冒險七話 ギルドカード登録の儀式
【ギルド登録】…それぞれのギルドに定められた条件さえクリアすれば登録する事が出来る。
それぞれのギルドで登録する為の条件を簡単に説明すると…
【冒険者ギルド登録】…戦う事を覚悟しているならば、特別な条件はなく誰でもなる事ができる。
【魔法ギルド登録】…魔法が使用出来る者は必ず登録をする義務がある。
【商業ギルド登録】…商業をしている。もしくは、発明をしている。
【騎乗ギルド登録】…Dランク以上の魔物を相棒としている必要がある。
【ギルドカード】…ギルドカードがあると様々な特典がつく為に取得を目指す者は多い…
実際に、難しい条件ではないことからギルドカードを取得する事は誰でも可能なのだが…その中でも冒険者ギルドカード、騎乗ギルドカードの維持は難しいとされている。
条約を違反したり、依頼を無断で放棄したり、依頼の失敗が重なったり、適度に依頼をこなしていなければ簡単に登録解除されてしまう。
また年に一度の更新を義務付けられており、それをおこたってもカードの効力は失われてしまうのだ。
ギルドカードには高度な固有の魔法がかかっており、常に魔法で行動が記録されていく。
カードを持っている者の素性はもちろんのこと…成功依頼数、失敗依頼数、討伐数、違反数などなどすべてが自動的に記載されていく為に、経歴を誤魔化す事はできなくなっている。
それでもやはり、ギルドカードを手にしようとする者は後を絶たない…それ程にカードの持つ特典が魅力的なのだ…
ティアは魔法ギルドのギルドカード精製室にきていた。
小さくも大きくもない部屋の真ん中の、不思議な形をしたゴツゴツした椅子にティアは座らされていた。
ティアは落ち着かずそわそわしながら周りを見渡す…
(隅っこに置いてあるの…水晶かな?高そう…)
部屋の四隅には綺麗に形が整えられた六角錐のクリスタルが置いてある。
(この足元のは魔法陣だよね?さっぱり読めないけど…なんかうっすら光ってる?踏んでるけど消えないかな?足上げといた方がいいとか?)
ティアが足を上げたり下ろしたりしている場所を中心に円を描くように何十もひかれている魔法陣。
もちろん見たこともない読むこともできない難解な文字や記号が地面にビッシリと書かれていた。
そして、ティアの考えている通りにうっすらと光っていた。
(はぁ~…早く終わらないかなぁ?ラムネを連れてきちゃダメって言われたからドランさんに預けてきたけど…いつも一緒だから離れると凄く不安だ…って弱気はダメダメ!)
バターンッ
突然前触れもなく扉が開くとそこには、肌の露出が多めな金髪巻き髪の女性がいた。
「お~っほっほっほっ!おまたせしましたわ!あなたが噂のティアちゃんね!」
部屋にあっていない大声ぶりとハイテンションぶりでティアに歩み寄る。
「あなたドランちゃんに勝ったんでしょ?凄いわ~っ!ぜひ私もお相手して欲しいものね!」
(ん~…あたくしには劣るもののなかなか可愛い子ね!)
「…負けた…完敗です…」
「あら?」
ティアの目線は目の前の女性の胸にくぎづけだった…
(D?…Eカップ?こんな人に勝てるわけないじゃない!)
「んもぉ~っ、ティアちゃんは今が成長期なんだから気にすることなくてよ!」
「…私…まだまだこれから成長すると思いますか!?」
女性はチラッとティアの胸元を見ると顔をそらした。
(あっ…)
「さ~て、自己紹介がまだだったわね!ゴホンッ…お~っほっほっほっほっ、あたくしこそが鮮血の魔女と呼ばれし偉大なる魔法使いマーズベルト=ウィズス!現在は魔法ギルドからの依頼でギルド職員を仕方なくやってあげているわ!」
(…決まった!完璧ですわ!)
(凄く綺麗な人なのに…この人モテないだろうな。)
「えっと…ゴホンッ、私は史上最高のスライムの使い手、最初で最後の粘液騎乗師ティア=フレアハート!現在はここにギルドカードを受け取りにきました!」
(…この子…できる!?只者じゃないわ…)
「…よろしくてよ!じゃぁ早速ギルドカード登録の儀式をはじめるわ!…魔力展開っ!!」
マーズベルトを中心に魔法陣の光が外側に向けて輝きをましてゆく…そして、輝きがすべての魔法陣を覆い尽くすと四隅の水晶が黄色い光を放った。
「凄い…綺麗…」
「そうでしょ?そうでしょうとも!あなた!あたくしがいる時に登録できるなんて栄誉ある事よ!自慢する事を許可してあげるわ!お~っほっほっほっほっ!」
(多分…この人、友達もいないんだろうな。)
「ありがとうございます。」
「さぁいくわよ!魂紙錬成っ!」
座っていた椅子ごとティアは光の柱に包まれた…そして、ティアの頭上に光が集まり固まってゆく。
「んっ、なんか体が変な感じ…」
(…気持ちいいのかな?)
「リラックスしてちょうだい!まだはじまったばかりよ!さぁあたくしの質問にお答えなさい!情報通信っ!…あなたの名前は!」
「ティア=フレアハート。」
ティアの声に反応するように水晶が青く光る。
「いいわよ!情報通信っ!続いてあなたの種族は!」
「人間です。」
ティアの声に反応するように水晶が赤く光る。
「あら!?嘘はいけなくてよ!?」
「嘘じゃないですよ!人間じゃなかったら私なんになるんですか?」
マーズベルトはティアに近づき体の隅々を嘗め尽くすようにみながら触りつくす。
「ちょっ!どこさわってるんですか…あはははっ、くすぐった…んっ?ちょっ!?あぁあん…」
(やめてっ!このままじゃお嫁にいけなくなるぅ~っ…)
(体は間違いなく人間だわ…でもこの黒髪と…そうよ!この黒い瞳!)
「…分かったわ!あなた黒曜の一族ね!」
「黒曜?」
「ごくまれ~にいるのよ!黒い瞳と黒い髪を持っている人間じゃないと審査されてしまうレア奴らですわ!あたくしも一度男性の方でしたが経験ありましてよ!」
(もしかして私のお兄ちゃん?まさかね…)
「あの…この場合は…どうなるんですか?」
「このあたくしマーズベルト=ウィズスがついてるのよ?おまかせあれ!情報通信っ!人間!」
マーズベルトの声に反応するように水晶が青く光る。
(結構適当なんだ…)
「一気に続けるわよ!情報通信っ!あなたの年齢は?」
「16歳。」
「情報通信っ!あなたの相棒の名前は?」
「ラムネ。」
ティアの声に反応して順調に青く水晶が光る。
「情報通信っ!あなたの相棒の種族は?」
「スライム。」
しかしこの質問に対して水晶は赤く光っていた。
「ちょっと嘘はやめて欲しいですわ!嘘をついてもその水晶はあなたのすべてを見抜いてしまってよ!」
「ラムネはスライムです!見たらわかります!」
「じゃ~この水晶が壊れたと言いたいのかしら?」
「そうじゃないけど…」
(ジルおばぁちゃん…ラムネはスライム…じゃないのかな?)
四隅の水晶ははっきりと赤く光を放っていた。