第7章 一Scarlett's name of Flameー
4分の1刻程の後、陽が今日の役目を終えその姿を消した頃
ラルク達は予定通りミラクに着いた
「夜のせいってのもあるかもだけど、全く人いないね…」
メリッサの言う通り例の誘拐事件が解決してもこの港街は廃れてしまったように閑散としている
こんな様子を見続けていると本当にここはルシアとガルシアの玄関口なのか?と疑ってしまう
「メリッサ…」
不意にアルトにそう言われると
メリッサは聞き返すでもなくセレンの手を引いて陣形を取るラルク達の中心に入る
「出て来いよ?かくれんぼって歳でもないだろ?」
突然のラルクの声が生暖かい潮風に乗って建物の間を抜け響き渡っていく
「フッ……随分と感がいいのね…?」
やたらと艶っぽい声が潮風に乗ってラルク達の耳に返ってくる
「出来れば会いたくなかったわね……!」
アルトは眉間にシワを寄せ一歩後ずさった
「あら、私は会いたかったわよ?親衛隊長様」
聞いていて首筋がゾクゾクするような艶のある声と共に1人の女性が路地から姿を現した
その女性はやたらと露出の多い黒の法衣に端麗な容姿ではあるが
どこか相手をその場に跪かせて自身の言いなりにしてしまいそうな視線でこちらを見ている
「やはりお前もそちら側か……!」
「怒ると折角の美人が台無しよぉ?でも、当然アンタ達の側につくはずないでしょ?」
女は相手に鋭い印象を持たせる切れ長の群青色の眼に挑発するような笑みを浮かべる
「シルヴィアの口振りからして何かあると思ったけど、お前だれ?」
ラルクの声に気づいた女は彼女の1番の特徴の
アルトより少し濃い静脈血のような紅の長い髪を風になびかせなから揺らし
ラルクの方に向く
「あら、いつから我が麗しの姫は男を引き連れて淫蕩生活に耽るようになったのかしら?」
女の言葉にセレンは肩をピクッと震わせメリッサの後ろに隠れる
「フフッまあいい……自己紹介が遅れたわね、私はルシア王国白銀騎士団隊長、神将騎、紅蓮のスカーレットよ」
「へぇ、キツそうだけどなかなかアルトみたいに美人じゃん?」
ライカが覗き込むようにしてスカーレットの妖艶な姿を眺めていると
勿論メリッサに睨まれる
「こちらの事を知ってか知らずか僕の予想通り出てきてくれたので色々と聞かせてもらいましょうか?」
そう言いながらシルヴィアは懐からゆっくりナックルダスターを取り出す
「ふーん…あの自己陶酔男の手紙通りのこのこダンケルク城にガルシア軍を連れてこないだけバカじゃないか……」
「ダンケルク城は恐らく囮、陽動作戦でもするつもりでしたか?検問の騎士達が逃げる方向で分かりましたよ」
シルヴィアは挑発するような調子で動揺を誘った筈だったが
スカーレットは気にしていないどころかラルク達を嘲笑するような笑みを浮かべる
「あの役立たず共には死んでもらったわ。まぁ、そのお陰でアンタ達をここにおびき寄せる事が出来たわ…!」
「死んでもらったって…自分の部下を殺したって事…?!」
メリッサが信じられないという表情でスカーレットに問い詰める
「そうよ、私の部下に役立たずは要らないわ」
淡々と笑みを浮かべながら答える彼女にラルクは何か冷たい物が背筋をなぞるような感覚がした
彼女には人の情という概念が無いのだろうか
「ヒドイ……!」
メリッサは眉尻を下げながらも服の裾をギュウッと握りしめる
「外道が……!!」
アルトは切れ長の紅の瞳をさらに鋭くし彼女を睨みつける
「さぁ、無駄話しはこの辺にして始めましょうか……」
スカーレットが指を鳴らすと
閑散としていた建物の中や路地からぞろぞろと黒の鎧を纏った男達が出てきて
ラルク達はあっという間に囲まれた
スカーレットの方に眼をやると彼女の傍には魔導書を持った白の法衣を纏う女性達が控えている
恐らく彼女達はスカーレットの直属の部下だろう
今回の謀反は主に剣や槍といった普通の武器を使う黒金が全てだと思っていたが
魔導士を主力とする白銀も謀反軍には少なからずいるようだ
「あれぇ…シルヴィア君?ちょっと数が多くはないかなぁ?」
ライカはそんな事をシルヴィアに投げかけながら戦闘態勢に入る
ざっと見たところ敵の数は十分に市街戦の戦線の一部を担える程の数だった
いくら遊撃専門の傭兵のラルク達やその類のライカもこの数相手だと流石に分が悪い
「全員倒せば僕達の知りたい事を聞きだせるのでは?」
こんな状況でもシルヴィアは冷静だ
という事は何か策があるという証拠でもある
「みんなお互いに離れないで戦うんだぞ」
ラルクも覚悟を決めて剣を抜く
何とかするしかない…!
剣を握るその手に力がこもる
「いいかお前達!セレン様だけを生け捕りにしろ!それ以外は殺して構わない!!」
スカーレットの号令に騎士達は一斉にラルク達に向かってくる
その勢いにラルク達は一歩後ずさる
「眼を瞑って下さい、相手の足が止まった所を一気に攻め込みます」
シルヴィアがそう言いながら詠唱を始めると
アルトは魔導書を取り出してちょうどシルヴィアの魔術が発動するのに合わせて詠唱する
どうやら攻撃範囲の広い2人の魔術で一気に勝負を付けるつもりだ
そして、騎士達が目前にせまった時眼を瞑っていても痛くなる程の眩すぎる光が夜の港街に広がり
一瞬朝が来たのかと錯覚してしまう
一方まともに光を眼に受けてしまった騎士達は眼を抑えながら悶絶する
次の瞬間にはアルトの繰り出した無数の風の刃が騎士達の体を切り裂いていく
圧倒的な数の差もこれで覆されたかと思われたこの状況にも関わらず
騎士達の後方から焔の渦が前衛の騎士達を飲み込みラルク達に迫ってくる
彼女の二つ名はその紅の長い髪から来ているかと思われるが
この灼熱の焔こそが彼女が紅蓮と呼ばれる由縁なのだ
飲み込まれていった騎士達は体を焼く業火に悶えながら生き耐えていく
それをシルヴィアは微かに唇を動かし障壁を出現させて相殺する
焔と障壁が両者の間から消え去り彼らは追撃もせずに睨み合う
「…………」
「…………」
その間はラルク達も彼女の指示を待つ黒金達にも理解が及ばない間だった………
「そこまでだスカーレット」
両者の長い沈黙を破りその場に1人の男の声がこだます
「この声は……!?」
セレンがハッとして彼の声の足跡を探す
「ッ…!!邪魔が入ったか……!」
スカーレットもシルヴィアから目線を外し舌打ちをする
「ここは人々の住む街だ、ルシア王国の法では民間人が巻き込まれる可能性のある場所での交戦は許されていない。ましてやここはガルシアの地、速やかに兵を退け。もし君がそれを拒むのなら、私の剣を受けてもらおうか?」
よく通る声と共に黒金が同じ黒い鎧だが軍の装備には過ぎた意匠を凝らした鎧を纏う騎士が
こちらに向かってくるのが見えた
その騎士が通ると一応彼の部下でありながら彼と対立関係にある黒金が道を開けていく
「シリウス!!」
さっきまでスカーレットに怯えていたセレンがそれを払拭してくれた騎士をそう呼んだ
銀の髪の毛先に所々紅を混じらせ
蒼い宝石のような瞳を持つシリウスと呼ばれた騎士は
苦虫を噛み潰した様な表情を見せるスカーレットの前に剣の柄に手を掛けながら立ちはだかる
元々シリウスは体が大きく威圧感があるが
剣の柄に手をかけるとさらにその威圧感は膨れ上がる
その姿にラルクはグレンやオルドネスやゲルダと同じものを感じた
「フンッ…!化け物の相手をする趣味は私にはないわ……!」
スカーレットはシリウスに背を向け騎士達を従えてラルク達の前から去っていった
「セレン様、長く貴女のお側を離れていた我が身の不義をどうかお許し下さい……」
スカーレット達が去って行ったのを確認し
シリウスはセレンの前に跪き首を垂れる
「シ、シリウス…どうか立ち上がって下さい……それよりどうして貴方がここに?」
セレンが慌ててシリウスを立ち上がらせながら最もな質問を投げかけた
「はい、すぐにでもその旨をお伝えしたいのですが、ここではまた先程の様に敵に狙われるかもしれません。街の郊外に私達の陣営がありますのでそこでご説明致します、君達もついて来てくれ」
シリウスの指示にラルク達は頷いた




