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ーUntil the Daybreakー  作者: Lauro
序章 ーin the Duskー
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第7章 ーGathered God of Cavalriesー

ラルク達はシリウスに促されるまま

彼等の陣営の中の1番大きな司令官ぐらいの役職の者が入りそうな天幕に案内された

中には白と黒の鎧を纏う男女の騎士と長い金髪の美しい女性がラルク達を笑顔で迎えた

「クラウディア将軍!」

アルトは透き通るような白の法衣姿の彼女を見るなり駆け寄った

「アルト、無事で何よりだわ!」

クラウディアとアルトに呼ばれた女性は見る者を魅了する白い頬に柔らかな笑顔を浮かべる

「なんかよくわかんねぇけど、ここにいる奴らは味方って事でいいのか?」

アルトに睨まれるところから察するに味方という事で大丈夫そうだ

「紹介が遅れて申し訳ない、私はルシア王国騎士団長、黒金騎士団隊長首席及び神将騎団隊長首席、神剣のシリウスだ。今回のセレン様の護衛の任、協力感謝する」

シリウスはラルク達に深々と頭を下げる

建前上下手には出ているが

彼の強者の覇気のお陰でそれが微塵も感じられない

「同じくルシア王国白銀騎士団隊長首席、神将騎団錦狼のクラウディアですわ」

クラウディアは淡い水色の瞳に笑みを浮かべるとすかさずライカがその瞳に姿を映す

「いやぁ俺は今日という日まで生きていて良かった…こんな美しい…っテテ……!」

「ふざけてる場合じゃないでしょっ!」

メリッサはライカのほっぺたをつねって制止する

「それで、話してくれるんじゃないの?なんで制圧されたルシア王都のアークにいるはずの隊長さん達がここにいるのか」

メリッサが先程の話しの続きを切り出すとクラウディアの朗らかな表情が真剣なものになった

「そうでしたね、まず最初に申し上げなければならないのは、王都が制圧され謀反の張本人であるのはグレイド様ではありません」

クラウディアがそう口にした瞬間

セレンの表情が安堵したような、またその事から別の不安に駆られたような表情になった

「…よかった………!」

しかし、隣に立つシリウスの紅の瞳はまた新たに深刻な事実を伝えようとしている

そんな眼だった

「しかし、グレイド様は今、相手方に囚われています…」

短いシリウスの言葉にセレンの安堵と不安が混じる表情はその感情の拮抗を無視して凍りついた

「そんな…っ!!ではお父様は…お母様は…エルシアは無事なんですか…っ?!」

一気に不安の底に落とされ

セレンは瞳を潤ませながらシリウスにすがりつくように聞く

「グレイド様はエルシア様と共に相手方の捕虜になっていると聞いていますが、残念ながらセリエ様はわかりません……アルト、君は依頼の要請の際に何か聞いているか?」

「いえ、私は何も……城を抜ける何日か前から面会を禁じらていたので…」

アルトの答えにシリウスは眉間にシワをよせた

「そもそも、なぜ王国一の騎士と称される神剣と錦狼が揃っていながらこんな謀反を許してしまったのですか?」

シルヴィアは質問を投げかけ

投げかけられた側のシリウスとクラウディアは一瞬答えに詰まった

それには少なからず自らの責任というものが含まれているからだ

「実は、この度の謀反は多くの離反兵を出しておきながら事が起きるその時まで貴族院の中で極秘裏に動きがあったようです……」

クラウディアは視線を斜め下にやりながら答える

「そして、謀反が起きる数日前から私とクラウディアの隊はグレイブシェイドで起きた過激思想を持つ学生が暴動を起こし、その鎮圧という偽の任務で王都を離れた隙に……」

シリウスは己の軽率さを呪うように奥歯を強く噛みしめる

その姿から彼等2人の神将騎がどれほど主君を大切に思っているかが伺える

「それで、女王達の居場所は掴んでいるんですか?」

「はい、セリエ様達はダンケルク城に囚われているようですわ」

ダンケルク城、あながちハーロットの手紙の内容も嘘ではなかったようだ

「それと、セリエ様達の救出にあたっては黒獅子の牙から協力を得る事が出来た」

どうやらラルク達の知らないところで着々と反撃の準備が進められているようだ

という事は急がなくてはならない

多くの血が流されないためにも

「ゲルダ殿は貴殿らの今回の作戦への参加を条件に助力をして下さるようだが?」

シリウスはラルク達を見回す

「大将から言わせりゃ、グレンさんの弔いなのかねぇ…」

ライカは独り言のように呟いたが

その瞳の奥で既にゲルダの意志に同意していた

「分かった、協力する」

ラルクもそれに応じた

セレンの両親達を助けるというのが勿論1番だが

もしかしたら、父を手に掛けたセルシウスと再び対峙出来るかもしれない

心の奥にはそんな期待もあった

「シリウスっ!私も連れて行って下さい…!!」

セレンはシリウスの前に出て懇願する

そのすがりつくような彼女の声の調子からもセレン自身が精神的に追い詰められているのが分かる

「セレン様、申し訳ありませんが今回の作戦は非常に危険です。もしセレン様に何かあったらと思うと私達も気が気ではありません」

シリウスがやんわりと語りかける横でクラウディアはセレンに小指を差し出す

「セレン様は昔から指切りはお嫌いじゃありませんよね?」

クラウディアの微笑みに

セレンはゆっくりと細い彼女の小指をクラウディアの細くて長い小指と絡める

「では、明日の昼に黒獅子と合流する。それまで各自自由にしてくれ」

そう言い残しシリウスとクラウディアは天幕を出て行った

「姫様んとこの騎士様はシャレた事すんねぇ…」

「じゃあアタシ達も指切りしよっ!」

メリッサがライカの小指をとる

「指切りってなんの約束?」

ライカが為されるがままメリッサの小さな小指を絡める

「アタシ達が将来結婚するって約束ぅ!」

メリッサは絡めた指を揺らそうとするが

ライカはどうやったのかメリッサのしっかりつ組まれた小指からスルリと自分の小指を抜く

「メリッサがもうちょっと大きくなったら考えてやるよ……」

ライカはいつものようにヘラヘラ笑いながら

メリッサに背中を向けて手を振り天幕を出て行った


ラルクも適当な所で天幕を出て陣営の中をうろついていた

傭兵になったものの軍の陣営の中に入るというのは初めての経験だった

陣営の中と言っても騎士達は武装をしているが緊張感がほとんど伝わって来ない

言わば戦場の中にある街であり

戦場の中であるのに陣営の一歩出た先の戦場は遠い土地で起こっている事のように感じてしまう

そんな事を思っているとラルクの視界の端に紅い髪がなびくのが映った

「おいアルト、武器の手入れ用の油貸してくれよ」

ラルクが声をかけたが

届かなかったのだろうか、アルトは夜の闇に消えていった

「待てよアルト!」

アルトを追いかけようとしたが

「心配するのはいいが女性の行動の詮索はいささか野暮ではないか?」

覇気と落ち着きを持った声が背中から聞こえて振り返る

「アンタか…」

銀髪の毛先に紅を混じらせ

銀髪の部分が月明かりを受けて弱く光っている

シリウスがラルクの後ろに立っていた

ラルクがあからさまに残念そうな顔をしたにも関わらず

シリウスは紅の瞳ににこやかな表情を浮かべる

「少し話さないか…?」

そうラルクに持ちかけた

構わないとラルクも返事をしシリウスの後をついていき

ラルク達は陣営から離れたところにある小川の畔に腰を下ろした

耳にひと時の安らぎを与える水の流れる音と共にラルク達に涼しい風を運んできてくれる

「彼女の様子が気になるか?」

シリウスが先程の話しの続きを持ち出した

「まぁな、最近は色々あったしな…」

目線を右下に反らしながら答える

「その歳で傭兵団を率いるというのも苦労が絶えないだろう」

「アンタ程じゃない…それに、いずれこうなる事は決まってたからな……」

何もこんなにも早くその時が来なくてもいいだろうと

ラルクは心の中で今は亡きグレンに言った

「グレン殿もきっと君と背中を預けあって戦えるのを楽しみにしていると思うぞ」

シリウスに悪気が無いのは分かっている

だが、こんな言葉がやはり出てくる

「親父は死んだよ………セルシウスに殺された……」

それを聞いたシリウスの口元から出てくる言葉がフッと消えた

「そうか…グレン殿が……すまない、気の毒な事を聞いてしまったな…」

シリウスは静かに頭を下げた

それだけを見ても自分の父が広く尊敬をかっている事が分かる

「別に気にしなくていいさ……戦いだったんだ、仕方ない…ってのはアンタはよく知ってるだろ?……それより、アルトと久しぶりに会ってアンタから見て何か変わったとことかあったか?」

その場の空気が重くなりそうだったから話題を変えてみた

「そうだな……少し見ない内にまた美しくなったな、セレン様は城にいた時よりイキイキしていらっしゃる」

シリウスは笑顔を交えて答える

「そうだなぁ…変な事聞いちまったな。そんじゃ俺もう寝るわ……」

気のせいかと思いながらラルクは大きく欠伸をして立ち上がり陣営に向かって歩き出すと

シリウスの声が背中を追いかけてきた

「しばらくの間、彼女から眼を離さない方がいいかもしれないな…」

その言葉をラルクは背中で受け止めながら闇の中へと消えていった


ラルクが陣営に戻って来ると皆既に寝静まっているようだった

無論、見張りの騎士ぐらいはいるだろうか

音も影もない陣営の中に夜風にその紅の髪が遊ばれて揺れるアルトの後ろ姿があった

「アルト」

背後に静かに近づき軽く肩に手を置くと

「ヒャッ…!?」

アルトは小さな肩をビクッと震わせ振り返る

「ラルクか…驚かすな!」

少し引きつった表情でアルトはラルクを叱る

「わりぃな、さっき陣営を出てくのが見えてさ、独り肝試しでもしてたのか?」

ちょっとふざけて聞いてみたが

ラルクの聞きたい事はきっと悟られているだろう

「散歩だ……誘った方が良かったかしら…?」

アルトは右の眉をピクリと動かしながら答えた

「じゃあ今度誘ってくれよ?いくら俺達の姐さんつっても夜のひとり歩きは危ねぇからな」

ラルクの言葉にアルトは紅く潤んだ唇を柔らかくほころばせた

「心配してくれてるの?じゃあしっかりエスコートしてね?」

アルトは右眼でウィンクしてラルクに背を向けて歩いていった

「エスコートしてね…ってガラじゃねぇだろ……」

ちょっとアルトの真似をしてみたが

結局アルトには上手くかわされてしまった

その悔しさも含めて去っていく彼女の背中に呟いた


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