第10章 ーthe Raven Wing which Falls to the Graveー
「何驚いてんだよメリッサ、船が空飛んでるわけでもあるまいし……っておい!まじかっ!?」
ライカも直ぐに窓に張り付き外の様子を見ると
確かに外の景色が人工的な建物ではなく
空の様な揺らめいている碧一色に染まっていた
「黒獅子達が乗り込んだんだろう?きっと…」
アルトがそう推測し皆を落ち着かせようとする
「……とりあえず予定通り舵のある部屋へ向かいましょう」
シルヴィアもこの状況に少なからず嫌な予感を感じているのだろう
船内の階層を1番下まで降りてゆきラルク達は船の方向を司る部屋の扉の前まできた
「開けるぞ…」
ラルクは皆に注意を促し扉を蹴って開け
姿勢を低く剣を構えながら中へなだれ込んでいく
すると部屋の奥には羅針盤のような物に光を放つ手をかざしている男がいた
「てめぇかよ……」
ライカは長身のすらっとした長髪の黒髪の男にそう呼びかけた
「僕の船へようこそ……信託の剣諸君……」
振り返ると男の端正な顔立ちが露わになる
「ずいぶんとデカイ船持ってんのな。豪華客船の旅にでも連れてってくれんの?」
「だったら一度仮面舞踏会やってみたいわ」
アルトがラルクの冗談に乗ってみる
「それでは美しい貴女のために今宵血染めのドレスをご用意いたしましょう…!」
ハーロットはラルク達にお辞儀をし四肢を輝かせ始める
「来るぞ!」
ラルク達は二手に分かれてハーロットの突進をかわす
「ずいぶんと唐突な余興ですね」
シルヴィアはハーロットに向けて風の渦を放つが
ハーロットはそれを一瞬で障壁を出現させて相殺する
「余興ではなく君達にはここで死んでもらうよ」
ハーロットは焔の弾をラルク達に打ち返す
「なぜ…何故こんな事をするんですか?!ガルシア王やゲルダさん達は必死でこの国を守ろうとしているのに…!」
セレンは胸の前で両手を握り締めハーロットに向かって叫ぶ
「美しい姫君のためにお応えしよう…僕は気に入らないんだよ、ガルシア王やそれに仕える者達がね…!!」
ハーロットはラルクに突進し跳びながらラルクの顔目がけて膝を出す
「あの王達が掲げる正義っていうやつがねっ!!」
ラルクは飛んでくるハーロットの膝を剣で受け流して
背面側に回転しながら剣を出す
「その正義が分からんねぇお前は相当根性ひん曲がってんなっ!」
ラルクの剣がハーロットの頬を掠め肌を切り裂き血が流れる
「強い人が弱い人を守ることの何が気に食わないの?!」
メリッサもハーロットに反論する
「弱い者は強い者に飲まれていく…それもこの国の真実じゃないのかな?お嬢さんっ!」
「ガルシア王の掲げる正義はそんな偽善でない事を知っているから私達は共に戦っているんだ!!」
ラルクの攻撃をかわすハーロットの足をアルトは槍で払うと
ハーロットはよけきれずに足から血を流してよろめく
「だったらあの愚かな王達に一体何が出来たって言うんだい?せいぜい下らない正義を振りかざして戦いを起こすだけだ。しかもそれこそが正義だなんて言い張るんだから笑えるね!」
ハーロットは両手から衝撃波を放ちラルクとアルトをはじき飛ばす
「お前のやってる事もそう変わんねぇよ!!」
ライカが跳びながら蹴りを出すがハーロットはそれを身を屈めて凌ぎ
体を捻ってそのままバク転を連続させて距離をとったが
先程のアルトの攻撃が脚にきたのかバランスを崩した
そこにシルヴィアは見逃さずにナイフを投げ込み
ハーロットはそれを避けれずに体にナイフが刺さり口から血が吹き出す
「…ッフフフ……君達は何も分かってないね……ッ…残念だけどもう君達と話している時間も話す事もないよ……」
ハーロットは寂しげに言いながら右手を床についた
「話しはまだ終わってねぇよっ!!」
ラルクが剣を構えて踏み込もうとすると
「ラルクだめです!」
シルヴィアがラルクに制止をかけた瞬間ハーロットの両手から光が放たれ
両側の壁に大きな穴が空き轟音と共に水が大量に流れ込んでくる
「ハーロットどういうつもり?!」
メリッサは凄まじい轟音の中でハーロットに向かって叫ぶ
「言っただろう……君達にはここで死んでもらう…ってね…!」
ハーロットはそう言いながらまた血を吐いた
「私達もろとも船を沈める気か!?」
アルトはハーロットを睨む
「ご名答…いや、無論…かな…?」
ハーロットは血を流す唇に笑みを浮かべた
皮肉なのかそんな姿でも彼の姿は端正に映ってしまう
「らしくねぇやり方じゃねぇか…?」
ライカはハーロットに静かなよく通る声で言った
もう膝の辺りまで水位は達していた
「惜しいけど君達の姫様がいなくなればこの戦いは終わるんだよ……」
ハーロットの台詞にセレンは俯いてまた胸の前で両手を握り締めた瞬間
部屋の天井が崩れ落ちその残骸と穴から流れこむ大量の水はハーロットを飲み込んでいった
「おいアルト?!」
ラルクが振り返ると
アルトはハーロットの位置の天井に向かって魔導書を開きながら手をかざしていた
「ふざけるな…!先に戦いを始めたのはお前達の方だ、お前達はどれだけの罪のない人達を傷つけて来たと思っている…!!」
アルトは肩を震わせながらそう言った
「アルト、行くぞ…このままだと俺達まで沈没船の一部になっちまう」
憤るアルトの肩をラルクがなだめる
ハーロットの言葉にも一片程の事実が含まれているだけにアルトもこんなに憤っているのだろう




