第6章 ーTrial of Justiceー
翌朝、ラルクはシルヴィアを伴い玉座の間に入ると
オルドネスが玉座に着き両脇にはゲルダとライカが控えていた
もう見慣れた光景だが、やはりグレンはいない
心の内では分かっている事だが、見ただけではいつもと差して変わらない
だから、昨日までの出来事が夢であったのではないかと錯覚してしまう
「よぉ、ラルク!」
ライカがラルクとシルヴィアに気づく
どうやらいつもと様子は変わらないようだ
「メリッサはやっぱ……」
ラルクは視線を落とす
当然だ、いきなり立ち直れと言っても無理がある
「ごめ~ん!遅れちゃったぁ!!」
突然メリッサの明るい声が聞こえてきた
「メリッサ…!?」
走ってきたメリッサは勢いよくライカに抱きつく
「な?大丈夫だろ?あとは…」
ライカがメリッサを引き離しながら言う
「やっぱりライカも隅に置けないわね…」
声が聞こえる方を振り返るとアルトがこちらに笑顔で歩いてくる
「アルト、大丈夫なのか…?」
昨日のとは全く違う彼女の様子にラルクは正直驚いた
「平気と言ったら嘘になるわね…でも、前に進まないと…ね?」
そこで笑顔を見せる彼女にラルクはただただ、彼女の強さを感じた
「あとは、セレンだけだな…」
「あの様子だとどうでしょうね」
シルヴィアは冷たく言い放つが、あながち否定も出来ない
だが、信じている
「大丈夫だ、きっと来るさ」
きっとセレンなら乗り越えられると
「みんな、遅れてすみませんっ!」
ラルクの期待通りセレンの声が聞こえてきた
「遅いですよセレン様」
アルトをはじめ皆セレンを笑顔で迎える
「よし、みんな揃ったから始めてくれ」
ラルクはオルドネスの方を向き直った
「それでは始めよう…と、言いたいところだが、貴公らはまだ第3の試練が終わっていなかったな」
と今後の話しではなく、有無止むになっていた試練の話しをオルドネスは持ち出した
「第3の試練は何をすればいいんだ?」
試練という言葉を聞くとどうしても身構えてしまう
「まぁそう身構えるな…最後の試練は貴公らの心を問いたい」
オルドネスが口元を緩ませるのに対して
ラルクの隣にいたシルヴィアは少しバツの悪そうな顔をした
「それでは貴公らを代表してラルク、貴公に問いたい…」
オルドネスの顔から笑みが消え緊張が走る
「貴公は今まで幾多もの命をその手で奪ってきた、これからもそうだ……して、貴公はこれからそれをどう背負って行く?」
オルドネスの問いにラルクは少し黙り込んだ
そして、再び口を開く
「俺のやっている事は紛れもなく罪だ、やってみて初めて分かった、人の命を奪うという事は怖い……だけど、それを背負っていかなきゃ守りたいものは守れない、だから逃げないで背負っていくと決めた…!」
ラルクは真っ直ぐオルドネスを見つめた
「覚悟は出来ているのか?」
改めてオルドネスはラルクに問う
ひとりの戦人として守るために罪との契約書に血で自らの名を記す覚悟はあるのかと
「もう俺は覚悟をした……強くなって大切なものを守るために…!」
罪との契約だ
二度と同じ過ちを繰り返さないために
誰かを自分の弱さによって失わないために
「覚悟は出来ているのだな……よかろう、合格だ!」
ここでやっとオルドネスは再び顔を緩ませた
「やったなラルク!!」
ライカが祝福の思いを込めてラルクの肩を叩く
「おめでとラルク!みんなで頑張ったからアタシも嬉しいよぉ!!」
「あぁ、みんなありがとな…!!」
やっとここで笑顔が零れる
自分達の力がエデンの二分する覇者に認められ
力を借りる事が出来るのだから
「感動の瞬間に水を差して悪いのだが…時にラルク、グレン亡き今、信託の剣の新たな団長は貴公で良いのだな?」
オルドネスの質問でラルクの笑顔が固まる
「俺?……が団長…?」
「なんだ?グレンに聞いて無ぇのか?俺達にはラルクを団長にするってグレンのヤツは前から言ってやがったけどな…?」
ここでゲルダがやっと口を挟んできた
「いや、俺こういうのガラじゃねんだよ……アルトなんかどうだ?」
と、さり気なくアルトに振ってみる
「私は愛しのセレン様をお守りする親衛隊長だからな、しっかり頼んだぞ!ラルク」
「愛しのだなんて…恥ずかしいです…!」
セレンは紅くなる頬を手で抑える
「俺も愛しのセレン様をお守りしてぇなぁ…」
「ライカには愛しのメリッサ様がいるでしょ?
「へいへい…お守りすりゃいんでしょ…?」
「じゃあシルヴィアは?」
「子供の僕には荷が重過ぎますよ団長」
こういう時だけ子供ぶるなっ!
ちょっと頬が緩んでんのは、お前面白がってやがんな!?
あと、今さり気なく団長って呼んだよな!?
その流れで決まっちゃったらどうすんだよ…
でも、本当は既に答えは決まっている
父の遺志を継ぐというのは色々考えさせられる所があるが
背負って行きたい
「…分かったよ、俺が親父の後を継ぐ、みんな力貸してくれよ?」
頭を掻きながら渋々了解した、という感じだ
仲間やゲルダやオルドネスを見回すと皆暖かく受け入れてくれているようだ
親父…親父の遺したもの、守らせてもらうぜ……
「よく言ったラルク!エライぞぉ!!」
メリッサがラルクの頭を撫でようとするが背が小さくて届かない
「何か腹立つ…」
逆にメリッサの頭を乱暴に撫でる
「…で、今後の事なんだが……」
再びオルドネスの声が聞こえた
オルドネスの言おうとしている事の次第はラルクにも大体予想はついていた
ルシア謀反軍のガルシア国内への侵入
敵の意図は分からないにしろ武力衝突は避けられないだろう
それはガルシアの国家思想が物語っている
「今回のルシア謀反軍の暴挙で俺達は大義名分を得る、また被害が出ぬ内に報復に出なければならない」
オルドネスは鋭い眼光で語った
仲間に手をかけられて黙っている者など…
「あの!少しお待ち頂けないでしょうかっ…?」
セレンだった
彼女はその小さな手を胸の前で握っていた
「何を待つのだセレン殿?」
オルドネスは目を眇める
「ですから、できれば私達の国と戦うのを少し待って頂けないでしょうか…?」
控えめな言葉だったが
言い方には遠慮が見られなかった
「だがお嬢、俺達はセルシウスの野郎にこれ以上好き勝手させるわけにゃいかねぇ…!」
普通のガルシア人ならこんな生易しい反応はしないだろう
だが、今のセレンの言葉なら
誰よりも先に激昂しそうなゲルダがこうも耐えているというのは
相手が相手だからだろうか
つまり、謀反の首謀者であるグレイドが自分達の友人であること
ふたつ目にグレイドがセレンの父である事
か弱くいたいけな少女に懇願されては
ガルシアの覇権を握る2人の覇者もその願いを無下にもできないのだろう
小さな女の子に目の前で泣かれてたじろぐ大人…といった感じだろうか?
「それは十分承知しています…だからこそ本当に戦うべきは誰なのか、ちゃんと知りたいんです…!」
「ですが反乱の首謀者はセリエ様の夫君であるグレイド様と以前エルクで分かった筈です、受け入れたくない気持ちは分かりますが…」
流石のアルトもセレンの弁護をしずらいようだ
「はい、しかしなぜこのような事が起こったのでしょうか?お父様がこのような事をするとは考えにくいんです…」
「ですが実際問題黒金の騎士にセレンの命を狙われています、信じるのはいいですが程々にしないと死ぬのはあなたですよ?」
シルヴィアの言葉がセレンの信じる気持ちに刃となって突き刺さる
「よせシルヴィア…確かに俺も戦う敵はハッキリさせときてぇな、無駄に命を奪いたくねぇからな……で、セレンはどうしたいんだ?」
ラルクが聞くとセレンは勢いよく顔を上げた
「私、直接お父様に会って本当の事を聞きたいんです!……だからそれまで戦うのを待って頂けないでしょうか…?」
セレンの瞳は一国の主を惑わせる程の真っ直ぐな澄んだ瞳だった
「じゃあさ、それラルク達に依頼しちゃえば?」
一国の行く末が左右しそうな場面でメリッサが軽い感じで提案する
「確かに今自由に動けんのはラルク達だけだしな、どうよ大将?」
ライカも話しの内容を更に軽くしオルドネスに提案する
聞かれたオルドネスは深く深く息をつき
「………いいだろう、少し待とう…ただし、長くは待てんぞ…?」
オルドネスは歯切れが悪く答える
当然だ、一国の主の采配次第で国民の命が守られる事も失われる事も出来るのだから
「ありがとうございます!!!」
セレンが深々と頭を下げる
たったの一言だが、彼女の言葉にはきっとたくさんの覚悟が含まれている筈だ
「だが条件がある、先の事で大鴉の爪の首領ハーロットが敵に与している可能性が高い。奴の動向を明らかにしルシア王国の謀反を明らかにする…この条件を飲めるならばしばしの猶予を与える事が出来る」
「俺達はそれで構わないが、セレンはどうだ?」
一見ハーロットと謀反の事は関係がなさそうに見えるが
ハーロットが離反した黒金騎士団に協力している事から
ハーロットを探れば何かが分かるかもしれない
というのがオルドネスの考えだ
「はい!そうさせてもらいます!」
シルヴィアもそれを見越して何も口を挟んで来ないのだろう
セレン独りでグレイドの元におめおめと向かわせるよりかはマシだろう
「では正式に依頼してよいのだな?」
オルドネスが改めて聞く
「信託の名の下に、引き受けよう」
ラルクは団長の座を
グレンの守りたかったものを受け継いだ事を自覚しながら
誓いの言葉を口にした




