とある森の変態
後輩ちゃんも大変そうだね……まぁあの濃い四天王のメンツが揃ってるのを実況するのも相当精神的に参るだろうけど頑張れ。後でチョコレートあげよう。
「……また来てる」
「また来てますね……」
森の中の一軒家の二階で、食事室の窓から畑を見下ろすのはオトヒメとハスキーボイスオートマタンこと丹香奈の二人組。二人が冷ややかに見ているのは、もちろん。変態、浦島太郎である。あのキモさはほんとトラウマに近いんだけどどうしよう。
「ほんとに、どうすれば。あの変態は死ぬの」
「存在ごと消滅させる魔法を使える方だとか……」
「そんなの、流石に居ないわよ」
居ないね。流石に強すぎにも程があるし。後輩ちゃんが言う言葉だとチートっていうのかな? 窓際の席に座ってお茶を飲みながら汚物でも見るような目で、オトヒメは浦島太郎……転生後の名前はウラーシマ・ザ・アイランド。
……うん、なんだろう。やっぱりプロレスとかの選手名にありそうな名前だね。誰だ決めたの。プロレス云々以前に雑すぎると思うんだが。浦島島ってなんだよ。太郎はどこにいったんだ。
「ふひぃひぃ……オトヒメたそが使ってるスコップ……ペロペロペロペロ……むっ、微かにオトヒメたその残り香が! これは袋に詰めて持って帰らねば!!」
……………
「なにしてんのよアンタ!!」
…………あ、キモ過ぎて実況すんの忘れてた……
どうやら私は変態というものがとても苦手なようだ。生理的にとても厳しい。思わず昔の癖で釘バット百烈打をお見舞いしたくなる。え? 何言ってんですかかちょー、はっはっはっ冗談に決まってるじゃないですか。冗談に聞こえないって? ふふふ、耳小骨を直接揺らしてあげましょうか? 建築、お前は黙って仕事しな。
変態に立ち向かうのは戦う農夫。完全に農夫にしか見えない恰好ながら、ものすごく切れ味の良さそうな片刃の剣をものすごく綺麗な姿勢で構える、女声の髭を生やした男型オートマタンでありました。やばい、ほんとこの声のひどさに直してあげたくなる……かちょーの所為で……あっはいすいません。
「おや……尾鹿羅さん。愛しのオトヒメさんの為にボクの唾液でスコップを綺麗にしていただけですよ。こんにちは」
「あんたが居ると畑が穢れるからさっさと逝ねなさい! あとそのスコップは捨てるわ、あんたのせいでね!」
腹立つ声だな。あと発言があまりにもキモすぎるな。どうしてお前の唾液で綺麗に出来ると思ったのか。しかも土掘る部分じゃなくて持ち手部分だし。
「稲菜ってなんでしょ」
「ゴートゥーヘルりなさいってことよ!」
ゴートゥーヘルるってなんだ(哲学)
へるるってなんか居そうだよね。あのなんだっけ、なんだか伍長だかってアニメ漫画で。え? 軍曹だっけ? いやまぁあんまり興味ないし良いんだけどさ。ごめん呟いただけ。
あと尾鹿羅って、オトヒメさんのネーミングセンスどうなの。
ウラーシマは尾鹿羅の大上段からの剣をむかつく顔でヒラリとかわしつつ、ずれた眼鏡をクイッと中指で上げながらクサそうな息をブハァと大きな声で吐いた。ほんとクサそう。
「あぶないじゃないか。ボクじゃなかったら死んでたぞ!」
「抵抗せず死になさい」
「まったまたぁ、君も鬼ごっこが好きだなぁ!」
前歯を見せながら舌を出し、目が変なところを向いた気持ち悪くもストレスを煽りまくる表情をするウラーシマ。ほんとキモい。
「丹香奈」
「はい、オトヒメ様」
「……ここで、殺す」
二階の窓からライフルを取り出して構える……たしかライフルとかって結構レア度高いんじゃなかったっけ。なんか……結構凄いもんばっかり持ってるな……強いな……まぁ不死身能力だからそれ活かしてのことかもしれないけど。
「ファイア」
「ぐぎゃす!」
「脳天直撃です」
「追撃、するわ」
まともに頭に当たったはずんなんだけどな……なんなんだ。
【アイアム・ア・クロック】
……ポピュラー音楽ユニットの曲かな?
何々? 自身の身体に関する時間を自由自在に操る能力……玉手箱からアイディア来てるのかな?
自身の体の時間を六時間以内で巻き戻す際には、その巻き戻した時間に自分の居た場所へと強制的に戻される。身に着けているものは同様の効果を受けるが、時間は逆行しない。また、ダメージは無かったことにされる。あくまで自分自身だけである。三時間を超える場合は場所移動は発動されない。
……ウラーシマって最初期勢だろ? 第一世代はぶっ壊ればかりだから怖い。何故だ、何故こんな変態にこんなふざけた能力を授けた。
「オトヒメさんあぶながびゅ」
「2hit」
そして連続して何度も起きる発砲音。さながら射的の屋台のようである。
「5hit]
肝心の的はとても汚らしいが。
「13hit」
汚ねぇ花火だ。そこかしこで赤い花が咲きやがる。しっかし随分と淡々と撃つよなぁ……ある意味凄い。まぁこんな変態は駆逐したほうが世の為人の為精神衛生の為に是非した方が良いはずだ。うむ。
「もがびゅ!」
「20hit。しかし弾がもうなくなってしまいました」
「あら、もうそんなに。あんな虫けらの為に、丹香奈の造った、銃弾を使ってしまうなんて」
銃弾生成機能持ってんのかよ、勿体なくなかった。けど金属どこから来てるんだろ。にしても惚れ惚れするほどの射撃だ。エドワードとタメはれそう。ザマァ!
「もう酷いじゃないかオトヒメさん! ボクが死なないからって射的の的扱いってのも……凄く興奮するけど!」
「死んでください」
時間を巻き戻した結果か、オトヒメ達の居る窓の真下に現れるウラーシマ。どんだけ近くまで忍び寄ってきてんだよもはや恐怖しか覚えないよ。
私でも浴びたことがないほど、冷めきった侮蔑の目線を浴びつつもオトヒメに向かって投げキッスをするという、キチ○イ行為を取るウラーシマ。いやもうオトヒメさんに同情しか湧いてこないからやめたげて。そしてこいつ見てると建築が割とマトモに見えて来るから怖い。うるさい黙って仕事してな。
オトヒメは傍に控えていた丹香奈から割れた食器の破片などが入った箱を受け取ると、窓からその中身をぶちまけた。食器の破片とかって結構殺傷能力高いから当たれば致命傷だけども。
「ハハハ! こんなもの当たりませ……あ、これちょうど三時間まうぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「ざまぁみなさい」
「焼却炉で、燃やしてきてくれる?」
……三時間前ってオトヒメが熟睡してた時間じゃ……うわ……引くわ……ただただ引くわ……
「すいませーん、テルステイテトテイテ商会ですが」
ふと一階玄関から年若い男性の声が聞こえて来た。その明るい声音を聞き、オトヒメは若干顔を明るくすると軽快な足取りで一階へと降りて行った。珍しい。元々の顔綺麗だし、笑うとやっぱり美人だ。勿体ない。笑顔が少ないのは変態の所為だ。死ぬがよい。
あとツッコミ忘れてたけど、てるすていていてい? いや、ネーミング。
「浦矢島さん。こんにちは」
「あ、こんにちは。サイサリスさん。本日も商談に参りました」
「まぁここでも、なんですから。奥でお茶をお持ちします」
「いつもすいません」
応接室へと男性を案内する丹香奈とオトヒメ。
てか浦矢島って……
『浦矢島 蒼太郎』
あぁ……この人も浦島太郎なのか……というか片やこの世の気持ち悪さを凝縮したような変な名前の変態で、片や笑顔が好印象な商人って……いや、その……なんという……
い、いや……付喪神の奴らだし、どうせこの浦矢島も碌でもない考えを持っているのがデフォルト……
(さぁて! 今日こそ良い商談をしてオトヒメさんの気を惹かないと! あの変な人が現れなきゃいいけどなぁ……)
…………一般的な思考? マジですか、逆にレアケースじゃないかこれ。後で梶田さんの報告書読み返さないと。
「さて、今日はどんなものを「貴様ァァァァァ! 俺のオトヒメさんに近付く不届き者め! 成敗してくれる!!」うわ……またあなたですか……」
「うわとはなんだうわとは! 貴様なんぞがオトヒメさんと話そう「死ね、消えろ、私の前に現れるな、喋るな、近づくな、存在ごと消えろ」あっはっは! オトヒメさんはツンデレだなぁ!」
……ポーション使って家に乗り込んでくるこのクレイジーさには、もはや呆れを通り越して憐みすら覚えますよ。
……やっぱり変態って害にしかならないな……
「待っててくださいねオトヒメさん! 今日こそこの男を」
ズバッと。
部屋に飛び込んできて剣で変態を斬りつける尾鹿羅。オウ、カッコいいな。声除けば。まぁ時間操作での移動で逃げたわけだけど。
「……まぁ商談を、続けましょう」
……まぁ、オトヒメさんよ。色々大変だろうけど、まぁ浦矢島とのことを応援するよ。うん。それしか出来ないから本当にあの変態が憎いね。うん。
とてもD-Worldにアクセスして干渉したいです。あの変態を血祭りにあげたい。
君が言うと洒落に聞こえないから駄目 by課長




