冒險十五話 ゼロの駆け引きと案内
【魔眼】…魔力を持った瞳の事を指す言葉であり、対象を見るだけで発動する事ができる魔法。
種類や能力も多種様々あり、鑑定する、遠くを見る、未来を見る、過去を見る、動き止める、魅了する、混乱させる、幻を見せる、破壊する…ただ見るだけで使えるこの能力は誰もが欲しがり求める最高峰の魔法なのだが、魔眼を手に入れる事は超困難なのだ。
魔眼を手に入れる方法として伝えられている方法は三つだけ。
【遺伝】…魔眼を持つ魔族と人間族が結ばれると半魔族が誕生する場合があり、その子供はまれに魔眼を受け継ぐ。
【契約】…魔眼を持つ魔族が求めるモノを捧げる事が出来れば授けてもらえるのだが、これは一種の呪いであり必ず何かの代償がともなう。
【強奪】…悪魔族であれ半魔族であれ魔眼を持った者を殺し、その目玉をくりぬき呑み込んだ者にその能力は宿るとされている。
つまりは、どの手段を使うにしても自分の欲しい魔眼を持つ魔族に出会わなければいけないのだが、そうそう簡単に出会えるわけもない…
ゼロと言う銀髪の子供は赤い瞳をティアに向けていた。
まさに、出会えるわけもない魔眼を持つ存在…だがティアはまだその事実を認識する事なく怒り狂っていた。
「あぁもぉイライラする!絶対に捕まえてやるんだから!」
クロロの後を追いかけようとティアは動こうとしたが、ゼロが服の裾を引っ張って止めめてしまう。
「…ティア…危ない…」
「えっ?」
ゼロは赤い瞳でジャラシーの森を見つめていた。
「…キラービーいる…警戒してる…」
「キラービーがいるの?」
(…私には何も見えないけど…)
ゼロの見つめる先をティアも見るが森が広がっているだけにしか見えない。
「…60m先の木…巣がある…さっきワーウルフが石ぶつけて逃げた…」
「あいつめっ!…私がすぐに追いかけても足止めする罠をしかけてたって事か…」
(キラービー数匹位なら倒せるけど…巣となればめんどくさいかな…)
キラービーは1m程の蜂で一匹だけなら魔物ランクはFランクで高くはない。
動きは俊敏で毒針をもった厄介な魔物ではあるが、その毒は遅効性で速効性がないので解毒が難しいわけもなく…炎に弱かったり、羽にさえ一撃きめれば飛べなくなってしまうような弱点も多々ある。
だが群れで現れるとなると別問題で、危険性はDランクにまで上がってしまう。
遅効性な毒も大量にうけてしまえば致命傷になってしまうからだ。
「あーっ、もう!私一人なら強行突破する所だけど…」
「…ついてく…」
(やっぱりそうくるよね。)
「あのねゼロ君。私はお仕事でジャラシー村に行かないといけなくて、この魔物がうようよいる森を二日間もさまよわなくちゃいけないのね?だからとっても危ないわけで…」
「…村の場所分かる…案内できる…一日でいける…近道ある…」
(嘘!?一日でいけるの!?)
「えっ?えぇーっ…あぁーっ…でもダメ!魔物が襲ってきたら大変だし…」
「…ティア…護衛の仕事もある…ゼロ守れないなら騎乗師失格…」
(痛いとこ突っ込んできたーっ…)
「ちょっと!?守れないなんて言ってないでしょ?私は凄腕の騎乗師なんだよ?だからこそ護衛だって仕事として依頼されれば完璧にこなしちゃうわけで…」
ティアが力説をはじめると同時に、話しを聞いてるのか聞いていないのかゼロは小さな袋から金貨を取り出した。
「…依頼…ゼロをジャラシー村まで連れてく…どう?」
(なっ!?ななななっ…きっ…金貨っ!?)
「えっと…依頼は正式にギルドを通さないとダメなわけで…そのぉーっ…ねぇ…」
ティアの目は泳ぎはじめ様子があきらにあかしい。
「…ワーウルフに全部とられた…ティア困ってる…ゼロはこのこと誰にも言わない…」
ごくんっ
(この子…さっきから痛い所ばかりついてくる…ただの子供じゃない!?だって金貨持ってるし…金貨だよ!?喉から手が出る程欲しい!欲しいけど!…ダメ!ダメ!耐えろティア!悪魔の誘惑に負けちゃダメぇーっ!)
「…ゼロ君…どんな事情があるのか分からないけど、ちゃんと両親の所に帰りなさいっ!ちゃんと送ってってあげるから…金貨もしまって、ねっ?」
(これで…これでいいよね?ジルおばぁちゃぁあぁぁあん!)
「…ゼロ…なんでも見える…便利…」
「うん。ゼロ君は凄い。どうしてそんな事が出来るのか分からないけど、大人になったらおねぇちゃんと一緒に冒険しようね。」
(金貨ぁぁぁあぁあっ!欲しかったよおぉおぉ…)
「…魔物どこにいるか分かる…隠れてても見つけれる…あのワーウルフも…」
(…ワーウルフを…見つけれる?)
「え?…今なんて言った?」
「…ゼロがいれば…あのワーウルフ探せれる…連れてく?」
「連れてくっ!!」
ティアは考える間もなく即答していた…それほどにクロロに対する怒りがおさまっておらず冷静でなくしていたのである。
(ジルおばぁちゃんごめんなさい…あの男だけはどうしても捕まえたいんです!)
こうしてココに珍妙なパーティーが誕生したのだった。
ジャラシーの森を突き進む黒髪の美少女とスライムと銀髪赤目の子供…目を疑いたくなるような光景なのだがまぎれもない現実である。
そしてゼロの案内は完璧だった。
「…ジャイアントスパイダーがいる…こっち…」
「…こっち…ウッドゴーレムいる…」
「…ここでしゃがむ…アナコンダ通る…気が付かない…」
「…ホーンラビットいる…敵意ない…大丈夫…」
森に入って半日以上たっているがティア達は魔物と一度も戦闘になっていない。
(すごすぎる…本当に全部見えてるんだ…もしかしたら本当に今日中にジャラシー村につくかも!?)
そもそもジャラシー村につくのに二日かかる理由は簡単で、一つは道がない事。
そして最も問題なのは魔物と遭遇してしまい、突破するのに時間がかかるせいである。
ジャラシーの森で魔物に遭遇しない事など奇跡なのだが…そんな奇跡を起こしてしまっているのだ。
「…あと一時間も歩けばつく…」
「ゼロ君、ついてきてくれてありがとう。」
「…。」
ほぼ表情のないゼロだったが、ティアの言葉でほんのり赤くなって照れていた。
「さて、次はどっちに行けばいい?」
「…。」
「あれれ?ゼロ君?」
「…。」
どこか遠い所をずっと見つめるゼロ。
先程の照れた顔と違い、何を考えているのかわからない無表情な顔である。
「何か気になる事があるなら教えてほしいな?」
ゼロは赤い瞳を一度閉じ、目を開くとティアをまっすぐ見つめた。
「…500m先…ワーキャットいる…」
「そうなの?きっとジャラシー村の人だね!」
(本当に迷わずに村にこれたんだ…)
「…襲われてる…」
(えっ!?)
「襲われてる!?何に!?」
「…影…」
(ジルおばぁちゃん…ゼロ君は凄い子ですが…よくわかりません!)




