表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンルームの執事  作者: 山岡希代美
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/21

幸せな朝寝坊




 春眠暁を覚えず。というわけで今日は久々に朝寝坊。

 ザクロが来てから、休みの日も朝ご飯を食べるために早起きしていたのだ。

 幸せな温もりに包まれて、ぼんやりしたまま寝返りを打つ。

 もう少しこのまま。と思っているのに、私が起きたことに気付いたようで、ザクロが声をかけてきた。

「お目覚めですか?」

 目を開くと私を腕に抱えて、目の前で微笑むザクロと目が合う。やっぱりパジャマ姿のザクロって新鮮だ。

 山から帰ったゆうべ、朝ご飯はいらないから一緒に朝寝坊しようと、私は提案した。

 もう別れようとは言わないと思うけど、やっぱり夜の間ひとりになるのは寂しい。

 いつもは私が寝ると姿を消しているザクロに、一緒に寝てもらったのだ。

 ザクロは眠らないので眠っている間に、寝言を言ったりしたら恥ずかしいなとは思ったけど、考えてみたらそれ、普段でも聞かれている可能性は充分ある。

 今さらな気がして、気にしない事にした。

 想いを伝え合って、ひとつのベッドに一緒に寝るのを誘ったわけだから、ザクロがなにか行動を起こすのではないかと少し気になった。いや、かなり意識したかも。

 一緒に布団に入って抱きしめられた時には、心臓が破裂するかと思うくらいドキドキした。けれどザクロは私を抱きしめたまま、愛おしげに髪を撫でるだけ。拍子抜けするくらい紳士だ。

 でもザクロの腕の中は温かくて安心する。ドキドキの収まった私は、少しの間ザクロと他愛のない話をしていたが、そのうち眠りに落ちていた。

 ゆうべのように私の髪をサラリと撫でて、ザクロが尋ねる。

「やはり食事の支度をしましょうか?」

 私はザクロにすり寄ってその胸に顔を伏せた。

「ううん。いい。もう少しこうしていたい」

「かしこまりました」

 返事をした後、ザクロは髪を撫で続ける。私が再びうとうとし始めた時、ザクロが耳元で遠慮がちに口を開いた。

「あの、昨日一度だけって言っておきながら恐縮なんですが……」

 はて? なんのことだろう。不思議に思いながら顔を上げる。ザクロは少し気まずそうに告げた。

「口づけ、してもいいですか?」

「え……」

 もしかして、それで遠慮してたの?

 私は思わずため息をつく。

「そんなこと、いちいち聞かないの。ザクロは私の恋人なんでしょ?」

「はい。ですが、恋人が具体的にどういうものなのか、私はよく理解できていません」

「へ? 今までの主に恋人の身代わりを望まれたことがあるんじゃなかった?」

「身代わりは望まれましたが、請われるままに振る舞うだけで、私が自発的に何かをしたことはないんです」

 はぁ、なるほど。主の望む姿や振る舞いを再現してきただけなのか。私がいいと言わないのに不用意に触れて心が傷ついたら、とか心配してるのかな。

 相変わらず過剰に心配性なザクロに苦笑する。

「ザクロは自発的にどうしたいの?」

「もっと頼子に触れたいと思います」

 私は微笑みながらザクロの首に両腕を回した。

「じゃあ、そうして。いちいち私の許可をとらなくてもいいから。触れて欲しくないときもあるかもしれないけど、それはわかるでしょ? ザクロとは繋がってるんだから。でもそれで、ザクロを嫌いになったり、私が傷ついたりはしないから」

「はい」

 ニッコリ笑って頷いたザクロは、私の腰に両腕を回して引き寄せる。そしてゆっくりと顔を近づけてきた。私は目を閉じてザクロの唇を受け入れる。

 昨日よりも長くて濃厚なキスに、とろけそうになりながらふと思った。

 初恋のくせに、キスうまいじゃん。

 ちょっとだけ、過去の主に嫉妬した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ