冒險三話 ドランの悩ましい一日
【ギルドリーダー】…各支部のギルド内それぞれの冒険者、魔法、商業、騎乗から一人づつ選ばれる四人の代表を指す。
ギルド登録も仕事の依頼や請け負いも各支部のギルドリーダーが独断で判断するようになっている。
ギルドリーダーに選ばれる為の基準は…その支部を居住地とする者、その職業を最低十年はこなした者。
この二つの条件があてはまる者を対象とした選挙で選ばれた者だけが、ギルドリーダーを名乗る事ができるのである。
そして、このドラン=ガルダードも十五年前から選挙に選ばれ続けるベテランギルドリーダーだ。
他ギルドからの信頼も厚く、近所住民との交流も深く…毛がない頭は誰よりも輝かしい威厳ある男である。
だが、おそらく彼はギルドリーダーとして今日程に悩んだ日はないだろう…
目の前では男達がティアにヤジを浴びせている…だが彼女は笑顔で無言のままである。
(どう考えてもスライムでは無理だ…なのに何かが引っ掛かる…なんだ?直感か?俺は心のどこかで「もしかしたら?」なんて考えているのか?…バカだな俺も…)
「お前ら静かにしろっ!邪魔するなら追い出すぞ!」
「「「っ…。」」」
「ったく…お嬢ちゃん…ココにはスライムにまかせれる仕事もなければ、依頼する奴なんかはいないんだ。無駄な事はやめて…そうだな、冒険者ギルドのリーダーを紹介してやろう!さっきの鞭みたいな攻撃は見事な…」
「私は騎乗師になりたいんです!騎乗師以外の道はありません!」
(やっぱりまぶしい…あんなに頭って光るモノ?)
「…相棒を変える方法な…」
「ラムネと一緒にですっ!!」
ラムネは動きを止めて、ティアの足元でアピールするかのようにニョンッと体を少し伸ばした。
「…なんでそんなに騎乗師にこだわるんだ?」
ラムネがプリンッと跳ねてティアの右肩に戻る。
ティアはラムネを少し見つめた後で、ドランと向き合った。
「私のおばぁちゃんは騎乗師をやっていました。お兄ちゃんもやってます…私は二人に負けない騎乗師になりたい!」
ガラガラガラッ
部屋の一番奥にあるカウンター前の小窓が開く。
眼鏡をかけている制服姿の男が座ったまま小窓を開けたようだ。
「いいんじゃないですか?ぜひ登録して頂きましょう。」
「ポーン?話しは聞いてなかったのか?」
「こんなに騒がれたら嫌でも聞こえますよ。だからこそ登録をオススメしてるんですが?」
椅子に座ったまま小窓越しに話すポーンと呼ばれた制服姿の男は、眼鏡をあげるしぐさの後にティアに向けてウィンクをした。
(味方してくれてる?とにかく今がチャンス…)
「眼鏡のお兄さんは見る目があると思うな。絶対に失敗せずに出来る自信はあります…だから実力だけでも見てもらえませんか…?」
(お兄ちゃん直伝妙技その3、プチデビルアイズ!)
説明しよう!
お兄ちゃん直伝妙技とは、女性にして欲しい行動をティアに伝授したお兄ちゃん発案の男殺し技…もっとくだけた言い方をすればお兄ちゃんの趣味趣向丸出しの技だ!
その中の【プチデビルアイズ】とは…斜め下から頭56度の角度で、絶妙なまばたき二回の後に潤んだ瞳で見上げて攻撃する…
成功すればほとんどの男は彼女の願いを叶えたくなるであろう必中率が高めの万能技らしいぞ!
ドランは顔を赤らめてそむける。
(…くっ…可愛い…)
「頼みを聞いてやりたいのはやまやまなんだがな…ゴホンッ、Dランク以上の魔物じゃないと登録出来ない条約があって…」
「特例措置第五条…Eランク以下の魔物であろうと、ギルドリーダーに挑み勝利できる実力を持った特別な個体に限り、相棒として登録を認めてもよい…でしたよね?」
「それ本当ですかっ!?眼鏡のお兄さん!?」
ティアは凄い勢いでポーンに詰め寄ると、はずみでラムネがポヨポヨンッと転がり落ちた。
「本当ですよ可愛いティアちゃん。それと、眼鏡のお兄さんじゃなくポーンさんと呼んで下さい。ポーン=ヒューズ…騎乗ギルド担当の職員さんなんてやっていますから、僕と仲良くしてる方がいろいろイイ事あると思いますよ?」
「ぜひっ!」
ティアはポーンが伸ばそうとした手を先に握り返すが、すぐにドランが邪魔に入った。
「ポーン…お前、自分が言ってる意味が分かってんのか?」
「せっかく手を握ってもらえたのに残念。ギルド職員として…可愛いティアちゃんにはドランさんに勝ってもらって、ちゃんと登録して頂かなくてはいけませんね!」
「コレが俺の相棒に勝てるなんて本気で思ってるのか?」
ドランは足元でプルプル震えるラムネを指差しながらも、静かに怒っている様子だ。
「思ってますよ?」
「俺を本気で怒らせたいのか?」
ドランは鋭い目でポーンをにらみつける。
黙っていた男達もポーンを囲みながら騒ぎ出した。
「黙って聞いてたらふざけるなっ!」
「ドランさんに謝りやがれっ!」
「ギルド職員だからって調子に乗ってんじゃねーぞっ!」
「表に出やがれっ!」
今にもポーンに掴み掛りそうな男達だったが、ドランの低い声が聞こえるとすぐに動きを止める。
「黙れって何度言わすんだ?」
「「「すいません…」」」
「ポーンもバカじゃないんだ…何を根拠にそう思ったのか説明してもらおうか?」
(私…完全においてけぼり?)
ティアそっちのけで男達の話し合いは進む。
「理由は二つあります。ティア=フレアハートと名乗った彼女は「おばぁゃんも騎乗師だ」っと言っていました。フレアハート、フレアハート?どこかで聞いたとは思いませんか?」
「…フレアハートってまさかジルブァ=フレアハート!?天舞のジルヴァかっ!?」
「まさか!?」
「嘘だろ?」
「そんなわけねぇだろ?」
ドランも男達も驚きを隠せないようだ。
(ジルばぁちゃんってやっぱり有名なんだ…)
「そしてもう一つの理由はアレです!」
ポーンが指差した先にはティアが真っ二つに割ってしまったテーブルがあった。
(さすがはポーンさん…私とラムネの強さに評価してくれてるんですね。)
ポーンは大きな声で断言した!
「テーブル弁償代しめて銀貨八枚!しっかり働いて返してもらいます!」
「「「えっ?」」」
息を飲んで聞いていた男達は目がまるくなる。
そして一斉に振り返りティアを見つめた。
「えっ?…ぇえっえっ!」
(ジルおばぁちゃん…私…失敗したみたいです!)
ティアの叫び声が部屋に響き渡る。
この状況を楽しんでいるのはポーン位だろう。
そしてこの中で一番悩んでいたのはドランであり、彼の頭は汗でより一層に輝いているのだ。