第12章 ーDeath Mountainー
その夜
ガルシアとルシア連合軍に合流したラルク達と黒獅子を率いるゲルダは軍議に呼ばれ天幕に集まった
皆、昼間のあの惨劇がなかったかのような顔をしている
それも当然だろう。一々戦いに心を奪われていたらこの先戦っていけない
シルヴィアにそんなことを言われてしまいそうだ
「先程の戦いでさらに後退した謀反軍は現在、北西にあるノモス山に向かったと報告が入っている」
シリウスが報告書を読み上げながら地図上のイデア平原北西に位置するノモス山を指差す
「やはり、彼らの最終目的地は王都アークなのだろうか?だとしたら、なんとしても食い止めなければ…」
グレイドが眉間にシワを寄せる
「おそらくは…謀反で始めに占拠した場所がアークの王宮ですからそこで態勢を立て直したいのでしょう。だとしたら、厄介ですね」
シルヴィアはノモス山からアークへの道筋を指でなぞる
「そういやそのノモス山ってぇのはこの前土砂崩れ起こしてなかったか?」
ゲルダが地図を覗きながら記憶を引っ張り出す
「えぇ、ニンフまでの近道だということで王都を経由したエルクの行商隊が通ったところに…」
クラウディアが補足する
「確かノモス山はイデア平原側からアーク側にかけて年間を通して降水量が多いとか…」
アルトもそれに付け加える
「じゃあさ、謀反軍はなんでそんな危ない道選んだの?」
メリッサが首を傾げる。たしかに正論だ。
「僕達の追撃を避ける手段としてなのか、それとも指揮官の頭が悪いのか、といったところですね」
シルヴィアが鼻で笑う
「フィルス公ならそういう選択をし兼ねんな…」
グレイドがボソっと呟いた
「フィルスって…レギオンが襲撃された時セルシウスとスカーレットの後ろにいたあいつか?」
ラルクの頭にぼんやりハゲ散らかした頭と太鼓腹が思い浮かんだ
「そうだな、彼は目的のためなら手段を選ばず、多少周囲に対して強引なところがあるからな…」
グレイドがそうフィルスを語る
「ノモス山を迂回して行けばいいものを、とんだ愚策ですね」
シルヴィアがまた呆れたように鼻で笑う
「じゃあさ、謀反軍の指揮はそのフィルスってのが執ってるってことでいいわけ?」
ライカが頭の後ろで手を組みながら聞く
「まともな指揮官ならこんな危ない道を行軍なんてしないだろう。たしかにフィルス公がどこまで指揮に関与しているのかは分からないが…」
アルトが地図の行程を確認しながら言う
「なら、次の俺達の進路はノモス山で決まりか?」
オルドネスが話しをまとめにかかる
「あまり得策ではありませんが、距離を離されないためにもそうせざるを得ないでしょう」
シルヴィアが説明するとオルドネスは無言でなんとも威厳のある頷き方をした
「では、こういうのは…」
シルヴィアが提案すると少年の指先に全員の視線が集まった
翌朝早くにラルク達は陣営を出発し
イデア平原を西に迂回し謀反軍を追うためノモス山へと入山していった
「なぁセレン、俺達についてきてよかったのか?」
先頭を歩くラルクが後方で息を切らすセレンを振り返る
「ハァッ…だっ…いじょうぶ……ッ…ハァ…ですっ…」
顔を薄く紅に染め苦しそうに喋るセレン
「クラウディアや…ッ…お父様がこっちの方が…いいと」
続けて話そうとするが今にでも酸欠になりそうだ
「三手に別れてそれぞれ南、東、西の経路の中でここが一番細くて敵に遭遇しない道ですからね」
シルヴィアの提案によると
土砂崩れの多いノモス山では戦力をひとつにまとめてしまうと
土砂崩れにあったときに被害が大きくなってしまうのを防ぐのと
別々の経路から進行し謀反軍を挟撃する狙いがあるようだ
「俺らはそれでいいかもしんないけどさ、他の二つの部隊はそれでうまい事追いついて挟撃できるわけ?」
ライカが軽快に斜面を駆け上がりラルクの後ろについているシルヴィアに並ぶ
「恐らく、昨日の敗走の速度からするとフィルス公は僕達のように部隊を分けずに入山したと考えられます。そうなると進軍速度が遅いので追いつける可能性は十分にあります」
ふーん、とライカは納得し後方を歩くメリッサのところまで降りて行く
「でもこの道ちょっとキツ過ぎない?ライカぁおんぶー」
メリッサはライカの腕を引っ張りおんぶをせがむ
「えぇ?!メリッサおぶると上で寝てさらに重くなるからヤダ!」
それを聞いたメリッサが声にならない悲鳴をあげる
「しょうがない、確かにこの山道は急だからどんどん高度が上がっていって険しいな…ラルク!ちょっと休憩にしないか?」
見兼ねたアルトが先方にいるライカに声をかける
「だってよシルヴィア、どうする?」
「団長はラルクですよ、どうしますか?団長?」
逆にシルヴィアに聞き返されてしまった
「よし、じゃあ休憩にするか」




