終章 ーUntil the...ー Part4
「バカな奴だっ!一騎討ちなどと下らない勝負に興じているからこうなるのだ!!」
フィルスの言葉でラルクはやっとこの事態を理解した
自分はセルシウスの剣に体を貫かれたのではなく
フィルスの背後からの魔術によって崩れ堕ちたのだと
だとしたらこれはきっと致命傷だ
「テメェっ!!」
「貴様ぁっ…!!」
ライカとアルトはフィルスに吼え、襲いかかる
「フンッ…負け犬は引っ込め」
フィルスは衝撃波を生じさせ2人を壁へと叩きつける
「ラルク!?しっかりして下さい?」
シルヴィアはラルクにいつになく大きな声で呼びかける
「大丈夫だよ、今手当てするからっ!!」
メリッサは急いでラルクの体に杖をかざして詠唱を始めるが
いつもは治療魔術をかけられると温かな光に包まれるが今のラルクの体には怖いほど冷たいまま体温は戻ってこない
「ラルク!?返事して下さい!!」
セレンは涙目になりながらラルクの手を取り訴える
唯一伝わってくる温かさはセレンの手の温もりだった
「メリッサ…多分これ……致命傷ってやつだ……」
この時ラルクは悟った、自分は死ぬのだと
「ラルク黙ってて!今治してるから…!!」
治療魔術を施すメリッサの大きな眼も潤んでいた
「フッ…じきに死ぬだろう。しばしの別れの時を楽しむがよい…ククッ……セルシウス、こちらへ来い。治療魔術を施してやろう!お前にはこの後ここにいる下民共を始末してもらうからな!」
命令されたセルシウスは息を乱して彼の髪と同じ焔色の血を流しながらフィルスの元に歩みよる
「さぁ…」
フィルスが魔導書を開いた瞬間セルシウスはそれを左手で払い飛ばす
払われた魔導書はラルク達のいる手前まで飛んでいく
「なっ…!セルシウス、何をす…ぐふぅっ…!?」
セルシウスはもう一方の右手でフィルスの太鼓腹へ剣を貫かせた
「貴サマ…裏切る……のか…?!」
フィルスは悶えて大量の血で玉座を汚しながら座るようにして玉座に倒れこんだ
「裏切る…?俺は始めから貴様の下についたつもりはない…俺は自分のかつての師を超えるためにこうしたのだ…!」
フィルスは既に息絶えたのか動かなくなっていた
「それを…邪魔する者は…ッ…許さ…ん…消え…ろ……ッ…小悪…党…!」
言い終えるとセルシウスも血を流す体を抑えながら膝から崩れた
「ラルク…ラルク!ねぇラルク…!!」
セレンの琥珀のような瞳から涙がラルクの頬に零れ落ちる
今のラルクにとってはその涙一滴でさえも温かく感じた
「…悪りぃセレン…約束……守れそうに……ねぇよ」
ラルクはかすみ始めた視界にセレンを映した
「やだ…!ラルク約束守ってよ…!!」
セレンはラルクの氷のように冷たくなってしまった手をさらにギュウっと握りしめた
「そうだよラルク!約束守れない男なんてサイテーだよ…!!」
「助からねぇよ……ッ…この傷じゃ…」
この時ラルクはなぜだかグレンの言葉を思い出していた
"剣をとる者は剣によって滅ぼされる"
ラルクは心の中で自らを嘲笑した
分かってはいたつもりだが、まさか父の言う通りになるとは…
「ラルク…僕は…僕は貴方がいなくなったら一体どうすればいいんですか…?!」
なんだシルヴィア、お前そんな表情も出来たんだな
「僕は貴方じゃないと…貴方じゃないとダメなんです…!」
今日は珍しく食い下がってくるなとラルクは思った
「やだ…死なないでよラルク……みんな一緒じゃないとやだよぉ…!!」
セレン、子供みたいに泣くなよ
そう思いながらラルクはゆっくりと眼を閉じ始める
眠りにつくより早く眠れそうだ…
「悪いな……みんな…」
「ラ…ルク…?ラルクーー!!?」
セレンはラルクに向かって叫び力なくうな垂れる
しばらくの沈黙を挟み
セレンはフラフラと立ち上がりフィルスの使用していた魔導書を手にとり
再びラルクの前に跪いて魔導書を開く
「セレン…何するの…?ラルクは…もう……」
メリッサは力ない声でセレンにこの悲しい現実を共有させようとする
「今ならまだ…間に合うかもしれない…」
セレンは微かに唇を開いて詠唱を始めた
「…?セレン、それはもしかして…」
シルヴィアはセレンの詠唱している様子で何かを感じ取った
「禁書……いけません、反動が…セレン、僕に代わって下さい!」
シルヴィアが詠唱を辞めさせようとするが
既に詠唱は完了し、ラルクの体を光が包んで傷が塞がり始めると
ラルクの青白くなってしまった顔にも血の気が戻り始める
しかし、禁書には術者に反動が返ってくる
術者であるセレンは反動に備えて体を縮こませて眼を瞑る
「…?これは…?!」
突然セレンの右腕に着けられているあの銀の腕輪が光を放ち始めた
「これは…腕輪が反動を抑えているのでしょうか…?」
シルヴィアが腕輪を思考を巡らせながら見つめていると
ラルクの口からクッと息が出て体がビクッと動いた
「っ…ハァッ…!」
ラルクが眼を開くとそこには泣きそうな顔で自分を見つめるセレンとメリッサ
そしてアルトとライカも気がついたようだ
「ラルク!?」
一斉にライカ、メリッサ、セレンがラルクに抱きつく
「俺……生きてるのか…?」
体には自らとセレン達の温もりが混ざり合っていた
シルヴィアとアルトを見ると2人とも心底安心したような表情をラルクに向けていた
「感動の復活に水を差して悪いが…俺との決着がまだ着いていないぞ…」
セルシウスは肩で息をしながら再び剣を構えた
「そうだったな。じゃあ続きといくか…!」
ラルクは立ち上がったが瀕死の状態から復活したせいもあり体はこれ以上動いてくれそうにもない
お互いに次の一撃が限界だろう
「これで、最後だ…!!」




