終章 ーUntil the...ー Part2
正面の顔を上へと向けないと頂上が見えない程の階段の上から聞き覚えのある太い声が聞こえる
「フィルス公…!!」
セレンが少しばかり怯えを混じらせたような声を上げて見上げると
ハゲ散らかした頭に私服を肥やしてきた太鼓腹、関節が分からないくらいの太い指には金で出来た髑髏の指輪
ラルク達の倒すべき相手フィルス公爵だった
「どーゆうこと?!」
メリッサが慌てながら辺りに視線を送る先から兵士が湧いて出る
「城内の移動魔術の転移地点を全てここに変えましたね…?」
シルヴィアが焔のような紅でフィルスを睨む
「ほぅ…小僧にしては察しがいいな。その通り、この禁書の力を使ってな!!」
フィルスは高笑いを始めて一冊の黒く古臭い本をラルク達に見せた
「ばかな…禁書の間へは大賢者の称号を持つ者のみしか入ることを許されないはず!?」
アルトが困惑を混じらせながら吼える
「それがどうしたというのだ?私はこの国の王となる者だ!従ってこの城は私の物なのだ!フハハハハハッ…!!」
「おい」
ラルクのひと声でフィルスの下品な高笑いは止まった
「セルシウスはどこだ?さっさと出せ、セルシウスと決着つけたら手前をシリウス達の前に引っ張り出してやるよ…」
ラルクはそう静かにフィルスを誰にも彼の意志を拒むことを出来ない程の殺気で睨んだ
「フンッ…!生意気な…おいお前達、そこにいる卑しい虫けら共をサッサと始末しろ!」
フィルスが背後の巨大な扉を開けて出て行くのを合図に周りに待機する兵士達が一斉にラルク達に迫ってくる
「けど、禁書なんてもん本当にあったんだな?」
ラルクが眼の前の敵を倒しながら言う
流石に最後の砦であるルシア城にいる兵士なだけあって兵としての練度は高いが
元々各軍の部隊の要であり、且つこの旅で幾つもの修羅場をくぐり抜けてきたラルク達にとって彼らはラルク達の敵ではなかった
「えぇ、禁書があれば強大な力を持つ魔術を知識がなくても詠唱さえすれば誰にでも使うことが出来ます」
シルヴィアは2階部分を衝撃波で破壊し下にいる兵士を瓦礫に巻き添えにする
「へぇ、意外と便利だなっ…!!」
ライカが敵を蹴りで吹き飛ばしながら言う
「ですが、美味い話しには必ず裏があります。禁書という物はそもそも禁忌を犯したもの、正しくない法則で生み出された魔術を集めた魔導書を指します。そんなものを使用してしまえば必ず大きな代償を伴います」
シルヴィアが一連の説明を終えると同時にもう敵が出てくる様子はなくなった
「そっか!紛い物の魔術なら知識なんかなくても使えるってことか!元々間違ってるんだし」
メリッサが手を打ちながら言う
「そういうことです。さぁ、お喋りはこの辺にして行きましょう」
フィルスの通った扉を開けると眼の前には庭園が広がっていた
豊かに湧き出る噴水や手入れされた芝があるにも関わらずそこに似つかわしくない兵士が居並んでいた
「なんか還って来たのに全然還って来た気がしません…」
中庭を切り抜けて廊下をセレンは俯きながら進む
「状況が状況ですからね…」
アルトがセレンの背中を優しく撫でる
セレンの言う通り、やっと帰ってきた自分の家がこんな殺伐としていたら安心感も得られないだろう
「それを今日セレンが安心してただいまって言えるようにするためにここまで来たんだろ?」
ラルクはそう言いながら目の前の巨大な扉を体重をかけて押す低い音と共に視界が開けていく
その先には高い天井から垂れるルシア王国の国旗の下にそびえる玉座に座るフィルス
そして、彼の隣に控えるのは
「来たか…」
闇を纏ったような漆黒の鎧に真紅のマントを身に纏う男セルシウスだった
「やっとお出ましか…!」
一度ラルクの心臓が大きく鼓動し
そこから段々と鼓動が大きく速くなっていく
「セレン、出番だ」
ラルクが促すとセレンはゆっくりとラルクの隣へと歩み出た
「フィルス公、今すぐにアークの市民を解放し、降伏しなさい!」
セレンの静かだがよく通る声は玉座の間の天井高くへと吹き抜けていく
「ククッ…断る。まぁ、お前が私の前で床に頭をすりつけて乞うというのなら考えてやるが…?」
フィルスはたるんだ顔に満面の侮辱の笑みを浮かべる
「貴様ぁっ…!!」
アルトがフィルスに向かって行こうとするがそれをセレンが制止する
「ではなぜ、セリエ女王の命を奪い、罪もない人々を戦いに巻き込んで謀反を起こしたのですか…答えなさい」
セレンの台詞には今までの彼女にはない威厳に満ちていた
「愚かな女王の娘、セレン王女に答えてやろう……私は人より強欲でな、富も欲しい、名声も欲しい、女も!力も!私の欲求を叶えるのに1番簡単だった手段、それが戦争だった。わかるかね?勝てば全てが手に入るのだ!しかし、そのためにはあの女王が邪魔だったのだ。確かに、セリエは民に慕われる良き王だった…しかし、それが何になるというのだ!?あの女は聡明であったが人を責めるということを知らぬが故に殺すのもたやすかったな」
フィルスは玉座な上で頬杖をつきながら退屈そうに語っていた
「それが真実なのですね…?ならば、私はもう迷いません…」
セレンは一歩前に進み出て真っ直ぐにフィルスを見据えた
「フィルス公、貴方をルシア女王殺害と謀反を起こし人心を惑わせた罪人として、私達は貴方を討ちます…!!」




