外伝 ーSolitude of Invisibleー Part1
「アッハハハ…ッ!!アルトそれホントかよ?!」
白銀の月明かりにほだされある街の静かな夜を過ごすラルク達は
ライカが宿の部屋の椅子の上で腹を抱えて大声で笑う
「えぇ本当よ、流石の私も笑いを堪えるのに必死だったわ」
対象的にアルトは済ました顔で壁に寄り掛かっている
「人の頬思いっきり引っ叩いといてよく言うよな…」
少し顔を紅くしながらラルクは左の頬に手を当てる
「確かにあの時のラルクの間の抜けた表情は笑われても仕方ありませんね」
シルヴィアはため息をつきながら馬鹿馬鹿しいとでも言わんばかりの表情を見せる
「覗かれた私の身にもなって下さいよぅ~…」
セレンも顔を紅くしながら身をよじる
「ラルク良かったじゃ~ん!」
メリッサがラルクを肘で小突く
「誤解を生むからやめろ…」
そう言いながらラルクはメリッサの肘を押し返す
「ほら、みんなそろそろ寝んぞ?最近ダラダラ次の目的地に行ってばかりだから次くらいはちょっと予定より早めに行こうぜ?」
ラルクがこの下らなくも幸せなひと時に終止符を打った
「そうね、最近こうしておしゃべりで夜更かししてしまいがちだものね」
アルトが1番最初に自分の寝台に腰掛ける
「まぁ、たまには早く寝んのも悪くねぇかな」
「えぇー?もうちょっといいじゃん!」
メリッサが寝台に向かおうとするシルヴィアの腕を引っ張る
「寝起きの悪い人を起こすこちらの身にもなって下さい」
シルヴィアがメリッサの腕を寝台まで引っ張って行く
「ラルクおやすみなさい」
セレンもラルクに小さく頭を下げて寝台に横になる
「ったく…寝る寸前まで騒がしいのな…」
ラルクは最後に魔導灯の明かりを消して寝台に入った
そして、この世界には音という物がないのかと錯覚してしまう程夜が更けた頃
ラルクの意識はぼんやりと微睡みから引き戻されていた
「ん…」
ラルクは何気なく上体を起こし部屋を見渡す
窓から差す優しい月明かり
だが、それがラルクの胸に何か重苦しいものを手渡しているように感じた
「…………」
何か落ち着かない
ジッとしているのが少し怖い
ラルクはその胸の重苦しさに耐えられなくなり寝台から立ち上がり頭の重さを感じながら部屋の扉へと向かう
「ラルク」
背中の方で細いが低い声がした
「わり、起こしたか…?」
「いえ、大丈夫です。……考え事ですか?」
シルヴィアは寝台に横になったままラルクに向かってつぶやいた
「ん?さっきの思い出し笑いが止めらんねぇだけだよ…ほら、ちゃんと寝ねぇと背ぇ伸びねぇぞ?」
ラルクはシルヴィアの寝台の毛布を彼に掛け直して部屋を出て行った
シルヴィアの言っている事は案外間違ってもいなかったと
宿の暗い廊下を歩きながらラルクは思った
鋭過ぎるってのも考えものだぜ…?
ラルクは宿の従業員を起こさないように外への扉を開ける
街はこの世界に自分独り取り残されたような静けさだ
珍しく酔いつぶれた中年男もその辺には倒れていないようだ
この街はガルシア王国の中でも治安がいい方なのだろうか
特に行くべき場所もなく歩き始めたラルクの頭の中には
先程の仲間との談笑が映っていた
だが、楽しい事を回想している割には
気分は全く逆の方に向かっているような気がした
明かりのない月光だけが頼りのラルクの来た路地を振り返ると
あの楽しい談笑のひと時が遠い過去…
いや、幻想のように感じてしまう
頭の中に響く仲間達の笑い声もなんの面白味もない石畳を靴底が叩く
たったそんな小さな音にあのうるさいくらいの笑い声が掻き消されてしまうような気がした
終わる事のない無機質な石畳と明かりのない建物達
単調に同じ律動を保ちながら響く足音
目覚めの時ではない時に覚醒させられた頭の重み
どれもラルクの心を深く底の見えない深淵へとゆっくり落としていく




