第10章 ーa Scar of Guiltー
「アルト、セレンどうした?」
扉を開けるとアルトとセレンが横並びに立っていた
「二回目でやっと起きたか…」
アルトが呆れた顔で言う様子からすると
どうやら彼女らは一度起こしに来ていてくれていたようだ
「ラルクは意外とお寝坊さんですねぇ」
セレンがラルクの頭の寝癖を見ながら口元を抑えてクスクス笑う
「あぁ、あれだ…昨日寝るの遅かったしな……」
ラルクは苦笑いしながら適当に返事をする
昨夜マントの男に会った事は一応黙っておこう
「あら?ラルクもしかして夜遊びでもしてたんじゃないかしらぁ?」
アルトがからかうようにラルクの顔を覗き込む
「アルト、夜遊びって…?」
セレンがアルトに質問しようとしするが
「健全な16歳は鍛錬に励んでただけですよ……で、何か用事があって来たんだろ?」
「はい、これからシリウス達が次の戦いの準備をしている間、この街の復興をお手伝いしようと思ってラルクも誘いに来たんです」
昨日の戦いで城下町はある程度の損壊を受けて犠牲者まで出してしまった
せめともの贖いとしてラルクも参加するつもりだ
「他の連中は?」
「シルヴィアは軍議に参加している、ライカとメリッサは先に行ってるわ」
「そうか、んじゃ俺もすぐに行くから先に行っててくれ」
ラルクは2人を先に向かわせ準備にとりかかった
あの2人の様子を見ていると案外立ち直れているように感じた
少し安心しながらラルクは準備を終えて2人の後を追って行った
城下町へ降りて行きしばらく街を見て廻っているとどこからか男の怒鳴り声が聞こえてきた
怒声が聞こえてきた路地へ入って行くと
頭を下げるセレンとアルトとそれを怒鳴りつける男の姿があった
ラルクが事情を聞こうと近づいていくと男は去って行き
2人は怒鳴りつけていた男が見えなくなるまで頭を下げ続けていた
「何かあったのか…?」
ラルクの声に気がつき2人は振り返った
「あ、ラルク。実は昨日の事を謝って廻っていたんです……」
そう言うセレンの茶色の瞳は潤んでいた
確かに凄い勢いで怒鳴られていた
「ん?謝るって一体何を?」
まだセレンより大丈夫そうなアルトに聞く
「セレン様が昨日の戦いは自分のせいだと責任を感じらて……」
アルトは隣のセレンの表情を気にしながら言う
「皆さん色々な反応をされていました…先程みたいに怒る方や泣かれる方…でも私が起こしてしまった事だから……」
セレンは俯きながら涙声になっていく
「セレン…もうおわった事だ。今さら言っても言い訳にしか聞こえなくなっちまう。だから俺達ができる事をしねぇと…な?」
上手い言葉が見つからずに今はそれしか言えない
街の者たちの反応もごく自然だ
たったの一瞬で家族や友人、恋人、その他の多くの大切なものが理不尽に奪われていったのだから
ラルクは俯くセレンの頭に手を置きセレンは小さく頷いた
しかし、街を廻っているとたった一日でもだいぶ復興が進んでいるようだ
手放しでは喜べないがガルシア軍のおかげで被害が最小限に抑えられたのだ
「あ、エルシア!」
突然セレンは遠くにいるエルシアに気づき手を振りながら駆け寄って彼女に抱きついた
「軍議はどうしたんだ?」
「ラルク失礼だぞ!」
友達のようにエルシアに話しかけるラルクをアルトが叱る
「アルト、構いませんよ。軍議の途中でしたが、シリウスとクラウディアにワガママを言って連れ出してもらいました」
エルシアはセレンの頭を撫でながら話す
「で、その宰相様にデレデレな将軍様達は?」
ラルクが辺りを見回すが姿はない
「つい先程、ガルシアの方々に軍議を任せっきりでは悪いと戻っていきましたよ」
「美人宰相様は意外と適当な…まぁ、それも有能な部下がいてこそか」
ラルクがそう言うがエルシアは悪びれる様子もなく笑顔を浮かべている
「じゃあエルシア、私達はお手伝いに戻りますね」
セレンはエルシアから離れると満足そうにアルトと共に復興の手伝いに戻っていった
「ラルク、貴方は行かないんですか?」
独り取り残されたラルクに声をかける
「あぁ、アンタに昨日の礼を言おうと思って…」
ラルクはエルシアに向き直るが彼女は淡い金糸のような髪をなびかせながら首を横に振る
「お礼を言うのはむしろ私の方です。セレン様を守ってくれて本当にありがとう…」
逆に頭をエルシアに下げられバツが悪くなってしまった
「いや、でも…結局はセリエ女王を救えなかった……すまない…」
ラルクがそう口にするとエルシアはラルクにスーっと近寄り
細くて滑らかな人差し指を優しくラルクの唇に当てた
「言わないで…その責めは私達が負うべきよ、それに……」
エルシアはラルクの肩越しの方向に視線を向ける
彼女の視線を追って行くと
黒い服装の人達が棺を囲んでいるのが見えた
囲む者の中には涙を流す者や呆然とする者、黙って俯いて悲しみに耐える者
皆それぞれの形で犠牲になった者に対しての悲しみを感じている
「今一番悲しいのは私達だけじゃありません…今はあの方達の悼みに寄り添ってあげなければなりません……」
エルシアは静かに祈るようにそう言った
「ただ、私達臣下やグレイド様はこうなる事を覚悟するようにとセリエ様から言われていましたがセレン様にら荷が重すぎるようですね…あんなに気丈に振舞われて……」
エルシアには立ち直ったように見えた彼女の姿もまだ大きな傷みを抱えているように見えるようだ
「だったら、一日でも早く俺達の国を取り戻せばいい。また誰かが傷つく前にな」
今、本当にラルク達にできるのはそれぐらいかもしれない
結果的に戦いで相手を滅ぼし手を汚した先に掴み取る平和だが
今のラルク達にはそれしかできない
「そう心から言える貴方は騎士に向いているのかもしれませんね」
エルシアがラルクに優しく微笑む
「それ、勧誘か?」
「かもしれませんね…」
エルシアはクスッと笑いながら復興作業に向かうラルクの背中を見送った




