冒險二話 騎乗ギルドの登録拒否
【ギルド】…それは四つのギルドをまとめた場所の事をさす言葉である。
四つのギルドとは…冒険者ギルド、魔法ギルド、商業ギルド、騎乗ギルドのことだ。
それぞれのギルドを簡単に説明すると…
【冒険者ギルド】…魔物の討伐依頼や護衛を引き受けてくれる。
【魔法ギルド】…魔法を使える者の紹介や怪我の治療などを引き受けてくれる。
【商業ギルド】…商業施設の紹介やアイテム類の買い取りを引き受けてくれる。
【騎乗ギルド】…相棒と呼ばれる魔物を操り人や物の輸送を引き受けてくれる。
この四つのギルドはそれぞれ連携しあってギルドを支えている。
そして、ギルドはどんな小さな町や村にでも必ず存在する施設でもある。
ココはそんなギルドの中の一つ、ギルド【プロミネンス支部】
今まさにその中の騎乗ギルド受付前で喧嘩がはじまろうとしている…
「「ぶはははっ!」」
「今の聞いたか?」
「聞いた聞いたっ…最強の騎乗師になるってよ…スライムで?ひーっひっひっ…」
「スライム最高…くっ、ぷふーっ…」
「こいつは最弱の粘液騎乗師の誕生だな!」
「「「ぶはははははっ!!」」」
「笑うのは自由ですが、そこを通してください。ギルド登録を…」
通ろうとした所を男達がふさぐ。
「あぁん?」
「通すわきゃねぇだろ?」
「騎乗師なめてんじゃねぇぞ!」
「「か・え・れっ!か・え・れっ!」」
詰め寄るわけもなく男達のヤジが重なり、大きくなる。
「…。」
(はぁ~っ、ジルおばあちゃんに悪いけど…やるしかないよね?)
ティアの考えた事に反応するようにラムネがプルンッと体をふるわせると…蛇のように細くなりながら右腕に巻き付いていき、ティアの腕輪に重なるように更に巻き付く。
「…おい!なんだアレ!?」
「…きもちわりぃ…」
腕輪のようになあったラムネは、手からも垂れ下がるように体を細く長く伸ばしてゆく。
ティアはそれを掴むと大きく振り上げ横に振り払った…
バゴンッ
大きな鈍い音が部屋に響く。
蛇のように伸びたラムネの体が横にあったテーブルを叩き割っているのだ。
男達にあきらかな動揺がみえる。
「鞭変形…痛い目にあいたい方はどうぞ?」
「…っなかなかやるじゃねぇーか…」
「…あっ、あぁ…」
「…だからって調子のんなよ!」
「「そうだ!そうだ!」」
ヤジはなげるが…腰は引けて後退り気味だ。
しかし、その中でも一番デカいムッキムキな男は違った。
「「ドランさんっ!」」
「よっ!兄貴っ!」
「やっちゃってください!」
「手加減してやれよっ!」
「お前ら黙りやがれっ!」
ドランと呼ばれた男は男達を黙らせる。
あきらかに他の男達よりもイイ鎧を着ていてレベルの違いを感じさせ、はだけた胸元からさえも他の男達よりムッキムキレベルが一段上な事が分かるその男は…そのままティアの目の前に近づいてきた。
頭二つぶんもデカいドランを見上げたティアは、あることしか考えれなくなっていた。
(…まぶしい!?)
「お嬢ちゃん、どうした?」
「えっ!?嫌、その…」
(光が頭に反射してまぶしいんです!)
ドランはまるハゲ…スキンヘッドだった。
「怖じ気ついたのか?」
「そんな事ありません!ちょっと気になっただけです…」
(頭がね。)
「まぁいい、俺はドラン=ガルダード。【プロミネンス支部】の騎乗ギルドリーダーだ。その物騒なもんはしまってくれるか?」
「…ラムネ、解除。」
(なんで…なんであんなにまぶしいの?)
ラムネはどんどん縮んでゆくと、元の丸い物体戻る…もちろん定位置であるティアの右肩でプルプルしながら。
「さて、お嬢ちゃんには悪いんだが、ギルドリーダーとして騎乗師を認める事は出来ない。」
「なんで!?」
(まぶしいだけに偉い人なの!?)
「相棒に問題がありすぎだ! 」
(問題あるのはあなたの頭でしょ!?)
「…ラムネの事も知りもしないで、問題なんてありません!さっき見たように私達は戦う事も出来るし…」
「騎乗師が大事なのは戦闘力じゃない!強さに自信があるなら冒険者ギルドにいきやがれっ!!」
ドランは怒鳴り声をあげた。
怒られているわけでもない周りの男たちがビビッてしまう程の怒声なのだが、ティアの黒い瞳は揺らぐ事はなかった。
(ほぅ…ビビりもしないか…)
「…ったく、イイ目をしてやがる。だが、これは意地悪で言ってるわけじゃない。この騎乗ギルドの存続に関わる問題だからこそ認める訳にはいかないんだ。」
「…ちゃんと理由を話してもらえますか?」
「あぁ、そこに座んな。」
ドランが近くの椅子に座ると、ティアも目の前の椅子に座る。
ラムネはプヨンッとテーブルの上に跳び跳ねて、プニプニ動きはじめ…男達は立ったまま静かに話を聞くようだ。
「騎乗師の仕事は簡単だ。運ぶモノを乗せて言われた場所に行く、そして下ろして帰ってくる…【プロミネンス支部】で仕事を引き受けたら、どんな遠い場所に行こうと報酬を受け取る為にもココまで帰ってこなきゃいけないわけだ…」
「言いたい事はつまり…遠い所に行って帰ってくるだけの簡単な事でさえ、私達には出来そうにないって話ですか?」
「…仕事に失敗したら運んでいたもんはどうなる?なくなりましたじゃすまない仕事なんだぞ?…物の護送は商業ギルドからの依頼がほとんどなんだが、失敗した時は賠償金を支払わなきゃいけなくなる…」
「失敗はしません。でも、もしも…もしも失敗したらちゃんと払って…」
「それはお嬢ちゃんが生きてた場合だろ?失敗した時ってのは盗賊や魔物に襲われたって事だ…まぁ運良く生きてたとしても地獄が待ってるぞ?信じられないような借金を背負わされるからな。」
「…。」
「でもまぁ、金で解決できるなら楽かもしれないな…人を護送する仕事なんてのは命を預かってんだ。自分の命どころか人の生死を背負う覚悟はあるのか?」
「…。」
ラムネがティアの手元にすりよる。
心配しているようなその動きはティアの表情がくもっているからだ。
「騎乗師が死んだら…責任は騎乗ギルド全体で請け負う事になる。嫌、ギルドリーダーである俺が受けるべき…」
「何言うんですか!?」
男達は黙っていられなかった。
「そうなったら俺達全員、死に物狂いで働きますから!」
「ドランさんにだけ辛い思いなんてさせませんぜ!」
「運命共同体っすよ!」
「「「その通りだっ!!」」」
ドランはギルドリーダーとして全員から愛され、尊敬され、信頼されているのだ。
「あぁ、だが失敗なんてありえないだろ?騎乗師は絶対に失敗が許されない仕事だ!信頼で成り立っているからこそ…俺が認めれる者にしか仕事をさせるわけにはいかないんだ…すまない。」
ティアは目をつぶった…そして、ゆっくりと目を開けた。
その黒い瞳には迷いなどない。
ラムネは嬉しそうにプリンッと揺れる。
「分かりました。じゃ~っ…認めてください。」
ティアは笑顔に戻っていた。
その笑顔はあいもかわらず男達を魅了するかのような満面の笑顔。
しかし、ドランはそうはいかない…
(このお嬢ちゃん…信じられん程の頑固者だな!?だが…面白い…。)