第14章 ーEach own Nightー Part2
さらに夜は更け
隣で眠るライカが寝息を立て始めてもラルクはその寝息に微睡みを誘われることはなかった
明日のことを考えていた
もしセルシウスと対峙して負けたら…この戦いが終わったら皆それぞれの居場所に還ってしまう…
様々な想像が頭の中を巡り、不安の想像も希望の想像もラルクを眠らせてはくれない
そこに木の扉を乾いた音でノックする者がいた
ラルクが扉を開けるとセレンが1人で立っていた
「どうした、眠れないか?」
ラルクが聞くとセレンは小さく頷いた
「ごめんなさい、こんな夜遅くに…」
食堂のイスに座るセレンにラルクは暖かい飲み物を差し出し、セレンは器を両手で受け取り小さく一口飲む
「ラルク…私、不安なんです…明日、もしフィルス公達と戦って説得出来るか……」
セレンは俯いて細い肩を落す
その時ラルクは彼女の肩がこんなにも小さかったのかと改めて気づいた
「大丈夫だろ、みんながついてるんだ」
「でも、不安で不安で…」
心が押しつぶすされてしまうような不安の中で必死に戦っている彼女の表情は晴れない
「セレン、右腕」
ラルクはセレンの右側に回り彼女の先程の飲み物の温もりが伝わった右手をとった
「あ、約束…」
セレンは彼女の右腕にはめられている銀の腕輪を見て思い出したようだ
「思い出したか?」
しかし、セレンはまだ笑顔を見せてくれない
「ラルク…ラルク達はこの戦いが終わったら、みんな私の前からいなくなってしまうんですか…?」
セレンは眉を下げたままラルクに質問する
「そうだな…一応契約が終わるからな…」
ラルクが答えるとセレンは勢いよく立ち上がる
「そんなのいやですっ…!私、ラルク達と出会って初めてお城の外に出られてすごく楽しかった…!また私はお城に戻ったら毎日部屋に籠って窓から外を眺めるだけなの?もっとみんなと一緒にいたいですっ…!!」
いつの間にかセレンの右手はラルクの手を左手も添えて握っていた
「……分かったよ、俺達はセレンが城に戻ってもずっと友達でいる。その腕輪の約束に加えといてくれ」
ラルクが笑顔を見せるとセレンもようやく頬をほころばせた
実はラルクもセレンと同じことを願っていた
それ以上のことは口に出さなくてもお互いに分かり合えているはずだ
「はい…!!私、たまに思うんです。ライカとメリッサは国が違うから難しくても、ラルクとシルヴィアがき…」
セレンがそこまで言いかけると扉の方で物音がした
ラルクが扉に近寄ってみると
「ちょっとライカ押さないでよ…!」
「押してないっての…!」
小声で何やら聞こえる
だだ漏れだが…
「おい、騒ぐとバレるぞ…!」
とりあえず扉を開けてみる
「うわっ!?」
「「キャッ!?」」
ライカとメリッサ、アルトが扉から雪崩れ込んできた
視線を上に上げるとシルヴィアと眼が合った
「お前ら何してんだ?シルヴィアまで…」
「あぁんもうっ…!!折角いい雰囲気だったのにっ!!」
メリッサはライカを小さな拳でポカポカ叩く
「みんなどうしたんですか?」
セレンが転がっている3人を助け起こす
「いやぁ、セレンとラルクがおもしろいことになってるって言うからさ…な?アルト!」
ライカは責めを逃れようとアルトに振る
「わ、私はメリッサがついてこいって言うから…!それはともかくラルク!!こんな夜中にセレン様と…!!」
「え…?なんで俺が?」
「アルト、妄想のし過ぎです。とは言ってもラルクもこういう年頃ですから…」
シルヴィアが呆れ顔を見せる
「いや、アルトの妄想も違うけどシルヴィアの言ってることも違うからな?」
しかし、シルヴィアにラルクの言っていることを信じている様子はない
「あ〜あ、もう少し待てばチューまで見れたのにぃー…」
メリッサは頬をプクゥっと膨らませる
「事の発端はお前かメリッサ?」
ラルクはメリッサの頬を両手で挟み膨らむ頬の空気を抜く
「フッ…フフフ…!アッハハハハハハッ…ッ!」
セレンがいきなり吹き出して笑い始めた
「どしたセレン?」
ライカが心配そうな顔で見る
「いえっ…フフフッ…!なんでも…フフッ…ただ、みんなと友達になれて良かったなって…ッ!」
セレンは腹の奥から沸き起こる笑い声を抑え込みながら答える
その様子にラルク達も頬を緩める
「セレン、眠れそうか?」
ラルクはセレンに聞くとセレンは満面の笑みを浮かべる
「はい!アルト、メリッサ、寝ましょう」
セレンは3人で手を繋いでアルトの部屋に戻っていった
その後にライカとシルヴィアも部屋に戻っていった
「明日は頼んだぞ、みんな…」
ラルクも心地よい気分で眠りについた




