冒險九話 Xランクで出来るお仕事
【ランク】…F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS…9つのランクに分けられる。
F、Eは下級ランクと呼ばれ…D、Cは中級ランクと呼ばれ…B、Aは上級ランクと呼ばれる。
そしてSは最上級ランク、SSは伝説ランク、SSSは神ランクと呼ばれていた。
ランクはありとあらゆるモノにおいて適用されていた…仕事、職業、魔法、商品、食品、施設、魔物…様々なモノがこのランクを基準としてわけられている。
【Xランク】…ほとんどの人が一生のうちに見る事がないであろう隠されたランクである。
未知数をしめすこのランクが表示される時は、喜ばしい意味なんかではない…
ギルドでXランクが出た場合…一年後のカード更新の際に、一年で得た依頼の実績をかねて改めて正確なランクを授与される。
つまり、ギルドでのXランクは一年間の仮免許のような扱いであり…特典を得られないまま一年も過ごさなくてはいけない…
ティアは自分のギルドカードを見つめていた。
(Xランクかぁ…ん~…ジルおばぁちゃんはSランクだったよね?…はてしなく遠すぎる。)
隣の部屋ではドラン、ポール、マーズベルトが話し合っている。
ティアに聞こえないように配慮しているつもりなのだろうが…だだもれだった。
(あれ程の実力があるのにどうしてなんだ!?)
(これでも凄い事じゃないですか!?本来ならFランク…カードもとれなかったんですから…)
(だがAランクの俺に勝ったんだぞ!マーズベルト!お前がついていながら…)
(あたくしは精一杯やりましたわ!そもそもいろいろと誤魔化すのにも協力しまし…)
(誤魔化したってなんの事だ!そんな事をしたから…)
(まぁまぁ落ち着いてください…とにかく今はこれからの事をティアちゃんに説明して…)
(どう説明しろっていうんだ!?)
(そこをなんとかするべきなんじゃありませんこと?ハ・ゲ・ア・タ・マ!)
(なんだとぉおーっ!)
「喧嘩してる…やっぱXランクはヤヴァイのかな?ラムネはどう思う?」
ラムネはテーブルの上でコップの周りでプニプニしている。
「ちょっと聞いてる?一年間ランクなしな状態で仕事をこなしつつ…」
ラムネはコップに体を伸ばすと中の水をシュルルッと飲み干してしまう。
ゲプッ
「はぁ~、あんたは余裕だね…」
(でも、大丈夫か…ラムネと一緒なら。)
ガチャッ
扉が開くとポールとドランが難しい顔をしてやってくる。
マーズベルトはどこかに言ったようだった。
「ティア、俺の力がないばかりに…すまない…」
ドランが頭を下げる。
(ドランさん頭がまぶしいです。)
「ちょっと、やめてください!誰のせいでもないですから…」
「俺に勝つだけの実力があるってのに…くそっ!もう一度儀式をやりなおせば…」
「マーズベルトさんも言ってたじゃないですか?何度やろうと結果は一緒です…しかしまぁ、Xランクとはいえ登録できた事を喜びませんか?これは快挙ですよ!ギルドが設立されて以来初めての事例だそうです…Fランク魔物が相棒として正式に認められたんです!世界初の粘液騎乗師だなんてカッコよくありませんか?」
ポールは語りながら眼鏡をはずして、笑顔でティアの前にたった。
「はい!やっと騎乗師になれたから!ランクだって一年がんばれば…」
ドランはポールをおしのけてティアと向き合う。
「ティア!聞いてくれ…ランクはとても重要だ。金銭面での補助はない、行ける場所にしても制限だらけ、装備も買えない、宿にだって泊まれない…ランクがないままだと苦労しかしないんだぞ?耐えれるのか?一年間も。」
いつものように小さく深呼吸するティア…手にあるカードを強く握りしめた。
「私達なら出来ますよ。絶対に。」
(だよね?ジルおばぁちゃん。)
そこには何度も見てきた、自信にあふれる迷いのないティアの黒い瞳がまっすぐにドランに向けられていた。
(ったく…この頑固さと目にはかなわないか…)
「あぁ、お前ならできるな!」
「はい!…って事で仕事下さい!」
「…。」
ドランはティアから目をそらす。
「あれ?ドランさん?」
「…えっと…言いにくいんだが…」
「まさか…ないんですか?」
「本当にすまない!どの仕事依頼にもランク指定の条件がついているもんなんだ!だからこそ騎乗ギルドは最低でもDランクはないと成り立たない仕事であって…あーっ、くそっ!」
(これだけの実力がありながら仕事がないとは…)
(あちゃ~…ジルおばぁちゃんどうしよう。)
ドランも、さすがのティアも困り顔の中で…眼鏡をかけながら不敵な笑みをうかべるポール。
(今しかチャンスはありません…)
「忘れているようですが…ティアちゃんはテーブル弁償代として銀貨八枚の借金もあります!ここで一つ提案するのですがティアちゃんが僕と付き合ってくれ…」
バシッ
ドランがポールを思いっきりはたいた。
「さっきマーズベルトに聞いたんだが…お前、俺達の勝負を使って賭けをしてたらしいな?」
(さすがにばれてしいましたか…)
「ん、まぁ…そんな事もしたようなしなかったような…」
「ポールさん…」
(イイ人だと思ったのに…)
「ティアちゃん!?そんな目でみないで下さい…」
(でもこの軽蔑した目もイイ!)
「さて、話しに聞く所によるとティアが圧勝で勝つと賭けたのは二人だけだったとか?そのうちの一人は…ポールお前らしいじゃないか。いくら稼いだんだっけなぁ…確か…」
「ははははっ、もちろんティアちゃんのおかげで稼がして頂きましたのでテーブルの弁償分は僕が責任もって支払っておきますね!ははははっ!」
(しかーし!僕にはまだ手があります!)
「ありがとうございます!」
(ポールさんはまだ何か企んでる…)
ティアがラムネに目くばせをすると、ポールに気が付かれないようにラムネは忍び寄った…
「ティアちゃん、僕と前向きに付き合ってくれるならこの依頼…あれ?紙がない?」
ポールは後ろポケットに隠し持っていた紙をなくしたようで必死に探している。
その傍らでラムネが体をニューンと伸ばしてティアに一枚の紙を渡した。
「探しモノはこれですよね?ポールさん。」
「あっ…」
(さすがはティアちゃん…好きだ!)
ポールが隠しもっていた紙は、Xランクでも引き受けられる今現在唯一の依頼書だった。
「この仕事、ティア=フレアハートが引き受けました!」