第3章 ーLost to the Border whileー
それからラルク達は何日間かガルシア国境に向けて歩き続けた
そしてラルク達は王都から東に位置するクレイの森に差し掛かっていた
「親父、ガルシア国境にはあとどれくらいで着くんだ?」
「あと3日程だ、今日中に森を抜けて近くの街に寄るぞ」
グレンが辺りを警戒しながら応える
「ラルク、気をつけてください、ここは視界が悪いのでどこに敵がいるのか分かりませんからね」
シルヴィアに忠告されるが実際に砦から出てからまだ敵に出くわしていない
多分、城内のゴタゴタでこっちの捜索に人員を割いてもいられないのだろう
無用な争いが起きないに越した事はない
また人を殺さなくて済む
そう思えば心が軽い
だが、その期待も淡い期待だったと思い知らされた
近くの茂みが動き数人黒金の騎士が現れた
「セレン様を惑わす逆賊め!」
騎士は武器を持っている
戦わなくてはならないのか…
「敵襲だ!ラルク、セレン様を!!」
指示通りセレンを背にして後ろに下がらせる
グレンは剣を抜き斬りかかってくる1人の腹を一閃
2人目の喉を突き、騎士は血泡を吹いて倒れる
後の2人を目にも止まらぬ速さで斬り倒す
一方アルトは4人の敵に囲まれ目の前の2人を槍で突き
3人目の剣を受け止める
その時後の1人がアルトの背後に回り斬りかかろうとするが
シルヴィアの出した風の刃で身体中を裂かれる
その様相を見ていたラルクはまだ剣を抜けずにいた
手が震える
また人を斬るのが恐い
殺したくない
その思いとは裏腹に敵は容赦なく襲いかかってくる
目の前で剣を振りかぶる騎士の腹を思い切り蹴ると騎士は大きく仰け反る
「ラルク何をしている!剣を抜け!!」
アルトの声が飛んでくる
剣を抜きたいが抜けない、柄が何か見えない力で抑えつけられている様に思い
その時、またしても風の刃が騎士を裂く
敵がラルクの目の前からいなくなりやっと終わったと思った
しかし、そうはいかなかった
「動くな!動いたら殺す!」
騎士の声が森にこだます
腕の中には剣を喉元に向けられ命の危険の恐怖に晒された少女
セレンを人質にとられた
「セレン様!?ラルク何をしている!!」
アルトの怒声が飛んでくる
「殺されたくなかったら全員武器を捨てろ!」
「みんな武器を捨てるんだ…」
グレンが最初に応じる
「すまないセレン…」
ラルク達も武器を置いた
その時ラルクはシルヴィアの唇が微かに動いているのを見て何かを確信したように踏み込む
「貴様動くな!殺されたいのか?!」
騎士は動揺しラルクを止めようとするがラルクは止まらない
同時にシルヴィアの魔術が発動し衝撃波で騎士の剣を弾く
だが、予想外にも剣が地面に落ちる事はなく体勢を崩しただけだった
しかし、ラルクはその隙を見逃さずにセレンを庇うように騎士との間に身体を入れる
「ラルク!!」
セレンの悲鳴が聞こえる
彼女はラルクの肩越しにラルクの背中に振り下ろされる騎士の剣を見ていたのだ
ラルクが気づいた時には既に刃が背中を滑り
「ああぁぁぁっっ…!!」
今まで感じた事のない激痛が背中をはしる
次の瞬間にはラルクを斬った腕にシルヴィアのナイフが刺さり
剣がその手から落ちる
ラルクは激痛に歯が折れそうになるくらい噛み締めて耐え
剣を拾い騎士を最後の力で斬りつける
血しぶきと崩れゆく騎士を見届けると意識が段々と遠退いてきた
視界が闇に覆われラルクは血だまりの中に倒れた
気づくとラルクはベッドの上に寝ていた
「よかったぁ…目が覚めましたね」
セレンは安心したようにラルクの顔を覗き込む
「ここは…?…イテテッ…」
体を起こそうとすると背中に激痛が走る
「エルクという街です」
痛みを我慢しながら振り向くとシルヴィアが壁にもたれている
恐らく自分が倒れている間に運ばれてきたのだろう
「この街から南に行けばガルシア国境です」
そう言うとシルヴィアはラルクに近寄った
「ところでラルク、体は大丈夫ですか?すみません…僕があそこで敵の動きを封じていたら…」
「いいんだよ、結局セレンを守れたんだし…」
身を割いて守ったのだ、そしてまた人を殺した
と考えていると平手打ちが飛んできた
「ぷざけるな!一歩間違えていたらお前は死んでいたんだぞ!もう少し考えて行動しろ!!」
アルトに叱られた
確かにあれは自分の招いた結果だ
「すみません…私が捕まったばかりに…でもあんなムチャしないで下さい!」
セレンにも叱られてしまった
するとそこにグレンが部屋に入ってきた
「気がついたようだな…全員いるから今後の事を話そう、これから俺1人で先にガルシア入りしようと思う」
「なぜですか?今はまとまって動いた方が安全なのでは?」
アルトが聞く
「今のこの状況だと皆疲れている上に怪我人もいる、この状態で追手に襲われたら危険だ、だから先に俺がガルシア入りして手筈を整えておいた方がいいだろう」
「…わかりました、急いで後を追います」
するとグレンは首を横に振った
「いや、そこまで急がなくていい、お前達はエルクで情報収集をして後で報告してくれ」
「わかりました、ではお気をつけて…」
シルヴィアは部屋を出て行くグレンを見送った
「すまないみんな…俺のせいで…」
ラルクは責任を感じ頭を下げる
「ラルク、何もお前だけのせいじゃない、みんなも疲れているし今日は情報収集の後にゆっくり休みましょう…」
アルトは優しくラルクの肩を撫で諭す
「あぁ…」
落ち込んでいるのはそれだけでない
また…人を殺してしまった…
自分を斬られた怒りに駆られて
「ラルク、背中の傷は大丈夫ですか?」
セレンがベッドのラルクの隣に腰を下ろす
「結構深く入ったな…」
ラルクは苦笑いを浮かべる
「脱いでください」
一瞬耳を疑った
「?何をだ…?」
「服ですよ、早く脱いでください!」
ギョッとするラルク
「いや、そこまで悪くは…」
やはり年頃の女の子の前で服を脱ぐというのはかなり気が引ける
「つべこべ言わずに早く脱げ!」
「ちょっ…!おい!イタッ!そこ触んなって…!?」
アルトとシルヴィアに無理矢理服を脱がされる
「痛そう…」
背中の傷の深さにセレンは表情を曇らせる
「アルト、杖を…」
セレンに言われアルトは杖を差し出した
セレンは杖をラルクの背中の傷にかざし詠唱する
すると杖の頭にある青い水晶の様な物が光を放ち
徐々に痛みが引き傷がふさがって行く
「もう大丈夫だ、ありがとうセレン」
背中越しにセレンに言う
「セレンは治療魔術が使えるんですか?」
「えぇ、お城にいた時にエルシアに教わりました」
セレンはラルクの役に立てた事を喜び笑顔で答える
「さて、ラルクの手当ても済みましたし、情報収集に出ましょう」