我々の業界でもご褒美にならないとある一つの無理難題
金弥は気になるけど、とりあえず今日はモモの方に焦点を合わせなくてはいけません。
「ちょ、ちょっ……あの、もし?」
「はい? なに?」
「これってどこに行って…「あ、魚沼ちゃんライブ頑張ってなぁ~? アンノウン行くからそっち行けないけど応援してるー」え、ちょ……」
話聞こうよ輝夜さん……
背後で起きた大爆発に驚くモモの手を引きつつ、傍らにアリスをおぶらせた天津飯を連れている輝夜さん。
そんな彼女が声をかけた先に居ましたのは黒髪に金のメッシュの入ったロングヘアーの少女でした。少女は何かの紙の束とにらめっこをしていましたが、輝夜の声を聞いてハッと顔をあげると満面の笑みで輝夜に向かって手を振り、飛び上がったりなどして答えます。そんな少女の傍らにいた20代半ばに見える、眼鏡をかけたスーツ姿の堅苦しそうな男の人が、いかにも生真面目にお辞儀をします。
っていうか、この子が話題の魚沼 黒姫ちゃんか。人魚姫っていうだけあって、やっぱりすごい可愛い。何この子可愛い、とても愛らしい。とてもけっこうです、ありがとうございました。なんだか見ただけで癒されますほんと。
「あーっと? なんだっけ、今どこに行ってるのかって?」
「あ、はい」
「アンノウンだよアンノウン。転生者の館のある都市でたまに現れる、本の世界の残滓だったかな」
「残滓?」
「見たらわかるさ」
そういって輝夜さんは更にずんずんと歩き続けます。彼女が歩けば通りにはモーセの如く、人波が左右に分かれて歩きやすい道が出来ていきます。道の脇に避ける人によってその視線が違うのを見ると、なかなか変わったモーセでありました。
その視線とはというと、主に男性が気まずそうに目を逸らし、主に女性が笑いかければ黄色い声をあげそうな状態なのです。これは彼女をナンパしようとして返り討ちにされた男達と、そんな軟派な男を相手にしない様子から女性達に憧れられている事に起因していたりいなかったり。
嘘です、バリバリ起因してます。
「あ、ほらここが深緑の平野に直接出られる南門さね」
「南門……とても、大きい……です……村で見たのと比べものにもならない……」
「モモっちの世界って大きい建物無かったんだ」
「え、えぇ……というかモモっちって……?」
「さて、出ようか」
「え」
またまたぐいぐいとモモの手を引きます。門へと行く……のかと思いきやその門の前の地面に描かれた、魔法陣のような物に乗りました。そして突如視界が歪むモモと輝夜。
「な、なにこれ……って、えぇ!?」
そこは広い平原でした。青々とした新緑があたり一帯を染め上げ……というありきたりな表現ではなく、あたり一帯には大量の血の跡により、真っ赤な色の草の絨毯がいくつも出来ていました。……我慢してるけど結構グロくて辛いんですけど。モザイク処理強くしとかないと…
「えっと……あれ?さっきまで門の中に……背後にあるのって、さっきの門?」
振り向いたモモの背後に見えるのは、先ほどまで内側に居た街の門。モモが地面を見てみると、門の内側にあった魔法陣とよく似たものが描かれていました。
「門くぐってない…けど、これ」
「くぐってないけどどうした?」
「門の意味とは……」それな
ほんとそれな。建築先輩これどうなんです?わりとわけわからないんですけど。あぁ、なるほど。
「仕留めたでっかい獲物をとか、運び入れたりするのに使う門だからね。そんな滅多に使わないよ」
ということらしい。建築先輩に聞かなくても答える輝夜さんやっぱり有能。
そしてモモは今更とある音に気がつきました。それは悲鳴に奇声に怒声に歓喜の声。そしてそして、金属音に破壊音。つまり戦闘音でした。
「こっちさこっち。っていうかあれ」
輝夜の手によって、モモは無理やり首の向きを変えられました。急に捻られたために、若干の痛みを感じつつその方向を見るとなにやら黒い巨大な背中が見えました。
「今日は巨大型かぁ。鬼っていうことは一寸法師か、桃太郎か……まぁいいや、いこ」
「鬼……えっ、あっ」
何かを悟った表情で立ちすくむモモ。……先輩、今日の奴ってやっぱり……あぁ、はいやっぱりこいつの世界の鬼ですよね。時期が時期だし……
「どうしたんだい?」
「ダーリンッ!!」
……OTITUKE私……
え、鬼?鬼が夫なの?いや、ホモだしありえないことはないけど……え、そこで何故あえての鬼。鬼……え、いや……たしかに迎えに行った時には、既に鬼の出るページが燃え尽きてて居なかったけど……う、うーん?
いや鬼と桃太郎って、わりとカオスなカップリングなんですけどしかもホモ。イメージ崩れ去るわ、というか別に私腐ってないのでいい加減にしてください。
「ダーリンって……モモっちの旦那さんだったのかい?」
「消去法で鬼しか居なかっただけなんだけれど。まさかおじいさんとか、背徳感以前に生理的に無理ですし」
「お、おう」
珍しく押される輝夜さん。なんということでしょう、はじまりの街最強の女さえ、このゲスホモには勝てないということなのか。
茶番はさておき、その巨大な影の元へと駆ける二人。はよ倒せ、サーバー負荷凄いからほんとに。
同じく黒い影の方へと向かう人々が、輝夜の姿を見てさらに必死に足を動かしました。まぁそうなるよね。
「えっ、なんでダーリン攻撃されてるの」
こいつの口からダーリンとか聞くと、これほどまでにキモいとは思いもせなんだ。
「んー…ダーリンは倒さないといけないからねぇ……」
「な、なんで」
「存在自体がイレギュラーなもんだから、あんまり長く居るとこの街が消え去ってしまう……とからしいよ」
「そんなこと……」
落ち込む様子のモモ。そんなに好きだったのか……
「まぁどのみちブサイクだったし、全然好みでも無かったから別にどうでも良いんだけど。この世界にまで来て別に顔も見たくないから早く倒しちゃいましょう」
やっぱクズだわ。どうしようもないクズだわ。
「モモっち、ちょっと流石に引いたわぁ……」
「そうですか?」
「うん。ま、とりあえず一気に倒しちゃいましょうかいね」
強者の雰囲気でも感じ取ったのか、黒い鬼はくるりと振り向きました。10mもの巨体で、その瞳は燃える炎のように赤く光っています。平原に散らばっていた血は、鬼に返り討ちにあった街の人のようです。至る所に怪我人がいます。可哀想ですね、あとで神殿でお金を搾取する代わりに全回復して差し上げましょう、くっくっくっ。
後から来た人達は慌てて鬼に攻撃を加え、逆に今まで攻撃をしていた人達は慌てて鬼から離れて行きました。そんな状況でも鬼は輝夜から目を離しません。戦場に来るだけでヘイト貯めるとかどれだけ強いんですかほんと。
鬼を目の前にしながら、【山屠鳥帝の羽王扇】を取り出した輝夜はその美しい扇で、その艶やかな唇を覆い隠しました。そして、凛とした声が扇の影から漏れ聞こえます。
「無理難題を成すことは無理なんだい……なんて、そんなことは良いのだが。私はそなたらに命じよう。命が欲しくば退くが良い、宝が欲しくば敵の攻撃も我が天武の神将の攻撃をもかいくぐり、致命打を与えるが良い。腱、目、肩、膝、金棒の破壊。この中で成し遂げたものには私自ら宝具を授けよう」
ごくりと唾を飲み込みつつ、鬼から離れる人達がたくさんいました。
「さて、蹂躙開始だっ!!」
なんかまたハジマタ。
突如として輝夜の前に50体もの天武の神将が現れました。主な装備は弓のようで、輝夜の掛け声に合わせて一斉に矢を放ちます。っと、危ないモザイク忘れないように位しないと……モザイクモザイラモザイガ……も、モザイガ……え? あぁ、あのゲームのですよ。え? モザイガじゃなくてせめてモザイラ……あぁ、はい了解です。
『グワララララララ』
雄叫びを上げながら黒い鬼は突進してきます。体躯が体躯なので軽く地面が揺れます。結構な速度ですが、天武の神将たちが放った矢は鬼の、目に、鼻の穴に、口の中に突き刺さりました。無論、突如視界の無くなった鬼は立ち止まります。……廃神の肌貫通する弓とかどんだけ強いの……さすが公式チート……
「天武の神将、大太刀中隊!!」
弓兵部隊の前方に新たに現れたのは、背の丈以上もありそうな巨大な刀を携えた無表情のニ十体ほどの美男美女でした。輝夜の命令を受けるのと同時に、彼らは一斉に鬼の下へと駆けて行きます。ところが一体の神将が特殊なケースのようで、下克上ヒャッハーで輝夜の方へと向かって行きました。即座に輝夜に消され、新たに召喚され直されましたが。
『ご、ゴアアァァァァァ!!』
とても心地の良いズバズバッサリ感。鬼〇者かな……? グロくなければとても気持ちよさそうなほどの、二十体による連撃。鬼の両足のアキレス腱が切られて、ズズンと地面に倒れました。されど、大太刀ともいえどもあまり楽にはダメージを与えられないようで、何度も攻撃をしていますがあまり効いているようには見えません。
「天武の神将、戦槌小隊!!」
新たに現れた十体ほどの神将。その手に握られているのは、とても武骨で巨大なハンマー。大太刀よりもゲホッ! ケホッ! タバコは分煙室に行ってください!! この馬鹿!! ……遥かに重量があるであろうその武器を構えて走る走るどこまでも。はい。勢い余って周りの観衆の群れに突っ込む奴多すぎではないでしょうか。
「凄い……このサイズの脚の腱を切るなんて、なかなかできないね」
「へぇ、そうなの? こいつらだと普通なんで、よくわかんないや」
「うん。私も出来るけど面倒くさいから良い」
「モモっち結構性格悪くない?」
今更ですか輝夜様。
「まぁとりあえず、邪魔はしないように命令するから、あの鬼に一回だけでも斬りかかっといた方が良いよ」
こいつに報酬やるのも癪だけど、まぁうん……
状況が良くわかっていない状態ながら、輝夜の言うとおりに鬼の足の下へと向かい、ズバッと一瞬の刀の煌めきが。刀は鞘に収まったまんまだけど、鬼の小指ぃぃぃぃぃぃ!! ボロッと落ちたぁぁぁぁキモいぃぃぃぃぃ血は噴出さないけどグロイいいいいい
その横では、気絶しているアリスの手に小刀を持たせ、ズバッと表皮を斬る神将の姿が。うん、おかしな世界ダナー
それにしても、すっごい血が飛び散ってるんだけど……グッロイ、先輩、とても、グロイです……
とある銅色の鎧をつけたハゲ……あ、ゴリラ・イッキュウ……馬鹿なの……?
ハゲは宝を得ようと、肩を破壊するために鬼の下へと向かいます。あれ? 部下二人どうしたの?
「ちっくしょう! あいつら、俺のこと見限ったとか言って黒姫だかいう小娘のコンサートだか知らねぇが、そんなの優先しやがってよぅ!! ふんっあんなやつらなど居なくとも、俺特注のこの鎧さえあればどうってこたぁねぇ!!」
なんでこいつはこんなに頭が悪いのか。なんで銅にしたし。特注とかするなら鉄の防具を買えるくらいの金はあるでしょ……銅色の太陽(笑)の道を順調に突き進んで
「ひでぶっ」
……うん。天武の神将のハンマーに吹っ飛ばされる、ハゲ。自慢の銅鎧は見事にひしゃげてます、見事なスタントでしたありがとうございます。そうこう言っているうちに、天武の神将は鬼の両肩を潰しました。やぱり打撃武器って強いです。粉蜜柑。
『グワラァァァァ!!!』
体が動かないので、精一杯叫ぶ鬼。
「はいはい、お疲れ様。とりあえずさよなら。【宇部瑠璃の卵】……!!」
【宇部瑠璃の卵】?
アイテム名検索と……ジャッククラス以上のダンジョンにて岩石系のモンスターから極々稀にドロップするアイテムで、非常にレア。指定した場所に異常なほどの質量を持つ巨大な岩石を出現させたり、消したりする効果がある。
チートかよ……あっ……ピィエッ。
頭が潰されて……脳漿みたいなのが……ひえっ
「さて、終わりかな」
よ、余裕しゃくしゃくな様子の輝夜。モモを除いた観衆は絶句してます。というか、今更だけどアリスこんだけうるさくても起きないってどういうことなの……
え、えと…とりあえず、まぁ絶句はするでしょう。なぜなら、そもそもアンノウンと呼ばれるこの鬼などは、何百人などの人を巻き込んで、やっと倒せるのがふつうなのですから。流石公式チートカッコヨスかっこ白目ー。
先輩、それで、終わりですか? はい、わかりました。それじゃあお願いします。
アンノウン討伐完了アンノウン討伐完了。作戦協力感謝したします。個別報酬は防衛ギルドにて受け取ってください
輝夜はその放送を聞き、気伸びをするとモモの方を向いて言いました。
「さて、今回も無理難題を解けた者は居なかったね」
なんだか最近、明らかにぶっ壊れな性能の宝具ばかり浮上してくるんですが、これはなんなんでしょうか。入社三か月の私が言うのもなんですがこれは流石に「シュレッダー送り 課長 島田 耕作