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酒場の独身二人組

 うな重うまっ! え? これかちょーのだって? ……まぁ別に良いでしょ。

 むぐ……ふぅ……それじゃあ仕事しようかね。


 はじまりの街、そこにあるとある酒場の中。一角の席に座る人影たちが酒場の中にいる人たちの視線をかっさらっていた。


 上座に中央に座っているのは……モモだっけ? 後輩ちゃんの担当してるの。あ、うんありがと。えっと……モモなども凌駕するほどの美貌を備え、シンプルながらもその美しさをさらに際立たせるスリットの入った、鮮やかな色合いのドレスを身にまとう、絶世の美女という言葉が良く似合う女性。黒く長い髪をおろしワイングラスに入ったカクテルを飲む。後輩ちゃん、今夜一緒に飲みいこうぜー。え? おーけー? やった! うっ……仕事するってば……

 一挙一動が艶やかな女性の姿をチラチラと見ていた酒場の男たちは、女性の動きに合わせて酒の入った器を持って立ち上がりながらもすぐに座るという、挙動不審な行動をとっていた。変態かな?


 彼らが女性の後に見たのはその女性を囲むように椅子に座る七人の男女。いずれも美男美女ばかりだがカクテルを飲む女性には遠く及ばず、その端正な顔立ちもくすんで見える。

 されど、そんな彼らも十二分に酒場の客たちの視線を集めていた。彼らはその手に槍や剣や弓を携え、兜は無いがものの見事な大鎧や胴丸を纏い、そして皆一往に微笑をその顔に浮かべていた。怖いわ。なんか無機質で怖いわ。

 金色の髪と黒色の髪がわずかに揺れ、七人の男女の異様さを際立たせる。というか精巧なマネキンのように見える。


 女性はそんな七人の男女には目もくれず酒場の中を見渡すと、一人の精悍な顔立ちをした男に目を留めた。目のあった男はすぐさまガタリと立ち上がったものの、七人の男女のことを見てしぶしぶ席についた。


 女性はそんな男の様子を見て溜息をつくと、煽るようにカクテルを飲み酔いつぶれたように机に突っ伏した。カクテルと彼女自身の魅力によって甘い匂いとなった吐息を深々と吐き出す。女性の豊満な双丘が形を変えるのを見て……苦労してるねぇ……周りの客たちが大きな歓声をあげる。

男たちの下卑た視線が己に集まっているのを感じた女性はわずかに顔を顰めた。


 うわっ!!?びっくりした!?

 ……七人の男女がそれぞれが持つ武器で一斉に床を突き鳴らした。その動きは一糸乱れず、いつ見てもすごく気持ち悪い。鳴らされた音はかなり大きく、反射を繰り返して彼らから最も離れた席に座る男性にも届いた。

 シーンと静まり返る酒場。重っ……空気重っ……!

 女性は再び嘆息すると、嫌な空気になった酒場から出ようとゆっくり立ち上がった。


 ……ん?……後輩ちゃんのやつ……?モモ?

 どうする?モモ私が預かろうか?ってあ!?なんでこんな時に出て来るかな……ごめん、私はこっちやるから続きは後輩ちゃんにまかせた!!




 え、えーっと……

 女性が立ち去ろうとしたその時、酒場にはいってきたのはアリスを背中に背負ったモモでした。なんでここに来たし……いや、なんで酒場になんか来たし。

 そんなモモ、ではなくモモに背負われているアリスをストーカーしている金弥はと言いますと、酒場の正面にある建物の屋根に腰かけながらどこからか手帳を取り出し一心不乱に何かを書きこんでいました。なになに?あの子を救出するプランか……うん、ここだけ見れば可愛いんだけど、いかんせんストーカーだし、大半が救出後のキャッキャウフフな物なのがなんとも……おい、恍惚とした表情を浮かべるな馬鹿野郎。

 そんな金弥は放っておきまして、モモはつかつかと歩くと酒場の店主と思わしき厳つい男性の下へと向かった。


「こんにちは。あなたが店主さん?」

「いいえ、私ではなくそこにいる鳥です」


 そう言いながら男が指さしたのは、カウンター席の端にある観葉植物に止まる一羽の小鳥。モモは目を白黒させ、


「本当なの?」

「嘘に決まってるじゃないですか」


 そしてキレかけた。きび団子を鷲掴んでいるのはそのためであろう。そうであろうと願いたい。とはいえ、あまり大勢の前では気が引けるのか目立った行動へせずににこやかに続けた……ってこいつがっ!?嘘だろ!?夢でも見てるのか?

 ……痛い……


「こちらで宿を借りれ「現在はすべての部屋が埋まっておりますもうしわけありません」……」


 モモはにこやかな表情を浮かべながら刀に手をかけようとした。が、そのとき手を離してしまい、アリスが今にも落ちそうになった。


「あっ……え?あぅ……その……ありがとう、ございます」


 なにこれとても気色悪い。うっわ……こいつが乙女の顔とか……無いわ―

 落ちかけたアリスを救ったのは女性を取り囲んでいた七人の男女のうちの、剣を携えた金髪の男でした。ほのかな微笑でモモを魅せながら、アリスをお姫様抱っこにする。そして湧き上がるモモの嫉妬。酒場のモブ達はそんなモモの怒りを感じて発生源の方向へと向いた。が、変わり身早くすでに妖艶な笑みを浮かべていたモモは金髪の男の方へと顔を向けた。メス豚の顔ですわ……痛いっ!!

 男性は数度瞬きをするとモモを促すように手を動かした。右手の先にあったのは絶世の美女と不気味な七人組が座っていた席であった。モモはそこに座っていた女性達を見て眉を顰めたものの何も言わずにその席へと移動しました。合コン……?


「あんた、最近転生してきたのかい?」

「え、えぇ。そうよ。今日ね」


 七人組の中の黒髪で弓を携えた女性がモモに席を譲った。ちょうど女性の前に位置する席で、その隣の席にはアリスがそっと座らせられた。女性はモモのことに興味津々な様子で話かけてきました。話を聞く価値も無いと思う。


「へぇ~、なるほどねぇ。私の事も知らないわけだ」

「私のことって……どういうこと?」

「文字通りだよ。私の名前は嶽媛(たけひめ) 輝夜(かぐや)。魔法名は“天武の神将”。この、男の人や女の人を召喚する魔法だよ」


 そういうと輝夜はおもむろに指を鳴らした。そして、次の瞬間七人組が全員消えた。フワッというかシュンッて感じに。びっくり仰天、目を丸くするモモ。良いザマだ。


 えっと、

 嶽媛 輝夜

 魔法名は天武の神将で、効果は……なんだこれ……

 様々な技能を持った天人を召喚できます。楽師から医者から武を極めし者まで。最大百名まで召喚でき、一人が死んでも五分も立てば再び召喚できるようになります。

※観察の結果、一体で10クラスダンジョンのボスモンスターを倒せるほどの力量がある模様


 ……チートクサい……すごくチートクサい……

 ダンジョンという物は、上から順にジョーカー、キング、クイーン、ジャッククラスがあり、その下に10クラス、987654321クラスと順に存在していて、当然上の方が難しい。ジョーカークラスなんてのは建築先輩が作ったダンジョンの中で、あまりにも危険すぎると言われた為に作られた異常なものです。そもそも生還率ゼロですから。


「いやぁ……なるほど、私の魔法に色目使ってるから何かと思ったよ」

「うっ……」

「わたしもまだまだだなぁ……これでもこの町最強とかなんとかって言われたりもするんだけど、まぁいいとして貴女なんていう名前なの?」


 的確に輝夜に先ほどまでの行動を指摘されてモモは赤面しました。血圧上がって爆死しろ。あいたっ!


「私の名前はモモ・タリスロアよ、歳は十八」

「へー……二才違いじゃんか。ねぇねぇ、もっと話しようよ」


 屈託のない笑顔を浮かべながら輝夜は言いました。その笑顔を見た酒場の男達が一斉に立ち上がり、グラスなどを持って集まってきた。美女二人はそんな光景に目を白黒させながらも目ざとく容貌の良い男を見つけた。


「そこのあなたどうした「こんにちは輝夜さん!俺ずっと「お前黙「お前こそ黙れよ!!」……」

「そこの殿方いっし「こんにちは、モモさんでしたか「ちょ、お前何ぬ「仕方ねぇだろ!輝夜さん競争率高いんだから!」……」

「じゃあ俺はこの子連れてか「おめぇおのロリコンが「テメェも手掴んでんじゃ」……え?」


 喧騒に目を覚ますアリス、微笑む美女と性転換クズ野郎。そして、三人が表情を変えました。


 天人に薙ぎ飛ばされる男達

 どこかに飛ばされる男達

 一瞬で衣服や鎧を全て切り裂かれる男達


 どうしてこうなった

 店主以外の男は皆が立ち上がっておらず、酒場の中はシーンと静まり返った。面食いの二人はすぐさま顔の良い男を探しました。ですが店内には誰もおらず、どうやらアリスに飛ばされてしまったようです。


「お、おねぇさ


 アリスが例にもよって服を再び脱ぎ始めたため、即座に手刀でモモは気絶させました。うん、それは良くやった。褒めてやろう。

 輝夜は奇異な視線を二人に見せたのち、モモの方を向いて言った。


「なんだか、あなたからは似たような臭いがするよ。……同じ男に目を付けただろ?」

「そうみたいね。私の夢はイケメンのそれなりに裕福な人と結婚して暮らすことだから」

「へぇ……似てるね。私も冒険者なんか早くやめて、イケメンと結婚してつつましく暮らしていくのが夢だからさ!」


 にこやかに会話したのち、一瞬で沈黙する二人。……うん。


「……なんか、すっごいダメージ来るからこの話はやめようか」

「そう……ね。でも、あなたはモテそうな気がするけれど?」

「……この神将のせいで恐れられてるのさ……感情の高ぶりによって勝手に出現するからね」


 そもそもそこまで露骨に面食いだと男も寄り付かないだろう、と思うのは私だけだろうか。……すっごいブーメランだった今の発言……

 え? 特定出来たんですか? それじゃあ流してください


 突如始まりの街に響く放送の音。


〝アンノウン出現アンノウン出現。発生地は新緑の平野。エネミータイプは桃太郎系、至急討伐に向かってください”


 よりにもよって桃太郎系かよ……


 モモはキョロキョロと辺りを見回しました。そして首を傾げます。可愛くねーよ。そんなモモを尻目に輝夜は立ち上がりました。


「それじゃ、行こうか」

「どこに?」

「え? あ、そうか今日転生してきたからわかんないんだね。今のはアンノウンって言う敵……っていうか、残滓? うん……が現れたって事。私達はイベントって呼んでるよ」

「イベント……桃太郎系っていうのは?」

「うーん……行って見た方が早いと思う。あ、この女の子は神将にでも守らせとくから安心しな」


 そう言って男達を避けながら酒場の出口を目指して歩く輝夜。モモも立ち上がってその後を追います。途中、男を踏みつけて歩いているのはやはり心の綺麗さから来るものでしょうか……うん……今更だけど輝夜って子、すごくマトモだ……


 んあ!?なに!? ってうわ……


 えっと……二人が酒場の中心辺りに来た頃、突如壁と天井が壊れました。はい。


…………壁を壊したのは金弥、そして天井を爆破して入って来たのは翁翔でした。



 お前らは来なくていいよ、この馬鹿!あほ!ばかー!!



 担当の転生者変えてくださいお願いします本当に。

       課長  嶋田 耕作  

却下


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