外伝 ーthe Applicantー
最近、私は海外に傭兵として従軍していた方のお話しを偶然ネット上で見つけました。
今、私の書いているお話しは傭兵の少年の物語です。
非常に参考になったのと同時に、私の書き方ひとつで傭兵や戦争に対して多くの方に対して誤解を生んでしまうと気づきました。
私は演出上、ラルク達が敵と対峙する場面をカッコよく書きたてていますが、
現実の戦場はそんな憧れを持てる物ではないそうです。
少々マジメなお話しになってしまい申し訳ありませんでした。
それでは、今回は華も色気もないお話しですが、
読者様達に何かを感じて頂ければ幸いです。
「覚悟して下さい…」
セレンがラルクとライカに押さえつけられた男に歩み寄る
「わ、悪かった…!た、頼む!命だけは助けてくれ!!」
押さえつけられた男は命を奪われる恐怖に震えながら首を大きく横に振る
「残念ですが見逃すわけにはいきません…」
セレンは緊張に湿る手を振りかぶってひと呼吸止め
そこから勢いよく振り下ろす
「えいっ!!」
ゴンッ!という鈍い音が響き男の頭は一瞬震え男は気絶した
「セレンお手柄だねっ!」
メリッサがセレンに手を出して見せ息ピッタリのハイタッチをする
「最後は私が全部美味しい所持って行っちゃいましたけどね…」
セレンは男を殴った杖の破損がないかを確かめながら苦笑いを浮かべる
「いんじゃねぇか?俺達がコイツ捕まえたとこで報酬貰えるわけじゃねぇしな」
とラルクが言った事の次第を説明すると
先程ラルク達が街を歩いていた所にひったくりに遭遇し
追跡中の作戦会議の末、確保の後セレンに治療魔術用の杖でトドメを刺し
今に至る、というわけだ
「どうするよ?ガルシア軍の駐屯兵に引き渡す?コイツ」
ライカはセレンに杖で殴られピクピク痙攣するひったくり犯の男を見下ろす
「でも、最近ここにいた駐屯兵の人達引き上げちゃったんじゃなかったっけ?」
「という事はこの男の身柄を預ける場所が無いって事かしら?」
アルトが男を抱え上げようとしたが途中でやめて下ろした
「じゃあ盗まれた荷物を持ち主に返して、この男は放っておきましょう。じきに気がつくでしょうし…」
シルヴィアに結論づけられラルク達は今日の宿に向けて踵を返す
「すっげぇ…!!」
聞き慣れない声が聞こえてきてラルク達は辺りを見回す
「何アイツ?」
ライカが変な物を見たような顔つきで指差す先には
色白で手足が細くいかにもひ弱を体現したような男が路地から現れた
「アンタ達傭兵か何かか?」
あまりにも男が唐突にラルク達の前に現れて聞いてきたため
ラルク達もすぐに返事が出なかった
「お前誰…?」
とりあえずそのひ弱な男に向かってラルクが聞いてみた
「俺?俺はファロル、傭兵目指しているんだ!」
確かにひ弱男のファロルの背中には彼の体の大きさに似合わぬ両手剣が携えられている
「それで?その傭兵志望君が俺達になんの用?」
ライカは少々面倒くさそうに応対する
「確かにこのラルクとシルヴィアは傭兵で、私とライカとメリッサは軍人だ」
アルトは一人一人名指しでファロルに向かって説明する
「やっぱり!銀髪の…ラルク、だっけ?アンタのその剣、軍で支給されてる物とは違うからな」
ファロルは眼を輝かせながらラルクの腰に着けてある剣に触れようとするが
ラルクはそれを拒む
幾つかの戦場を経験したせいか武器を相手に触れられるのには抵抗がある
「それで俺、傭兵のアンタ達の仲間にして欲しいんだよ!」
と、言われラルク達は円陣をつくり掛け声を出すでもなく会議を始める
「ねぇ、どうすんの?あの人…」
「悪い人ではなさそうですよね…?」
「バカバカしいですね、まず傭兵志望という時点でおかしな話しです」
「そうね、傭兵は名乗ればなることが出来るし…」
「だいたいあのほっせぇ体であの両手剣振れんのか?多分あの剣、俺のと重さ変わんねぇぞ」
「ま、ちょっと話しでも聞かせてやれば気が変わるんでない?」
ライカはちょっと真面目な顔にいつもの調子で言うと
ラルク達の会議が終わり答えに胸を膨らませながら待つファロルに向き直る
「ちょうど明日1日空いてるから話しぐらい聞かせてやるけどどうだ?」
「マジで?!やったぁ!!そんじゃ明日宿に迎えに行くわ!」
と言ってラルクの話しを最後まで聞く事なくファロルは嬉しそうに走って行った
そして翌日、ラルク達が宿を出ると予想通りファロルがソワソワしながら待っていた
「お、来たきた!遅ぇよぉー!」
「悪いな、んじゃ行くか」
ラルクはアクビをしながら適当に返事をして歩き出す
何をしに行くかというと
街の外れに訓練をしに行くのだ
別にファロルがラルク達にくっ付いて来ているからというわけではない
「ねぇ、傭兵って給料いいのか?」
「だってさ、聞いてるぜ傭兵さん」
ライカがちょっと面白がってラルクの肩を叩く
ライカはきっとラルクの出す答えが分かってしまっているから面白がっているのだろう
「そんなに良くねぇよ」
前を歩くラルクは後ろのファロルを振り返り素っ気なく答える
「傭兵と言ってもピンからキリまでですからね、そこらへんは軍人の方がいいんじゃないですか?」
シルヴィアは両脇にいるアルトとライカの肩に手をおく
「そうねぇ…ルシアの騎士団は末端の騎士でもそれなりに報酬はいいわね」
「という事は隊長格のアルトはかなり報酬がいいんですか?」
「そういう事になりますね…」
アルトはちょっと言いにくそうに小さな声で答えると
ライカ、メリッサのガルシア軍人からジト~っとした眼で見られる
「いいなぁ…ガルシア軍は傭兵とかと報酬変わんないしなぁ」
「もうちょっと報酬良かったら割りにあってるんだけどなぁ…」
ライカはヘラヘラと笑いながらも横目でファロルを見ながら答える
「でもでも、仕事何してんの?って聞かれて、傭兵って答えられたらかっこ良くない?」
ファロルはちょっと期待しながらラルク達の答えを待つ
だが、ラルクも素直に答えてやるつもりはなかった
というより彼の期待する答えは恐らくラルクは持っていない
「人殺して金貰うなんてカッコ悪りぃよなぁ」
ライカは笑いながら軽い感じで言うが
全員ライカの意見には頷いた
「そうか?かっこ良くね?」
ファロルの意見には誰も頷かない
非戦闘員のメリッサやセレンでさえも人の生死の悲惨さを目の当たりにしているからだ
「お前、軍人じゃダメなのか?」
途中で少し声の調子を落としてラルクは聞いてみたが、持ち直して聞き返す
「だって、軍人で偉くなっちゃうと前線に出らんなくなるだろ?やっぱ前線のドンパチやってるとこで戦いたいんだよねぇ」
ファロルはそこから堰を切ったように彼の持論を語りだす
「元々武器とか軍記物が好きでさ、趣味でとどめとこう思ったんだけどさ!やっぱ実現可能ってなってくると話しは違ってくるよなぁ……こう…戦いって、血がたぎるっていうかさ……………」
その後延々とファロルの持論を聞かされながら街の外れに辿り着いた
「さぁ!始めようぜっ!」
そこでおもむろにファロルはラルク達の前に出て
背中に着いている彼の体には似合わない両手剣を背中から抜く
剣を持つファロルの手は震えている
無論、彼の場合ラルクのように人の命を奪う事への恐怖ではなく
単に腕力の無さが彼の剣を持つ手を震えさせているのだ
「ファロル、そんな無闇に剣を抜いたら危ないですよ?」
セレンがファロルに剣を収めさせようと彼の眼の前に出る
「おっと、近づいたら俺の剣で君の鮮血が飛び散る事になるぜ?」
挑発するようにファロルがセレンに剣先を向けたのと同時に
彼に肉薄する影があった
「うわっ…!!」
ファロルの声と共に剣同士がぶつかり合う音が響く
空中に投げ出され地面に刺さったのはファロルの剣だった
「な、何すんだよ…?!」
ファロルは剣を弾き飛ばされた衝撃で尻もちをつき上ずった声をあげる
「お前、誰に向かって剣向けてんだ…?」
もう我慢ならなかった
ラルクは声を低くし思い切り睨みつける
ファロルの発言、そしてセレンに剣を向けた事
セレンがルシア王女だからというわけではない
セレンに戦う意志がなく、武器を持っていなかったからだ
無論、彼がメリッサに剣を向けていてもラルクはそうしただろう
「武器持ってない人に剣向けちゃダメでしょっ!」
メリッサにも叱られる
「剣を手にして気持ちが高揚するのはいいかもしれないけど。その剣、何のためにあるのかちゃんと理解してるのか?」
「お?そんならアルトんとこも騎士になるとき武器は何のためにあんのかって質問受けたんだ?」
こういう状況では真っ先にアルトが激昂すると思われたが
意外にも冷静にアルトはライカの質問に頷く
彼女の紅の髪が焔の様に燃え上がらずに済むようだ
「そ、そんな熱くなるなよ…?冗談じゃないか……」
いきなりラルクに迫られてビックリしているのか
ファロルはまだ地面に腰を着いたまま立てずにいる
「まぁ、お前さんは軍に仕えるより傭兵の方が向いてるわな」
ライカは呆れながらもファロルを助け起こすと
ファロルはケロっとした様子でまた口を開く
「そうだろ?やっぱ傭兵は力次第で待遇が全然違うからなぁ、早く戦場でバッサバッサ斬りまくって英雄になりてぇなぁ…!」
ライカに味方されたのが心地良かったのかまたファロルは調子に乗り始める
「そうそう、こういう危険思想をお持ちの方は軍じゃ雇ってくれねぇしな」
そこからとって返しライカはして演ったりといった笑みを浮かべる
「そうなんですか?アルト」
「えぇ、一応騎士の考え方としては…」
アルトの言う通りで、そうでないと世の中は力で全て支配出来る事になってしまう
現実はどうであれそうでないと騎士の存在が危うくなってしまう
「だから俺は傭兵になりたいって言ってんだろ!?」
ファロルもラルク達にたしなめられて段々ムキになってきたようだ
「でも雇ってくれるとこあるのかなぁ…?」
「大鴉の爪なら雇ってくれんじゃね?まぁ、任務まかされるとしたら退却する時に独りで時間稼げとかそんなんじゃない?」
要するに捨て駒という事だ
確かにハーロットならやり兼ねないし当のファロルもそれに騙されそうだ
「畜生っ!さっきっから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!!つべこべ言ってないで俺の相手しろ!俺の力を認めさせてやるっ!!」
そろそろ我慢の限界なのかファロルは再び剣をとりその剣先をラルクに向ける
ラルクもファロルの喉元に剣を向ける
「お前、さっきから人に剣向ける事しか考えてねぇけど、自分に武器向けられた時の事考えた事あるか?」
ラルクが確信に迫ったものの多分興奮してしまってる彼の心には響いてはいない
「うるせぇっ…!!!」
ファロルは奇声を上げながらラルクに襲いかかってくる
ラルクはそれをいつものように容赦せずに払う
相手が初心者だろうが傭兵に間違った憧れを持っていようが関係ない
自分や仲間の命を奪おうとする者がいるならそれを阻止しなければならない
大きく態勢を崩したファロルのわき腹に軽く刃を当てる
「うぐっ……!?」
ファロルは小さくうめき声をあげてその場に倒れこんだ
「ウワッ…!血が…血が!?」
ファロルは自分の脇腹から血が流れている事に気づき騒ぎ始める
「これで分かったろ?武器を持つって事がどういう事か…」
ラルクは剣を腰の鞘に収める
「自業自得、ですね」
シルヴィアはのたうちまわるファロルを見下ろしながら冷たく言い放つ
「もおっ!ラルクやり過ぎだよぉ!!」
メリッサがファロルに近寄り杖を使って治療魔術をかけようとするが
「メリッサ、悪いけど止血だけにしてくんね?」
ライカがメリッサの杖を抑えながらメリッサに頼む
「……分かったよぉ…」
メリッサも渋々了解する
「少しはいい薬になるかしらね…」
アルトも同意しているようだ
「うぅ……人でなし……!」
ファロルは乱れる呼吸から毒を絞り出しラルク達に向かって吐く
「人でなしですか、面白い表現ですね。僕達はその手に武器を取ると決めた時には罪との契約をしなければなりませんからね」
罪との契約…確かにそうかもしれない
「傭兵に憧れんのなんてよせ…俺達の仕事は殊勝な事言ってる割には誰も笑顔に出来ねぇから」
そして翌日
昨日あれからファロルを街の医師の元に届けてから一夜明け…
「どうでしたか?ファロルの様子は?」
セレンが心配そうにメリッサに聞く
セレンは昨日もファロルを運ぶ途中ずっと不安そうな顔を見せていた
「うん、時間はかかるかもだけどちゃんと直るってさ」
「よかったぁ…」
「俺達が処方したお薬、ちゃんと効くといんだけどねぇ…」
ライカがアクビをしながら言う
「でもちょっとやり過ぎよラルク?」
確かにファロルは民間人であり
その民間人を傷つけるというのは抵抗があった
彼が何も知らずに理不尽な権力者に命を捨て駒のように使われてしまうよりかはマシだ
「分ぁかってるって、方法が間違ってる事ぐらい…」
「ちょっとファロルに辛く当たり過ぎちゃったかな?」
メリッサの言う通りファロルには初めから危険な考えの持ち主の匂いを感じていたから
多少辛く当たってしまった所はある
「ファロル、立ち直れるでしょうか?」
やっぱりファロルが心配なセレン
「それは彼次第ですね、それに彼のような戦争に変な憧れを持った人はまだまだいますからね」
毎日毎日命の危険に神経をすり減らしながら戦う者からすれば
戦場に過剰な理想を持っている者の気が知れない
昨日もファロルが戦場に散れるなら本望だとかうそぶいていたが
そんな事は決してない
確かに覚悟はしているが
戦場にいれば死がその氷のようにおぞましく冷たい手で自分達を引きずり込もうとする
だからそれを振り切るために戦う、というのが自然な筈だ
「まぁでも、人でなしって言われた時はちとドキッとしたけどな」
「仕方ないわよ、私達は罪との契約を交わしたんだから」
アルトもあの時の彼の言葉を思いだすとさすがに苦笑いのようだ
だが、ラルク達もそれについて言い返せない
人が人を殺すなど元々人のする行いではないのだから
それをする自分達は…………
「みんなは人でなしなんかじゃありませんよ!!」
「そうだよ!もしみんなが人でなしだったら今頃アタシとセレンも殺されてるよ!?」
2人の反論を聞いているとなぜだか胸の奥底から小さな笑いがこみ上げてきた
「へっ…そうかもしんねぇな……」
「あんま安心してっと喰べちゃうぞ?」
ライカがセレンとメリッサの頭をポンポンと叩く
「そしたら私がライカの腹を割いて2人を助けるわ」
「そういう意味じゃないっての……」
そんな会話をしながらラルク達は街を後にした
もうこれ以上戦人を生み出さなくていい日がくるように願いながら……




