外伝 ーSolitude of Invisibleー Part3
そして、その日の夜
またラルクは昨晩と同じような時間に眼が覚めてしまった
いけない、今夜こそは無理矢理にでも寝なくては
しかし、そう思えば思う程眠るのが苦しくなっていく
今晩も眠る前に皆と談笑していた
それを思い出すとまた何故だか胸が重苦しくなる
なんだろう落ち着かない
こういうのは決まって独りでいる時に起こるんだ
また、ラルクは寝台から立ち上がった
そして、誰も起こさぬように宿を後にした
外に出て空を見上げると今夜は月は紺色の雲にその身を隠しているようだ
だが、ここはガルシアの王都なだけあって路地には魔導灯が弱い光を放っている
「ラルク、どうかしたのか?」
「親父、実はさ………」
そんな会話を頭の中で回想していた
少し前まではそれが当たり前の光景だった
父のグレンに話したい時に話しができた
だが、今は朝起きて部屋を見渡しても
食事の円卓の席を見渡しても
剣の訓練をしていても
彼のいるはず、いて当たり前だった景色に彼の姿はない
グレンが死んで数日間はどこかしらに彼がいるように錯覚して振舞ってしまった
父には触れることもその声を耳にする事も今は出来ない
改めて思い知らされる
父が死んだのだと…
そんな終わりない思考の中に心を沈めている内にラルクは
レギオン王城の裏手の丘の両親の墓前に来ていた
「ここはいつも静かだな……」
ここに来るといつも思う
ここはまるで別天地だ
ここには人の悪意も喧騒も血の臭いも鉄臭さもない
それらの負の事柄から離れるひと時を許してくれる場所だ
「俺、独りになっちまったな…」
なんでだ?なんで俺こんな事思ってんだ…?
独りなわけねぇだろ?だって俺には仲間がいるんだ…!
「親父…なんで死んだんだよ!」
ラルクは父の形見が刺さる剣の台座に向かって絞り出すように声を出す
でも…なんなんだよこの独りになった時の感じは…!
「母さん…せめて顔ぐらい覚えさせてくれてもよかっただろ…?」
浅い呼吸で母の墓碑に刻まれた母の名に囁く
「俺……独りに…独りになっちゃったじゃねぇかよぉぉっ…!!」
今まで抑えてきた感情が溢れ出し辺りに声が響き渡るくらいの叫び声をあげる
この時にようやく分かった
自分のこの独りの時に感じる感情は
「寂しいんだよ……」
やっとこの時自分の言葉に出来ない感情が言葉になった
膝をついて両親の墓を見上げた
2人の墓標が彼等が生きていた事を証明している筈なのに
両親には今触れたくても触れられない
また昨夜のように生暖かい夜風がラルクの頬を弄んで過ぎ去った時
「ラルクは独りじゃないですよ」
風に乗って声がラルクの耳に届いた
親父の?いや、それにしては細い…
じゃあ母さん?低過ぎるな…
今のは幻聴だと自分を納得させながらそろそろ帰ろうと振り返る




