冒險四話 ギルドマスターの相棒
【天舞のジルブァ】…ジルブァ=フレアハートの二つ名である。
彼女は相棒にロックと呼ばれる魔物を連れていた。
ロックは巨大な鷲の姿をしていて、羽を広げれば十メートルをも越えるといわれる巨大怪鳥である。
空に舞い上がった巨鳥騎乗師は巨大な体とは思えぬアクロバットな動きとスピードで空を支配する。
雨のように矢が降ろうとも、すべてを避けきりかすりもしないその光景は、舞いのように美しい…
まさに天を舞う、天舞のジルブァ。
ジルブァの功績は偉大である。
勇者パーティーの同行、フェニックス国王の護送、死の谷からの帰還…数えればきりがない。
この【フェニックス大陸】で一番有名な騎乗師となり、数多くの人から今も尊敬され憧れられている…
そんな偉大な騎乗師の孫がここにいる。
男達は半信半疑…嫌、ほぼ信じてなどいなかった。
しかしドランは違う…
(なぜ連れているのがスライムなんだ?ロックであれば迷わず勧誘する所なのだが…)
無言のままドランはポーンを見るとウィンクを返される。
(ポーンは俺にはない何かを見抜く力がある。賢さがある…やはり何かあるのか…)
答えが出たわけではない。
だがドランは重い口を開いた。
「お嬢ちゃん、一緒に来てもらえるか?」
「どこに?」
「ギルド訓練所だ…そこで俺の相棒と勝負してもらうぞ。」
「ありがとうございますっ!」
ティアは満面の笑顔で答えた。
男達はその笑顔を見てずっと思ってた事を心で叫んだ…
(((くそっ…可愛いーっ!)))
右肩にラムネを乗せたティアが案内されて着いた場所は、建物の奥にあるコロシアムのような所だった。
階段状に組まれた客席のようなモノが、だだっ広い荒れ地を円状に囲うようにか組まれている。
「広~いっ…でも屋根もないし地面も荒れ放題なんですね。」
「舗装された場所じゃ訓練にならないだろ?いざ外に出て戦う時には雨の日もあれば風が強い日もある、足元だってぬかるんでたり不安定なもんだ。」
「なるほど。」
(ドランさんの頭が太陽に反射してヤヴァい位にまぶしいんだけど…)
「さて、早速だが俺の相棒を紹介しよう…」
ドランは口元に手を当て、口笛を吹く構えをとった。
ピュイピィーッ
ドランが出した音は遠くまで響き渡ると、それに答えるように鳴き声が返ってくる。
「ギィイーッ…」
バサッ、バサッ、バサッ…
羽ばたく音がドンドン大きくなりティアの上空を横切る。
(あれは…ヒポグリフ!)
ティアはヒポグリフを見るなり息を飲む。
彼女の知識の中のヒポグリフは上半身が鷲で下半身が馬の姿をした、二メートルにもならない魔物である…
だが今、目の前に舞い降りようとしているのは、姿はそのままだが大きさが倍はあるだろうか?
三メートルは越える巨大なヒポグリフだ。
「こいつデカイだろ?名前はカムールだ。」
「ギュイッ、ギュイッ…」
ヴァササーッ
ドランの横にカムールが降り立った。
他の男達より頭一つ分はデカかったドランも、カムールと並べば小さく見える…それ程にカムールは大きかった。
「鷲馬騎乗師…ヒポグリフってそんなに大きくなるんですか?」
「名前を知ってるとは博識だな。ヒポグリフは普通なら二メートルもないが、こいつは特別だ。羽を広げると五メートルはいくとこだが…ロックを見なれたお嬢ちゃんには小さく見えるだろ?」
「…ギュルルッ…」
撫でられて気持ちよさそうにしているカムールがドランの横に座り込む。
(…想像以上だったけど…)
「そうですね。なんとか倒せそうで安心しました。」
「そりゃ良かった。手加減してやるつもりだったが必要なさそうだな。」
(お嬢ちゃんには悪いが…ギルドリーダーとしてスライムに負けたなんて無様なとこは見せれないからな。)
「望むところです。」
ティアの右肩からポヨンッと地面に飛び下りたラムネがプヨプヨと体を揺らしている。
「頑張れティアちゃーん!」
ラムネのせいか、遠く離れた客席からは聞こえてきたポーンの声援のせいか、いまいち緊張感がなくなってしまう。
ティアもドランもポーンの声がする方向を見ると、試合どころではない騒ぎに驚いた。
「ポーンっ!お前それはどうゆうことだっ!?」
ポーンの周りには百人は越えるてあろう人が集まりお祭り騒ぎなのだ。
「ギャラリーが多い方が楽しいじゃないですか!ギルド館内放送で、今から粘液騎乗師vs鷲馬騎乗師のギルド登録をかけた一騎討ちが訓練所であるよって流してもらいました!」
「ドラーンがんばれよぉーっ!」
「やれぇーっ!」
「手加減してやれよぉーっ!」
「早くはじめやがれっ!」
「お嬢ちゃん俺と付き合ってくれーっ!」
「負けるなお嬢ちゃーん!」
「「ドーラーンッ!ドーラーンッ!」」
様々なヤジや声援が飛び交う 。
「ったくあのバカ…後でぶん殴ってやる。すまねぇなお嬢ちゃん。」
(集中しなきゃ…)
「いえ…勝負の方法は?」
ティアは周りに惑わされる事なくまっすぐにドランとカムールに向き合っていた。
(イイ集中力だな。イイ目してやがる…)
「ルールは簡単だ。この袋を守れ。」
ドランがティアに片手で持てる程の小さな袋を投げた。
同じような袋をドランも持っている。
「俺のを奪えばお嬢ちゃんの勝ち。逆にその袋を俺に奪われたらお嬢ちゃんの負けだ。いいか?」
「奪う方法はなんでもあり?」
「魔法でも武器でもなんでもありだ。ただし命を奪うのだけはなしだな。訓練所から出た場合も負けだ。」
「了解。」
「いいのか?カムールは手加減なんて出来ない奴だ。怪我したって責任はとれないぞ?」
「ギィイーッ!」
カムールが首を上下に振る。
「その言葉そっくりそのまま返しますよ。ラムネの事をなめてると…怪我どころじゃすまないかもですよ?」
足元のラムネも上下にプヨンッと揺れる。
「イイ度胸だ…おいっ!ポーンっ!」
ドランは盛り上がっている客席に向かって大声をあげると、ポーンが慌てて大声で返してくる。
「なんですか!?」
「勝負開始の合図をくれっ!」
騒ぎまくっていた客席が静まる。
ポーンは客席の一番前までやってくると大きく息を吸い大声をあげた。
「では二人とも構えてください!」
ドランはカムールの背中に飛び乗ると、カムールは羽を大きく広げ立ち上がった。
「ギュィイッ!」
ティアは目をつぶり軽く深呼吸する。
(やるからね…ジルおばぁちゃん!)
「ラムネ!肥大化Lv1!」
ティアのかけ声と共にラムネがブクブク膨れ上がり二メートルの大きさになった。
そしてプルンッと震えると、ティアを囲むように輪になり、ティアの足元に体を伸ばしはじめた。
ティアは持ち上げられながら、ラムネの体の上で膝をついてラムネを撫でる。
「私はラムネを信じてるから!」