桃太郎の転生
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。
おばあさんが洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。
おばあさんは家にその桃を持ち帰り、切って食べようとしました。
すると、桃の中から元気な男の赤ちゃんが出てきました。
おじいさんとおばあさんはその子を桃太郎と名づけられ育てられました。
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ある家で、絵本が燃やされました。題名は【桃太郎】。
日本一有名な絵本と言っても過言は無い本でしょう。
燃やされている桃太郎はとても古く、字も擦り切れてまともに読むことができません。
本の持ち主だったおばあさんが亡くなったため、燃やされたのです。
「ぐああああああああっ!!?あっちい!!」
絵本の中の世界で桃太郎はあまりの熱さに転げまわっていました。桃太郎の世界は焼け野原となり、もうすぐ消えてしまいます。
「クソッ!!なんで俺らが燃えないといけないんだ!!」
「ウキーー!!ウキキッ!!」
「ワン!!ワンッ!!」
桃太郎とお供たちはこの仕打ちに怒りました。もうこの世界には彼らしか生きていません。他の人物は皆、焼け死にました。
「・・・俺達が死ぬ時は一緒だぜ兄弟・・・。」
桃太郎はお供達に言いました。彼らは義兄弟の盃を交わしていたのです。
お供達は力強く頷きました。
もう、俺達の命はこれまでかと思っていると、一瞬にして、桃太郎たち以外のこの絵本の世界から、色が無くなりました。
熱さも感じませんし、炎も時が止まったように動かなくなりました。
「クエッ?」
「なんだ?何が起きているんだ?」
彼らが不思議に思っていると、背後から声がしました。中性的な、聞き取りやすい声でした。
振り向くと、そこには白いもやが漂っていました。声の聞こえた距離や方角を考えると、このもやから声が聞こえてくるようです。
『私が君たちの中の誰かを救ってやろう。一番最初に名乗り出た一人だけだ。』
「救う・・・?どうやってだよ!何をしてもいずれこの世界は燃え尽きちまうんだぞ!!」
桃太郎は怒鳴りました。
『誰か一人を異世界に転生させてやろう。そうでもしなければ、存在自体が消えてなくなるのだ。さぁ、誰が生き返るのだ。』
お供達は唾を飲み込み、皆が皆、私だ!と名乗りでようとしました。皆、クズですね。桃太郎も鬼退治が大変だったでしょう。
お供達が今まさに名乗ろうとした一瞬のことです。桃太郎は自身が持つ刀で、お供達の首を一閃で刎ねました。即死です。
「転生するのは俺だ!こいつ等じゃねぇ!!」
・・・さらにクズがいましたね。お供もお供ですが、仮にも兄弟の首を刎ねてまで自分が転生するというのですから、恐ろしい男ですね。
『・・・君は、よくその性格で主人公として、やっていけたな。』
面識の全くない、もやにも言われてしまいました。
桃太郎は気にせず、
「俺が名乗り出たのだ、早くしろ湯気野郎。」
確かに、お湯から出た湯気にそっくりですが、転生とはいえ命の恩人にむかって、暴言を吐きました。根性腐ってますね。
湯気野郎こと白いもやは、こいつは転生させない方がいいかもしれない。と思っていたり、いなかったり。
まぁ、もやは仕事には真面目に取り組むので転生はさせます。アフターサービスは受けさせないようにしますがね。
そりゃあ、湯気野郎とか言ってくる輩には、アフターサービスなんてやりたく無いですよ。
ただでさえ、アフターサービスをつけたら残業が増えるのに。良い人とかだったらまぁ残業増えてもいいかなって思いますけど、こんなクズのために残業しようとか思いませんよ。
『わかった、わかった。貴様を異世界に転生させてやろう。剣と魔法の世界だ。』
「わかったから早くしろ。俺を待たせるな。」
もやは、マジでこいつ、異世界に転生してすぐに死なないかな。と、心の底から思いました。
『では、異世界につれて行ってやる。』
白いもやはそのもやで、桃太郎を包みました。
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桃太郎は意識を失っていました。目が覚めたのは、四方八方が真っ白な空間です。
「ここは・・・?」
『ここは、異世界と異世界の狭間だ。ここで、てめぇが剣と魔法の世界。≪D-World≫で使える魔法が決められる。』
実際は狭間などでは無く、ただの会社の地下室だったりします。マニュアルに書いてあるんですよ。こう、説明しろってね。
というか、いつの間にか、呼び方が君から、てめぇになってますね。当然だと思いますが。
当の桃太郎はてめぇという言葉を聞いて、
「てめぇってなんだよ?斬るぞ?お前。」
キレていました。
『まず、性別を決めなければならない。・・・てめぇは女だ。』
もやは手元にある会社のファイルを見ながら言いました。
「マジか・・・!?最高じゃねぇか!イケメン捜して、結婚できる・・・!!」
桃太郎はあっち系の人でした。どんどん桃太郎のイメージが壊れていきますね。
『・・・』
もやはドン引きしました。かなり良い顔立ちをしているのに、クズですしあっち系ですから。
転生する場合、元の世界でイケメンだった場合は美女かイケメンになって転生しますから、見た目に騙された人はかわいそうですね。
『この≪D-World≫では、一人ひとりで使える魔法が異なる。一人につき、一種類の魔法が使える。』
「そう。それで、私の使える魔法はなんなのよ?」
桃太郎はおねぇ口調になってます。はっきり言ってキモいです。もう一度いいます。キモ過ぎです。もやは鳥肌が立ちました。
気を取り直し、
『てめぇが使える魔法は“洗脳”だ。』
桃太郎はこけかけました。そして、口を開くと男口調になっていました。
「なんなんだよ!その、ふざけた魔法名は!!」
そりゃそうです。ザ・キビダンゴなんて名はふざけているとしか思えません。
『仕方ないだろう。かいsゴホッゴホッ。・・・で決められたことなのだから。』
もろに会社って言ってますよ?もやさん。
『能力の詳細は・・・石などをきび団子に変えることができ、そのきび団子を食わせた相手を意のままに動かせる。また、犬・猿・雉は与えずとも操ることができる。有効範囲は5エズリンク。』
「その5エズリンクって元の世界で、何メートルなんだ?」
『5キロメートルだ。』
魔法の名はともかく、能力はなかなかのものでした。桃太郎も満足顔でうなずいています。
もやは、若干あせりました。洗脳という能力をこのクズに与えたら、大変なことになるでしょう。
ですがまぁ、一秒後には大丈夫だろうなと思いました。このクズより、もっとえげつない人物なんて、腐るほどいますからね。
『あとは、てめぇの名前だな。てめぇの名は、モモ・タリスロアだ。以上。健闘を祈る。』
もやは早く桃太郎から離れたいので、話を短くしました。健闘を祈ると言いましたが、実際は祈りません。
確かに、このクズに祈るのは時間の無駄ですからね。懸命な判断です。
「ちょっとまて!まだ、聞きたいことがあ・・るん・・・だよ・・・。」
桃太郎。もとい、モモは質問しようとしましたが意識は闇に飲まれて、気を失ったために聞くことができなかった。