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「・・・・・ただいま。」
誰も居ない小さな部屋に向かって、僕は呟く。
おかえり。そう言ってくれる人が居ないと分かっていても、僕は毎日言い続けている。
人前では独りでも平気。なんて強がっているものの、本当は誰かに、言葉を投げ返して欲しい。
「まぁそんな相手がいるわけないけど。」
またしても僕は呟く。言葉が返ってくる訳でもないのに。
鞄を無造作にリビングに置き、今日の疲れを吐き出すように深い溜息をつく。
ネクタイを緩め、ようやく仕事から開放された気分になった。
今日もコンビニで買った弁当が夕食だ。
袋から取り出し、いざ食べようとすると、部屋から聞こえるはずもない他人の声が僕の後ろから聞こえた。
「おかえり。」
恐る恐る後ろを振り返る。
そこには、ふてぶてしい表情の白い猫がいた。