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森の中の無表情。(先輩side

はてさて…私も仕事頑張りますかー。

後輩ちゃんも頑張りなよー?まぁそのラインナップは精神的にきついだろうけどさ。

 ん?どうしたんですか?かちょー。

 え…寿退社する梶田さんの仕事私が引き継ぐんですか…止めてくださいよー。あーあー!わかりましたよ!むぅ…せめて楽なのにしてくださいよ?

…この子ですか?はぁ…


オトヒメ・サイサリス

元世界は『浦島太郎』。配役は乙姫…名前まんまじゃないですか。

魔法は『愛染めの不死者(Death heart dear)』。え?発音良いでしょ?

不老不死になります。18歳になると成長が止まり、斬られても脳が潰れても即座に再生します。解除方法は好きになった人と永遠の契りを交わすことです。すると、体の成長が再開して再生しなくなります。


 ……これめんどくさそうにしか見えないんですけど…。ん?D-World移住、最初期キャラ…?マジですか…まぁこの魔法ならあり得なくはないような気はしますけど。

 はいはい、とりあえず見てみますって。


管理コードD114っと…お、森の中。…乙姫なのに海じゃないのね。

 ……一人暮らし?このデカい家で…?っていうか何にも喋んないね。よし、決めた。かちょー、私この子引き継ぎますわー。楽そうだしー。

 痛い痛い…すいませんて。セクハラですy…痛い…


 はいはい、ちゃんと仕事しますってば。


 始まりの街から結構離れたとある森。RPGで言えば50レべくらいのとこかな?うん。

 そんな森の中にひっそりと建つ群青の屋根の洋館。その中の一室で一人で食事をとる女性が一人。紺色の髪に質素なブラウンのワンピース。それにショール…羽衣だな、これ。を羽織りもくもくと和食御膳を食べている。おいしそうなきんぴらごぼうだ…おなか減った。部屋の中では照明はついておらず、窓からの採光によって十分過ごせる明るさになっていた。……うるさい、建築オタ。有効採光率とか知らないっての、ここぞとばかりに話かけてこなくて良いから。仕事の邪魔だからどっか行け、しっしっ。


 ……いやぁ、しかし…お腹すいてるときになんの変化も無い食事風景見てるってのも苦行だねぇ…かちょー、出前取って下さいよぉー。どこでも良いですからー。


 お、そんな部屋のドアが開き、入って来たのはメイド服の少女…いや、自立式機械人形(オートマタン)であった。証拠に両方の目の下から、顎までに細い縦線が入っている。ほー…オートマタンを持ってるなんて相当高難度のダンジョンに潜った事あるんだねぇ…是非一度戦ってみたいものだ(イケボ)……なんつっt痛い!


 …かちょー、なんか私には後輩ちゃんより当たり酷くないです?


 たんこぶ出来そう…えっと、オートマタンは手に急須と湯呑…お茶の入った缶と鍋敷きが乗ったお盆。逆の手にやかんを持っていた。机の上にお盆を置くと、左手でやかんを持ち上げ、右手をやかんの下に。そしてその右手から火を出す…今から沸かすんかい!!てか、シュールな画だね随分と。


 食事を終えたオトヒメは口をハンカチみたいな布で拭いたのち、顔色一つ変えず静かに目の前の少女型オートマタンに話かけた。


「美味しかった。今日の昼食も。ありがとう、丹香奈(にかな)。」


 …苦菜?あ、にかな。なんだこれ…飯テロが過ぎるぞ…いや別に苦菜好きじゃないけど、むしろ嫌いだけど。

 まぁ、それは置いといて。そのオトヒメの言葉を聞いたオートマタンはお茶を蒸らす間に返答した。


「いえ、当然のことです。私はオトヒメ様の身の回りの世話をするためにここに居るのですから。」


 …イッツァ、ベリーハスキーボイス!!

 マジか。この見た目でこのヘビースモーカーなおっさんみたいな声マジか。だれよ、こんなオートマタン、ドロップするようにしたの。……かちょーか!目を逸らしたらすぐにわかるってば!!


 これは酷い…なんて酷い超レアアイテムだ…ボスからドロップ率1%でしょ…?たしか。クイーンクラスのダンジョンだと。…この子が踏破しダンジョンの最高ランク、クイーンクラスだし。それだけ頑張って手に入れたというのにこれは………むくわれねぇなぁ…

 …あ、かちょー、専務に呼ばれた。…怒られるな。うん。…てかあれ…?かちょー出前頼んだ…?……考えないでおこう。


 苦菜…じゃなくて、丹香奈はオトヒメにそう笑いかけた。…これで声が普通だったらいい感じなんだけどなぁ…にゃっはっは……


「はいどうぞ…お茶です。」

「ありがとう。」


 ニコリともせずにお茶を受け取って飲むオトヒメ。いや、ほんの少しだけ口角が上がった気もする。が、声は平たんそのもので、碌に抑揚が存在しない。

 外の光で明るくなった室内にカチャカチャと急須などを片付ける音だけが響く。


 お茶を飲みほしたオトヒメは湯呑を丹香奈に返すと、椅子から立ち上がって部屋の外へと出ていった。苦菜は急須などが乗っているお盆と、御膳の乗ったお盆を左腕で器用に持ち、オトヒメに続いて部屋の外へと出ていった。


一人と一体は階段を下りたあと、片や勝手口へ、片や調理場へと移動した。オトヒメはドアの傍にあった手袋や鋏などを手に取ると勝手口をくぐり外に出た。

天候は晴れ。目の前に広がるのはオトヒメが自家栽培している野菜たち。トマトにきゅうりに人参など、葉や実についた水滴が太陽光を反射して爽やかに輝く多種多様な野菜たち。

オトヒメは畑を見たあと、脇にベンチに眠る…寝る必要あるの…?もう一体のオートマタンに話かけた。農家のような筋骨隆々な外見のオートマタンは歯車…が噛みあわずいびきのようにグガガガ…グガガガ…というような音を立てていた。ていうか、オートマタン二体って…凄いね。関心するよ。


お、かちょー帰ってきたか。…ぷふっ、青い顔してやんのーまぁ自業自得だろうけど…ん?どうしたんですかちょー。

 え、今すぐ辞めろって?無理ですよ、やめたら私が怒られますし。

 あーあー知りませーん知りませーん。私は何も聞いてませーん。


 オトヒメはおもむろに勝手口のドアを開けると、屋敷の中の先ほど手袋などが置いてあった場所から大きな鉈を取り出した。鉈を持ったオトヒメはベンチで眠るオートマタンの下へと移動し、目の前に立った。おぉう…なんというか、久々だなこういう光景…やんちゃしてた頃以来だ…


 無言のまま眠りこけるオートマタンを見下ろすオトヒメ。怖いって…感情もっと表に出そうよ…あと、かちょーうるさいですって。なんなんですかさっきから…

 オトヒメは鉈を振り上げると…その棟(刃がある方の反対側だよー)でオートマタンの頭に当たる部分を思い切り殴った。…手荒!!

 外殻を形成する金属が固いためか、凹んですらいないようだが衝撃は伝わったようで農夫のような男型のオートマタンはハッと目を覚ました。


「あらぁ…ごめんなさいね。いつの間にか寝ちゃってたみたいなのぉー」


 …イッツァ、ビューティフルウーマンボイス!!

 またこのパターン!?梶田さん良く突っ込まなかったね。…それでぇ…?

 隠れても意味ないって、かちょー。ほら、常務来たから観念して早く行きなー?


 …声変えてあげたいなぁ…かわいそうだよ。でも勝手に変えるわけにもいかないしなぁ…ごめんな、聞こえないだろうけどさ…。


オトヒメは光の無い瞳でオートマタン見ていたが、やがて視線を外し鉈と顔を畑に向けながら短く言葉を紡いだ。


「畑に、あいつが居る。援護しなさい。」

「はぁ…わかりましたぁ。」


 筋骨隆々がおっとり女性声だとは…五感にキツイなぁ。男型オートマタンはそういうと、立ち上がり一度外の物置へと向かった。

待つことしばし、オートマタンは矢筒を背負い大きな弓…和弓を持っていた。戦う農夫…ていうか、お腹減ったー。建築オター、出前来てない―?来てないのか、じゃあいいや、こっち来んな。


鉈片手に前衛を務めるオトヒメは後裔のオートマタンを引き連れ、畑へと向かった。

その畑の中心、トマトの畝の傍で蠢くモノが一つ。

 髪を後ろに結い、身に着けた亀の甲羅の形をしたポーチには携帯用の釣竿が入っている。こいつは…浦島たろ……ひぇ…!


「はぁはぁ、オトヒメたそが作ったトマト…お、美味しい…さっすがオトヒメたそですぞ!」


 …ひ、ひぃ…お、男は真っ赤に熟したトマトを、な、舐めまわしたり我が物顔で食ったり…ひぃ!き、キモい!ま、マジ無理なんだけど!こ、後輩ちゃん!か、変わって!




 え、なんですか急に…ってうわ…きも…

 えっと…この子がオトヒメですか。


 オトヒメはくちゃくちゃとトマトを貪り食う男の背後に立った。ハッとした表情になった男は満面の笑みで振り返り両手を広げた。口周りはトマトの汁などでとても汚い。


「やぁやぁやぁ!オトヒメさん!とってもおいしいですよ、このトマト!さっすがオトヒメさんだなぁ…やっぱり養ってくださいよ!!ボキュを!!」


 オトヒメは珍しく感情を表に出した。絶対零度ほどに冷めた、蔑みの目で男を見上げる。

 オトヒメは左手を肩より上にあげ、手招きをするように指を倒す。それを見た農夫型オートマタンは矢を放った。…早業だね。

 矢は男の太ももに当たり、男は苦痛に悶えて座り込む。先ほどとは逆に見下ろす形となったオトヒメは鉈を刃の方で振り上げ…


「勝手に人の家の野菜を食べないでください、ほんとに死んでもらえますか?というか、ここで今すぐ。」


 鉈が歴戦の強者によって振り下ろされる。その目標地点は、心臓。え、えぐっ…これは…うぅ…


 え?…あれ?…えーっと…鉈は外れた…?オトヒメの目の前に居るのはどこにも怪我の無い男。矢は地面に落ちている。


「くふふ…危ないじゃあないですか、オトヒメさん!思わず若返ざるをえませんでしたよ!まったくもぉー、おっちょこちょいなんだからぁ。」

「…目の前から消えなさいこのゲジゲジが。私に関わらないで、ほんとに生理的悪寒しか湧かないから。」


 生理的悪寒…せやな。


「わかりました!では、ありがたくトマトと人参はもらって行きま「そんなこと言ってないから死になさい。」」


 オトヒメの言葉を無視して満面の笑みで畑を漁る男。オトヒメは再び無表情になりながら男に近づき……怒りが頂点に来ちゃたかぁ…再び男の背後に立つと…鉈を振り下ろした。

 ひ、ひぃ…!スプラッタ…!む、無理無理無理!!



 今日の報告

 昔、課長が遊び半分で作ったのが出てきた。そして課長は常務に怒られていた。自業自得。

 それと、後輩ちゃんがスプラッタ苦手みたいなのでモザイク加工できるようにプログラミングしてあげて下さい。


     主任、三好 美代。


なんとも酷い話だ…(いろんな意味で)

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