないのだ。断じて違うのだ。
だが、気になるものは気になる。
(まさか、今日一日ノーパンなんてことは……)
ないよな? と思いつつ、本人に訊くことは躊躇われた。
とは言え、勝手に答えが出てくれるなんて都合のいい話なんてなく。
冬平の悶々とした一日が幕を開けた。