外伝 ーLover or Friendー Part4
しばらくして、ラルクは給仕の者に頼んで水をもらい再びセレンの寝室に戻ってきた
「ん?セレン眼ぇ覚めたのか?ほら、水飲んどけよ」
一旦寝てしまったから酔いが覚め水は必要無くなったかと思いながら
ラルクは寝台の上で上半身を起こすセレンに水を差し出す
「ほえ?ラルクぅ~これおさけぇ?」
セレンは虚ろな眼でグラスに入った水を見つめてから手にとった
おい…さっきより酒まわってきてねぇか?
「そうだ、セレンさっき飲みたいって言ってたからもらって来たんだよ」
と、ラルクも上手くセレンに付き合いながら嘘をつく
「ありがとラルク~アルトにはないしょですよぉ~」
「あぁ内緒な、だから早く飲んじまいな」
セレンは真赤な顔に満面の笑みを浮かべながら水を小さく一口飲む
「ラルク~おさけってぇあんがいあじしないんですねぇ~」
こんな会話が成立するかしないかの状態になっても味ぐらいは分かるようだ
「酒って意外とそんなもんだよ…」
なに?このグデングデンの件いつまで続くの?
「そうなんだ~っていうかラルクおさけのんだことあるんだぁ~?アルトにいっちゃお~」
「ハハっ…セレンやめてくれよ~…」
ラルクは乾いた笑い声でセレンに調子を合わせる
…めんどくせぇー!この娘酒入るとスゲぇめんどくせぇよ!!
そんなこんなしている内にセレンが水を飲み終えた
セレンからグラスを受け取り近くの机に置く
ラルクは寝台のセレンの横に腰掛け息をつく
おい、やべぇよ…部屋出る機会完全に逃したよ
なんかセレン俺の方見ながら満面の笑みだし…
そんな事を思いながら静寂とも緊張ともつかぬ妙な空気が
魔導灯だけの薄暗い部屋に漂う
「ラルク~…」
「ん?」
セレンに呼ばれて背中側にいる彼女の方を振り返ると
「えいっ!」
「のわっ!」
セレンはいきなりラルクに抱きつきそのまま2人は寝台に倒れる形となった
「いきなりどうした…?」
「えへへ…なんでもなぁい」
お互いの顔が鼻があと少しで触れ合うくらいに近づく状態になった
薄暗い部屋のせいか視覚より嗅覚や触覚が敏感になり
セレンから漂う甘い柑橘類の香りや
ラルクの腕に触れているセレンの細い指も今はむず痒く感じられる
「ねぇラルク?こういうのドキドキしますかぁ?」
セレンは湿った桃色の唇でそうラルクに囁いた
セレンの吐息が頬を優しく撫で
それが引金となりラルクの心臓は大きく脈を打ち始める
「な、なに言ってんだよ…ほら、俺もう行くぞ…」
ラルクはいけないと思い起き上がろうとすると
セレンに服の袖を優しく引っ張られる
「ダ~メ…フフフッ…ラルクおかおがまっかぁ…ラルクかわいいですねぇ……」
セレンはトロンとした瞳でラルクを見つめる
「セレン、いい加減に…」
やめろって…そういうの反則だぞ…
ラルクはもう一度起き上がろうと試してみたが
やはりセレンから抜け出せないようだ
「ラルクは~わたしのこときらいですかぁ…?」
セレンは上目遣いでラルクを見つめる
「いや……その…嫌いじゃ……ねぇぞ?」
言葉を詰まらせながら答える
どうやらこの甘い雰囲気にラルクの頭もボーっとしてきたようだ
「じゃあ~あ…わたしのことすきですかぁ…?」
セレンが再び甘い口調で問いかける
そういやこの前みんなで男女の友情はあるか?って話ししたっけ………
あれ…?俺どっち側だったっけ…?
えっと……よく覚えてねぇわ……よく考えると男女の友情って本当は……
そして、ラルクがセレンの問いに対し口を開こうとした瞬間………
「……俺は……」
「ラルク…私たち…ずっと…みんなでいっしょに……いましょうね………やくそく…ですよ……」
セレンは静かに眼を閉じ
消えてしまいそうな声でうわごとのように寝息を立て始めた
「……そうだな……みんな一緒にな……」
ラルクはそんなセレンが愛おしく感じられ艶やかな黒の頭を優しく撫で
静かにセレンの頭の下に自分の腕を入れ
息を大きくつきラルクもゆっくりと眼を閉じた
「セレン様、もうおやすみになられてますか…?」
アルトが2回扉をノックし静かにセレンの部屋の扉を開けると
「あら?」
アルトが視線を送った寝台の上には
2人で仲良く寄り添って静かな寝息を立てている
眠り姫と彼女を護る傭兵の姿があった
「フフ…本当に仲がいいのね……」
アルトは2人を起こさないように寝台の横の魔導灯の明かりを消し
2人の夜の闇のような黒髪とそれを照らす星のような銀髪を撫でて扉へと向かう
「おやすみなさい…ふたりとも……」
アルトはそう戸口から2人に囁き扉を静かに閉めた




