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まさかこの猫が喋ったのか?そんな馬鹿な。それにどうやって部屋に入った?ここは二階だぞ。しかも玄関の鍵も、窓もしまっていた。これは現実なのだろうか。
いろいろ頭に浮かんだが、どれも今までの日常とはかけ離れたことなので、どうも頭が追いつかない。
そんなこと知るかと言わんばかりに、白い猫は言う。
「なにをそんなに呆けているのだ。私は腹が減った。」
ふてぶてしい。少し太った図体通り、ふてぶてしい猫だ。
「待ってくれ。……これは夢か?」
「なにを言っているのだ。貴様はたった今、仕事から帰ってきたんだろう?それともまさか、寝ながら仕事をしていたのか?」
この猫、ずいぶんと口が回るようだ。
声を発しているのはあきらかにこの猫だ。周りには誰も居ないし、この猫に変な機械が付いているわけでもない。
にわかに信じられないが、いくつか質問を投げかける。
「君は……猫、だよね?」
「そうだな。それ以外に何に見えるのだ。」
「いや、猫にしか見えない。君が言葉を話しているんだよね?」
「そうだ。猫が言葉を話してはいけないのか?」
「そういったわけではないけれど……」
答えが返ってきたが、やはり納得はできない。
25年生きてきたが、言葉を話す猫など見たことも聞いたこともない。小説や映画のなかでの出来事だと思っていた。そしてこんなにも流暢に、どこか皮肉めいたように話す猫など物語の中でもいないだろう。
またしても考えこむ私に対して、少し低めの凛とした声で、白い猫は話す。
「人間。考えることは素晴らしいが、私は腹が減ったと言ったはずだ。」
猫は依然とした態度で、再び空腹であることを告げた。